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02 時計と味方

主人公がクズです。リアルクズです。

 働かないで食べる食事ほど愉快なものはない、彼はこう考えている。

 労働というのは人という種における必要悪だ、誰も嫌がるのにやらなければならない。そうしなければ生きることが出来ない。

 では、と自分を省みる。

 その必要悪をせず、生きるための食事をとれる自分はある意味において人間を超越しているのではないか?

 そう彼は考え親から受け継がれた時計を取り出す。街に出ながらなにを食べるかを思案していると、声をかけられた。

「その時計は――」

 後ろから声をかけられ彼はビクリとしながら振り向く。

 一見すると旅人のようだった。湯浴みをしていないのだろう髪は少し不潔で秋口の風を避けるために着た防寒着は薄汚れていた。

「どうしてその時計をお持ちですか?」

 言葉に彼はむっとしながら親から貰ったと答えた。

「お、おぉおぉ、で、では貴方がラウル様のご子息で」

 と、父の名を叫びいきなり涙を流して崩れ落ちる旅人に彼はうろたえながら、事情を聞いた。

 聞いて後悔した。

「貴方は魔王を倒すための――勇者なのです」

 取り敢えずそこら辺の酒場で話を聞いて見ると、父と友人だったバグズガムという人物らしい。そして、この世界を脅かす魔王がいるということだった。

 熱心に続けるバグズガムの言葉を聞きながらどうやって断るか彼は考えながら、最も自分らしからぬ言葉を告げた。

「し、仕事があるから旅はちょ、ちょっと」

「魔王を倒すよりも大切な仕事があるのですか!」

 少なくともあんたの妄言に付き合うよりはマシだ、とつき返せないあたり彼は小物だ。だが、言葉を続けなければ魔王を倒すという奇行を強制させられる。

「は、母を――」

「奥方が、どうしたのですか?」

 母を養っていかなければならないのです、と彼はとっさに言った。家で粛々と料理を作ってくれる母をだ。

「それならば仕方ない」

 ほっ、と胸をなでおろした彼は後悔する。

「じゃあ、働けよアベル」

 いきなり自分の名を呼んだバグズガムはニィといやらしく笑った。

 種を明かせば成人しても定職につかない彼を心配した母が父の友人に相談しだらしのない息子を働かせるようと画策したわけだ。

 この場だけ凌げばなんとかなる、と彼は思ったが、どうにも逃げ出せない。

「俺は一つだけ魔法を使えてね、心から肯定したことを自分から逃げ出せなくする、というもんだ」

 だから、お前はもう働くしかない、断頭台のようにバグズガムはつぶやいた。

 だが、と彼は続ける。自分が働ける場所がない、と。

「それくらいなら、用意している、詐欺じゃないぜ?」

 そして自分の逃げ場がなくなったことを感じる。

 酒場で注文した料理がちょうどよく届く。

 これが最後の愉快な食事だ、と思い――また愉快な食事が取れるのか?

 そのことだけが彼の心配事だった。

 まぁ、杞憂なのだが。

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