33 水と天使
アイデアを思いつくまでに時間はかかったけど、オチが思いついたらあっさり。
池がある。そこは昔から天使が住むと言われる。落とした物を尋ねそれと同じ種類のいい物と凄くいい物を提示し、落としたものを正直に答えたら両方共もらえるというのだ。よくある民話であるためこの天使に出会った落とし主は正直に答えるというのだ。
だが、戦争が起こり池を訪れる人がいなくなった。
そのため池の天使はすっかり見なくなり、伝承も絶えてしまったのだった。
そして、戦争が終わり、とある少年が池を訪れた。
理由は道に迷ったから、だ。
ふぅ、と息をつき電子ブックを持ちながら歩き出したら、石に毛躓いてしまい、転んでしまった。
「あぁ、電子ブックが」
手にしていた端末が池に落ちたではありませんか。
途方に暮れ、どうしようと思っていると少年に語りかける声がした。
「貴方が落としたのは金の本、それとも銀の本?」
まるで違うものだったので、少年は伝承を知らなかったから反射的に「電子ブック」と答えた。
そして、決まりきったセリフを天使が言おうとして口ごもった。
問いが降る。
「電子、ブック? え? これって本じゃないの?」
「本だよ、端末を使うだけで色んな本が読めるんだ」
金の本と銀の本を小脇に抱えて天使は初めて見る機械に目を輝かせていた。
天使のこの契約魔法とでも言うべき現象は、天使の理解を超えるものを提供することが出来ないのだ。今で言えば昔はなかった電子ブックのせいで天使が提供するものはかろうじて定義が同じである「素晴らしい本」というくくられる金と銀の本を提示するしかなかった。
それ故天使はこの珍妙なものに興味を示し、本来の契約を超えて少年に強請った。
「お願い、金と銀の本をあげるからこの電子ブックというものを譲ってくれないかしら」
少年はう~んと困ったような顔をして、それからいいよ、とシブシブではなく喜んで答えた。
そして少年は金と銀の本を受け取り天使は電子ブックを受け取った。
それから天使はまた池の中へと戻った。
少年はつぶやく。
「濡れていないからいっか、この本は高く売れるだろう。それに電子ブックは防水性じゃないからもう故障しているだろうし、電子マネーがないと他の本も読めないから悪さも出来ないだろう」
少年はこの不可思議な現象に驚きもせず、淡々と現実的だった。
次回は指輪と車輪です。
では早い再会を祈って失礼します。




