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32 明治と語り部

思ったよりすんなり出てきた。

 明治代わって大正と元号を改めた日の本、帝都東京にて一人の語り部がおった。

 口先達者でもう長いこと語り部の仕事をやっている。それも明治が始まったころからやっているというのだから、それは相当の年数が経つ。

 語り部、といっても講談ばかりではなく最近流行りの声のない白黒仕立ての映画に声を付ける漫談なんていうのもやっている。

 しかして、本領はやはり講談が光る。聞くものをとりこにする軽妙にして旨味ある人を酔わせる魅力がある。しかも、悪酔いしないと来たのだから大衆はこぞって語り部が好きだった。

 とある日ある寂れた辻で語り部に出会った男がいた。

 これが噂の語り部かと、そこそこ世情に明るい彼はその風体の奇妙さに目を見張った。

 まず、異様に口が大きい。たらふく食えるなと思うが、その一方で背丈は低い。子供をそのまま大人にしたという比喩抜きの言葉が当てはまる。

「やぁやぁ、お客人、笑える話をご所望か?」

「そんなことはない、私は――大正が生きにくいと感じている」

 へぇへぇ、それはそれは、とニコニコ笑っている。その態度がバカにしたようなものと男は感じた。

「貴様のような口の達者な輩はどんな時代でも舌先三寸で生きていけるだろう。だが、俺のような滑稽味のない男が生きていくのは、大正は生きにくい」

「いえいえ、そんなことはありませんよ、見たところ工場の人だ」

「ど、どうして分かった、話してもいないのに」

「簡単な類推です。昨今工場は目を見張る発展遂げている、けどその裏に隠れて苦労している人も大勢いるだろう、そしてお客人は割と年配の方だ。若い方なら夢を見る、老いた方なら現実を見る」

 あるいは辛い面ばかり見るといったほうがより適正でしょうか、語り部の言葉は怒らせるものではあるのだが、話し方でかえって笑えるようにしてしまう。

「なるほど、貴様はたしかに語り部だな」

 そう言って彼は懐から巾着に入れた小銭を何枚か渡した。

「お客人、ありがとうございます、お礼と言っちゃなんですが、ちょいとした詭弁を献上したいと思います」

 そこは男も帝都の人間である。滑稽味はないが解することは出来る、この芸に付き合ってみたいと思った。

「明治開闢と大正の軍人さんとときます」

「その心は?」

「へぇ、どちらも維新(威信)が必要でしょう」

 男はなるほどと思い、更に小銭を与えた。

「お客人もこの詭弁でこのご時世を乗り切られるといいですね」

「そう謙るな、詭弁ではあるが心動かされたぞ」

 へぇ、身に余る光栄、語り部は人好きのする笑みを向けた。

 お客人と読んだ男が去るのを待って語り部は独白する。

「この話には続きがあって、未来にも遺臣が必要なんでございます」

 若者が時代を作るが、老人はその若者を導くのだ。

 どちらが偉いというわけでなく、両輪。

 この国がこれから起こる悲劇を知っているのは語り部だけであった。

二段落ちですね、この手合はわりかし得意、というよりは作り方として好きですね。



構成がはっきりしていて王道である、というのが理由なのでしょう。最近書いた中では一番面白いのではないかなぁ。



次回は天使と水、デス。天使と水といえばガブリエルですが、どうなることやら。



では早い再会を祈って失礼します。

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