42 歌と推理
カラオケでもないのに歌をうたう。伴奏もついていない調子っぱずれな歌は十年前にヒットした歌だ。車内のラジオを消して突然歌い出した彼を私は見る。
正直、好きな歌ではない。この歌の来歴は有名な曲だったから知っている。
映画のイメージ曲だ。今になってみればよくある悲劇だ。人が死ぬだけで映画が売れる、という言葉でよく現れている。私はその言葉が嫌いだったため映画は見ていない。
しかし原作は知っている。私は映画を見る際には原作があるなら読んでから映画を見るタイプだ。
「問題」
「なに?」
「なんで俺は今この歌を歌ったでしょうか?」
知らないわよ、呟きながらこの男との来歴を思い出す。
両親が再婚して私達は姉弟になった。私は邪険にしながら弟は健気に、高校時代の友だちに言わせれば忠犬、付き従っていた。今も車を動かしているのはこの男だ。
男は笑って答えてよ~、とつぶやく。その態度にイライラしながら私は好きだから、と答えた。
男はえ? と間の抜けた顔をして私を見た。しれっとして私は前を見ろとつぶやく。運転中だ、危ないだろ、イライラする。
「お前がその歌を好きだから、違うか?」
「違うよ、姉貴!」
なんでテンション高いんだ、突っ込む気力すらなく私はリクライニングシートを少し倒す。
「俺、この歌の映画嫌いだし」
「それは私もだ」
「そこまで言ってなんでわかんないかなぁ」
それを聞いてもしかして、と思う。言葉にする。
「私達が姉弟になったから?」
そう! 男の声に私はうるさいと言いながら腹を擦った。
「親父達が俺たちの仲を良くしようってんで連れられたけどめっちゃつまんなかったよなぁ、あれ!」
私は見る前から嫌だったから気分が悪いということを理由に車の中で待っていった。
そして、車にこの男がやってきたのは驚いた。
「姉貴、本読んでたよな」
「そうね」
「十年経つ」
「そうね」
「その記念だよ、姉貴」
「そう」
笑う男に私は素っ気がなかった。
「気まぐれでしょ?」
「違うぜ、姉貴。俺は思い出したからじゃない、思い続けてたから今日歌ったんだ」
「ふぅん」
「そこは聞いてあげるのがいい女の条件だと思うぜ、姉貴!」
「聞かないであげるのが強い女の条件よ」
それもそうか! 納得し、私は男の態度にイライラとしていた。
「言いたいことをはっきりしているのがいい男の条件だ」
「言わないことがはっきりしているのは強い男だよな、姉貴!」
意趣返しか、ふぅ、とため息をつく。
「私の本」
「ん?」
「なんでこの本を読んでいるでしょう」
質問に男は頭をかしげていた。いい加減事故にあってもおかしくない、と思いながら前といった。
タイトルを言う。
男はわからない、とつぶやく。
そう、と私は言う。
そして会話は終わる。
答えは十年前の思い出だったからだ。
十年前、私は男の隣でこの本を読んでいた。男は口やかましくかまってくれといっていた。私は仕方なしに本を貸し読ませたが、数分で寝入った。
「あ!」
男が声を上げる。
答えを言う。言って、その真意を確かめる。
私は言う。
「待っているやつはお前ばかりじゃない」
「それは期待していいのかよ、姉貴!」
イライラしながら答える。
「私の名を呼べるくらい仲良くなったら、考えてやるよ、愚弟」




