18 絵本と寿命
絵本があんまり絡んでいない件
とりあえずバカボンのパパとは関係はありませんw
一世を風靡した、という言葉は何時の時代国を問わず何人かいる存在である。
彼もそのような人間だ。
仕事は童話作家でダークな話を書き評価されてきた。
風靡した、過去形で語られる経歴には理由がある。彼は童話作家でいられなくなったからだ。
まず資格はなにかと考える。それで一番に来るのが絵が描けるということだろう。
彼は絵が書けなくなってしまった。
それは心的なもので、ついには物理的なものになってしまった。
最初の要因は物書きの職業病的なもので、何を書いていけばいいのか解らなくなったというものだ。
彼は娘のために書いていた。彼の心を支えるアトラスは、なんとも小さな少女だった。
少女はいつか女になる。それは当たり前のことだ。
いつしか娘は父親の童話を必要としなくなり、彼もそれにより何のために描けばいいか解らなくなってしまった。
娘は独り立ちし離婚してしまった彼は独りになった。
物理的、といえば二種の響きがある。
因果の簡易と、恐怖の簡易である。前者はこうなったからこうなったと軽々しく説明できること。後者はその意味を深く考えることによって解るだまし絵のような感覚だ。
彼に照らし合わせてみればどちらに恐怖を覚えるかといえば、恐怖の簡易ではなく、因果の簡易だ。
彼は自らの商売道具、腕の筋を――絶った。
その経緯に至った心理は彼自身もわかっていない。気付いた時には自分の腕を切っていたのだ。
病院に運び込まれ彼は精神科病棟に入院することになった。
付き添いに来る人物は彼の担当だった。彼女は彼のことを心配しているようだったが、時間が経つにつれ世話を焼くことも面倒になったのだろう、ついに来ることはなくなった。
何者でもないものになった自分を振り返り、積み上げてきたものが無に帰る悦楽を感じながら――死にたいという欲求に飲まれてしまう。
それでも彼は生きながらえてきた。精神科病棟で暮らしながら八ヶ月という歳月を拘束され、友と呼べる同病の同胞も見つけた。社長と呼ばれる友だ。
彼は社長をやっていてこの不況で倒産し家族も四分五裂したという回答に困る経歴の持ち主だ。
一回首をくくろうとして息子に助けられ、その後家族は別れたのだという。
助けた息子も父が抱えた借金の返済に追われ、社長としてはここを出たらどうするんだ、と彼は尋ねた。
「な~んも考えてねぇ、まぁ、取り敢えず借金は返さんとなぁと思っている」
息子に悪い、ってか悪すぎるからな、カラカラと笑いながら社長は春風吹く丘の公園で水を向けた。
「お前こそどうすんだ物書き」
「とりあえず実家に帰ってみるよ、別に俺は犯罪者じゃないからな」
娘の所に厄介になるって考えはねーの? 社長はあけすけなく尋ねる。
「娘は海外にいる、たしかにソッチの方が偏見なくて助かるかもしれないが」
「オヤジの矜持、ってやつ?」
まぁ好きにせーや、酒が禁止されているため花見の席でもジュースという締りのなさが堪えた。
「花が散るな」
「花は散るもんだ」
「散った後に葉をつける」
「実を結ぶためにな」
「俺らは実を付けられるだろうか」
「それは俺ら自身の力量だ。お天道様もあるが、それすら味方につけるのが腕の見せどころだべ」
社長は笑う。
――花は散る。
だが、花は散ることを恐れない。
散った花を惜しむことなく葉をつけ前へ進み実を結ぼうとする。
俺は――彼は宣言する。
「宣誓、俺は物書きとして盛りを過ぎた!」
そして、言う。
「然れども、終わったのではない! 花が散っただけだ! 実を結ぶため、俺はもう一度文壇で戦う!」
よっ、よく言った、社長の合いの手にほかの精神病者がぱちぱちと拍手し、引率の看護師が周りの迷惑になりますから騒がないでくださいと、興を削ぐ。
これでいいのだ、彼は笑った。
おっさんは書いてて悲しくなる。哀愁ただよう系はキツイでござる。
まぁ、書いてて自分もこうなるんではないかという投影してしまうのです。その分わりと楽しかったなぁ。
では次回は祝福と果実です。早い再会を祈って。失礼します。




