24 杖と清浄
初秋の風を感じるちょっとしたミステリィ。ある意味モルグ街の殺人に通じるかもw
今年は友達と山に行くんだろうか? 割と行きたいけどなぁ。
「全くけしからん」
長年連れ添った夫が癇癪を起こすことは彼女にとって慣れたことだ。けれども、この激情は間違ったものではなく順当だ、とも思う。
定年退職し娘息子らは巣立ち、趣味の登山に没頭できるようになり歳にもかかわらずネットに詳しい夫のお陰で登山でも辛く無いよう補助杖と登山靴を買ってもらい彼女も夫の登山に付き合うようになった。
秋が始まりだした頃の登山である。紅葉狩りには少し早かったが深まる秋を予感させ彼女は気分が良かった。だが、夫の怒りももっともなことと思いながら、何故自分が他の登山者のゴミを持っていなければならないのか、と疑問だった。
夫はゴミのポイ捨てに対して怒っていた。菓子袋から見るに若い登山者だろう、夫は歩きながらぶつぶつと言っていた。
「むっ」
降りてくる登山者がいた。しかし、自分たちと同じくらいかそれ以上の年配でこんなハイカラなお菓子を買うようには見えなかった。
そのため営業マンで鳴らした夫は気のいい笑顔とこだまになって響くのではないかと思われる大きな声を出して挨拶をした。敵ではないと判断したのだろう。
「山頂は気持ちのよい天気でしたよ」
「そうですか、それは楽しみだ。どちらから登られてきたんです?」
この山は登山口が何種類かある、山頂から降りてきた男性は○○ですと答え、大変でしたと愚痴を漏らした。
「トラックが横転しましてね、何か荷物を運んでいるトラックみたいでドライバーが対応に困っていましたよ、そのおかげで私は回り道して登ることになりました」
そういって彼女らは別れの挨拶をし、山頂を目指した。
そうして登ること三時間かけて山頂に辿り着いた、しかしその中に若い登山者は全く見なかったのである。
「むむむ」
「どうしたんです、お爺さん、変な声上げて」
「お前は不思議に思わないのか?」
「何がです?」
「若いもんに会わなかったことだ」
「そうですねぇ、じゃあ消去法ですよ」
「でも、あった人たちは気のいい登山者だ。腹の中までは見えんが、あ、いやお菓子とかけたわけではないが、ともかくゴミを捨てるような人たちには見えない」
「そうですねぇ、不思議ですねぇ、あっ」
そして、彼女は見た。
「お爺さん、犯人がわかりましたよぉ」
そう言って彼女の指さした先に犯人がいた。
――猿である。
「あ、こいつ、なんで持っているんだ?」
「多分、このお猿さん、言ってたじゃないですか荷物が横転したトラック」
「そうか! それでお菓子をかっぱらってきたんだなぁ」
合点がいったようでお爺さんは笑っていた。
「これも環境破壊ですかねぇ」
「人間がその最たる例というわけだが、こういうこともあるんだな」
「百匹目の猿にならないといいですけどねぇ」
そうだな、夫は困った笑顔を浮かべながらジリジリと猿に近づいていた。
というわけで、杖と清浄でした。
とりあえずあっしは頭の周りがいい方ではないので、紙にお題の意味を書いて考えます。そうしてうまい具合に繁殖してくれると書けますねぇ。ブラックホールは難問だったな、たぶん今でも難問w
次回は歳の差と幼さでお送りしたいと思います。似たようなお題でどのように描けるのか、割と楽しみであります(いっつも言ってんな―)
では早い再会を祈って失礼します。




