19 果実と祝福
このお題、割と難産しました。ヒントは果実の特性というところにありました。灯台下暗しというやつだな。
彼はズボラ爺さんといった。妻と一緒に生活して、農作業はするが大雑把にしかやらず細かく仕事をするということができないでいた。それでもそこそこの土地を持ち、果樹園を持っていたため日々の生活にそれ程の苦労は覚えていなかった。
そんなある日、隣に住む大地主のいい爺さんが街に出かけるのを見て、ズボラ爺さんは声をかけた。
「やぁやぁいい爺さん、馬車でもって街に出かけるのかい?」
「そうですとも、いやいや楽しみでして」
ズボラ爺さんはてっきり街の観光のことかなと早合点した、その早合点が良かった。いい爺さんは丁寧に自分が街に行く理由を教えてくれた。
「いやいや、儂は街に酒を売りに行こうとしておるのですよ」
「酒?」
まだ酒というものの作り方が普及していなかった時代のことだ。街に行って売りに行くといいお金になります、いい爺さんはにこやかに笑った。
「よければ、お酒の作り方を教えましょうか?」
丁寧に酒の作り方を教えていい爺さんは去っていった。しかし、これはよくなかった。
ズボラ爺さんは丁寧に教えられても、ザックリとしか覚えられずしかも酒を作るのに大事な根気というものがまるでなかった。
そして、妻に言われて、そういえば酒を作っていたのだ、と思いだしズボラ爺さんは発酵させていた果汁を見た。
臭気は鼻をつく匂いをしている。味を見てみると、とても酸っぱい。
「これが酒なんじゃろうか?」
面倒になりながらズボラ爺さんはとなりのいい爺さんに尋ねた。いい爺さんは困ったように尋ね返した。
「これなんでしょう、とても酸っぱいですが」
「うむ、酒じゃ。いい爺さんに教えられたとおりに作ってみたのじゃが」
「これは発見ですねぇ、発酵させすぎると酸味の強いものになる」
いい爺さんが褒められるものだから、ズボラ爺さんは有頂天になって街へ売りだそうとした。
しかし、当時酒を発酵させすぎて作られたその調味料がどんな価値を持っていたかわかっていなかったためズボラ爺さんの思ったほどの価値で売れなかった。
ズボラ爺さんはこういうこともあるか、妻に愚痴りながら二度と酒モドキを作ることはなかった。
そして、これは余談なのだがその調味料が酢と名付けられ価値が認められるようになり、ズボラ爺さんから酢を買った商人が契約を結ぼうとしてズボラ爺さんを探したのだが、すでに死んでいたのだった。
とぼとぼと帰ろうとした商人を呼び止めたのはいい爺さん、その息子だった。
「どうされましたか?」
「いやね、私は数年前にズボラ爺さんから酢を買ったものなんですが、爺さんの作った酢が一番うまかった。だから、この酢を商品にしたいと思って契約をとりに来ようとしたのです」
「あぁ、ズボラ爺さんなら死んでしまいましたよ」
「そうですか」
「代わりに息子さんがいます。彼に話を聞いてみては?」
そうして、ズボラ爺さんの息子と話してみて酢を商品にすることに商人はこぎつけ意気揚々として帰っていった。
帰った後いい爺さんの息子とズボラ爺さんの息子は話をしていた。
「まさか、いい爺さんの言うとおりになるとはなぁ」
「爺さん、きっとあの調味料が金になる日が来る、っていって君ん所のズボラ爺さんが作った酢の作り方を研究していたんだもんね」
「そんで遺言で俺に商品になった際の権利を譲るときたもんだ」
「我が父ながらすごい人だよ」
「酒を作れなかったことが、恩寵だったな」
違いない、そういって息子たちは笑い酒を酌み交わしあった、という。
書ける幸せw
実際果実酒の作り方はよく知らないので厳密には違うかもしれませんが、そこはフィールでお願いします()
では次回は迷路と米です。早い再会を祈って、失礼します。




