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14 ブラックホールとすれ違い

このお話に出てくるネタは科学的根拠に基づいた、モノではないのでお気をつけてください。

 それは銀河を揺るがすほどの罪人の護送中の出来事だった。

 宇宙船マーニの艦長ソルは突如行動不能になった管制室で絶望的な危機に陥ったことを察した。

 オペレーターはこういったのだ。

「このままではブラックホールに吸い込まれてしまいます!」

 危険を伴う任務であることは承知をしていた、しかし、こんな状況は想定外である。

 艦橋では慌ただしく動き回る部下たち、その中で一報を告げる声が上がった。

「艦長、ロギアが、見張りに話しかけているそうです」

 ソルはそれを聞き、部下に指示を与えてからロギアのもとへと向かった。

 ロギア、そのおぞましい名前とその由来を彼は思い返していた。

 重度のサイコパスにして超能力を持つ大量殺星者だ。それだけのプロフィールでも危険度がどれほどかが解る。

 彼の超能力は意識を与えるというものだ。それによって開拓下の星の住民全てに自分が殺されるという強迫観念を与え殺し合いをさせ、そして星をも殺したのだ、それが一回や二回ではきかない。ソルの属する治安組織で認識しているだけでも十から十五は滅ぼしているのだ。

 そして、彼は組織を作り上げ、人類の宇宙世紀最大悪人である言える存在である。

 ソルは十重二十重と言って差し支えないほど厳重に警備されたマジックミラー越しにロギアの声を聞いた。

「あ、艦長さんですか? わざわざスイマセン」

 超能力を感知しその危険度によって脳死させる拘束眼帯をつけ見えるはずもないのに気づいた声をソルは前世紀二十一世紀には消えてしまった悪魔、という比喩を感じずにはいられなかった。

 声音に飲み込まれないようリードする、ノブリス・オブリージュを強いられる艦長である自分にはまずそうしよう、そう思ったと途端に飲み込まれた。

 ロギアは言葉にする。

「今回、私が捕まるのは私の計画でした」

「なんだと?」

 部下が言ってくれたのは本当に都合が良かった、ソルはそう思いながらまず尋ねることから始めた。

「どういうことかね?」

「僕のような悪党を迂回せずこのルートで護送するには艦長のような人物しかいない、といったんです」

 部下に目配せ吠えさせる演技をさせる。それがロギアが演出する三文芝居の悪夢のように見えてソルは背筋が寒い思いだったが、それでも自分の意志だ、と言い聞かせながらロギアの話を聞いた。

 ロギアは治安組織をからかいたかっただけだと笑いながら言った。

「僕の組織に治安組織の艦隊ですら無力化出来る凄腕のクラッカーがいましてね。このままだとブラックホールに行っちゃいますね」

「他人ごとのように言うが、ロギア、このままだと死ぬのは貴様も一緒だ」

 そう、このままなら、とロギアは語る。目を見ることも出来ず頬と口、顎しかみる部分しかないのに、しかし形作られた笑顔は見るものを取り込む魔性とも善性ともつかない見るものを期待や不安を抱かせる。

「僕に能力を使えるようにしてください」

「そうやって貴様が私達を操り洗脳しないとどうして言える」

「あれ? 知らないんですか?」

 ロギアは笑いながら言う。

「――悪魔は嘘をつかないんですよ?」


 そうしてロギアの警戒レベルを下げ観測室へと拘束帯をつけたまま連れてきた。

 道中ロギアは語る。

「ブラックホールに意識を与えたいんですよ」

 途方も無いことだが実際ロギアにはそれをすることは出来る。

 それによって無生物でありながら、まるで生き物のように動いて回る雪像や鉱物、果ては火山や大海などもいたのだから。

「それによってブラックホールの引力を自発的に弱め、危険域から脱すると言った、まぁ、小難しい理論は語りませんよ、私もわからないのですから」

 観測室に来てまず起こったのは驚きの声だ。それを抑えソルはまず尋ねた。

「貴様の言うとおり観測室に連れてきた、さっさと意識を与えろ」

「えぇ、そうしましょう」

 そういってロギアはブラックホールを観測している装置の前に立った。そこに座っていた観測員はロギアを見て悲鳴を上げて立ち退いた。

 それを見ながらソルはロギアの隣に立った。

「どの種の意識を与えるんだ?」

「えぇ、恥じらいです。ブラックホールが吸い込むことに対して恥を覚えるような意識を与えるのです」

 たしかにそれは出来るかもしれない、ソル艦長は思った。ブラックホールの引力は無限ではなく制限することが出来るという学説に覚えがある。

 そして、ロギアは超能力によって“意識”を照射した。そして、これによって引力が弱まった。

 誰もが歓声を上げる中ソルだけが問題が解決していないことに気がついた。

「――ロギア?」

 悪魔が目を見開いたまま倒れている。口も開いており、かろうじて呼吸はしているがその生命が風前の灯であることが容易に見て取れた。

 それに伝播するように観測室が悲鳴のような報告をあげた。

「引力、再び強まっています!」

「ロギア、貴様! どういう――」

 そこに来てソルは気がつく、ロギアが死んでいることに。

 艦内に絶望が渦巻く。そんな中艦内放送が流れだした、そしてこの声の主は死んだはずのロギアだった。

「この放送を聞いている時、僕は死んでいるのでしょう」

 ソルは艦橋の放送室に向かった。

「僕はブラックホールに意識を与える、そう言ったはずです。その通りです、僕はたしかにブラックホールに意識を与えました」

 しかし、と続く声がどこかイタズラをバレた子供が見せる笑みが含まれているようだった。艦橋にはまだ遠い、ソル艦長はそこに来て無線を所持していることを思い出し、状況を確認した。反応はある。相変わらずコントロールは復帰していないようで、この放送も消すことが出来ない様子だ。

 放送が続く。

「ただ、それが僕が言ったものではなく、なんと――僕自身の意識だったのです」

 だから、僕は人間としては死にました、そこで無線で制御を取り戻した事を知り艦長は急いで艦橋に入った。

「悪魔は嘘をつかない、僕はそう言ったはずです、けれども違うのです」

 指示を出しソルは宇宙船マーニをブラックホールになったロギアから逃れようと全速力で脱出した。

 人間だった、ロギアの最後の言葉を聞きながら。

「悪魔は――本当のことを言わないのです」

 それが、最後になると思わないまま。

あまり出されたお題をスマートに捌いたとはいえないですねぇ、お待ちいただいた方や、せっかく読んでいただいた方にはスイマセン(^_^;)では次回は音と森というお題です。ちなみにこのお題はランダムです、一応言ってみると。では、早い再会を祈って失礼します。

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