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26 羊飼いと擬人化

ホラー。おかしい小文字を使うことはなかったはずなのに。

 怪談という風習は洋の東西を問わずある。違うのはその意味だ。

 平時においては怖いもの見たさから、戦時においては怖いものは戦であるから超常の存在を匂わせ士気を削ぐ間者の手段。また、逆もしかり験を担いで士気を上げるのにも使える。

 西洋において怪談は常に苛烈なる十字教の征伐の種火だった。

 あるものは思い通りにならない女を魔女と言い火炙りにし、あるものは根付いた放浪人を異端の教えを広めているとうそぶきその財を奪おうとした。当然、流浪の民が悪さした場合にも使う。

 彼がその異端と思しき話を聞いた時何か惹かれるものがあった。

 羊飼いがいるという話だ。その職業は因果なもので腕が立つほど十字教に睨まれるというのだ。理由は簡単で理解が出来ないからだ。理解が出来ないという自身に対する非は考えず、盲目的に悪魔によるものだと疑うのだ。

 羊飼いがいる、それも凄腕の、そこまで聞けばそれだけの話だ。けれども、そこで終わらなかった、羊飼いが何をもって優れているかという話を聞いて彼は身震いした。

「犬を使わないで統率するんだと」

 これは怪談ではない。たしかに奇妙ではあるが恐れを覚えるような話ではないだろう。

 しかし、彼はこの話を怖いと思った。彼自身も羊飼いである、というのが理由だろう。厳密に言うならばだった、と過去形になってしまうのだが。

 家庭を持ってしまったことが原因だ。今では農家になり定住して夏の暑さと冬の厳しさに耐えて精を出す仕事をしている。

 怪談ならざる怪談に耳を立て彼はその羊飼いにあってみたい、と思った。おそらくは自分よりも若いであろう羊飼いがどのような仕事をしているのか、というのが気にかかったという程度だ。

 彼はうわさ話をしている男たちに話を聞いて村を出てすぐある草原にいるという話を聞き、彼は赴くことにした。

 日が傾きかける中彼はうわさ話を反芻していた。犬を使わない、というのも気になるネタではあったが、それよりも気にかかり、それよりも羊飼いが羊飼いにかぎらず家畜を扱うものの禁忌をしている事が気になった。

 名前をつける、ただそれだけだ。それだけで禁忌になる。

 名前が許されるのは英傑英雄がともに戦場をかける戦馬や愛玩の犬猫に限る、それ以外は呪縛に変わりない。

 名を与えれば情がわく。それは自然の摂理だ。

 日が傾き夕景の黄金が沈もうとする中彼は羊飼いを見つけた。

 驚きがある、三つだ。

 一つは本当に犬がいないこと、これは小さい。すでに知っていたため、本当だと知ったことの落差は少なかった。

 二つは本当に統率がとれていること、これは少し大きい。気の多い羊たちを統率を取り指向性を持たせて動かすのは軍隊の行軍よりも難しいのではないか、羊飼いだった彼はそう思っている。その為、自分よりも優れ若いということに嫉妬や感嘆がある。

 三つはこれは本当に驚いた。

 羊飼いが女だったのだ。

 プラチナのゆるやかなウェーブがかかった豊かなブロンドにとおった鼻梁、唇は歌を口ずさんでいる。まるで子守唄のようで、彼は幻惑されていた。

 彼は知らなかった。東洋における怪異と出くわす時間というのは今の黄金が消え星辰と月の幻舞が始まり暗闇の帳が落ちるこの時間。

 ――名を、逢魔ヵ時といった。

 貴方、声がする。問いかけであることに気付いたのは目の前に忽然と現れた女が睨めあげてきたからだ。

 もう一度、問いを発する。そして、彼は思う。何なのだ、と。

 その疑念、至極当然であった。女の姿形は美女といいっていいが歳は若いようにみえる。鈴を鳴らした美声であるという期待があった、そうでなくとも可愛らしい澄んだ声である、と。

 現実には違う、一言で醜悪、言葉を尽くして魅惑の美貌に反して汚らしく嗄れた老婆の詰声といい、言い過ぎることはないだろう。しかし、それも的確ではない。何故、醜悪というか?

 ――声が、幼女や老婆のものになる?

 問いが続く、彼はもう聞いていたくなかった。しかし、逃げることはしたくなかった。

 その感情が熊のような猛獣に出会った時に抱くものと同質である事に気が付かず。

「どうし、て、こん、な所、に?」

 村まで送って行きましょうか? 笑顔が向けられる、その笑顔もまるで何十年も眠りようやく起きて顔の筋肉が表情を忘れ絞り出したような笑みだ。容貌が美しいだけあって震えしぼむ。

「だ、だいじょう、ぶ、だ」

 なんとか、声を出し自身を鼓舞する。

「お前は羊飼いだな?」

「え、ぇ、えぇ、そぉです」

 舌っ足らずな、あるいは言葉が覚えたてなのか。

「犬は、どうした」

「ぃぬはこわぃです、私達をせ、きたて、るぅんですから」

「な、名前をつけてるんだって?」

 ちがぃますよぉ、女は言う。

「かれらのなまぇで、すなまぁえでよぶの、わ、とうぜぇん」

「お、お、おまえは羊を殺さないのか? 売らないのか?」

「けわうりぃます、なかまをころ、すのはぁ、ひとだけでぇしゅょお」

 気が触れている、あるいは、彼は思う。

 ――この女は、悪魔なのではないか。

 つい、言葉にしてしまう。

「お前は、何なんだ?」

 女の声に彼は大声を上げて去っていった。


 女の姿はもはやなかった。それは比喩ではなく現実的に羊飼いが去ったというだけのことだ。

 彼はそれから布団にこもるようになってしまった、暗い部屋でブツブツと十字架を握りながら何かから逃げるように呟いている。

「あいつは、悪魔だ」

 そのつぶやきが誰かに聞かれたことはない。だが、村人は彼が悪魔にとりつかれたのではないか、噂をするようになった。

 噂が村にある十字教の教会に届いた時にはその男は死んでいた。

 餓死だ。

 羊飼いの噂はもう上がらなかった。真実がどんなものか誰も知らない。

 今日も麗しにして醜怪なる羊飼いは闊歩する。彼女が何者か、彼が見たのは悪魔なのか、誰も知らない。

というわけで、羊飼いと擬人化でした。


明言はしなかったですけど、言葉にしてしまうと陳腐になってしまう、ともにょる私w 羊飼いが何者なのか誰も知らない、作者も知らない、ということで一つw


だいたい子の話で役2400もじなのですが、大体一時間半くらいかかりますね。考えながら書くという風にしているので早いのか遅いのかわからんたん。



お題を決めねば、あ、ランダムでですよぉ。


では、早い再会を祈って。

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