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12 民族と偽名

民族部分はあんまりうまい捌き方ではなかったですねぇ。

「続いてのニュースです――」

 電波受信端末の画面に今日の出来事から世界情勢や天気予報を背広姿のニュースキャスターが読み上げる。時折コメンテーターが一言つぶやき、それについてあぁでもないこうでもないと言葉をかけ、結局問題は解決しない。

 当面ニュースを聞いている彼は耳とその間と耳へと流していた。

「社長、今月もノルマ達成していませんです、ハイ」

 社長、と呼ばれたよれた皺くちゃなスーツ姿の彼は部下の話を聞きながら頭を抱えた。

「どうすんだよ? え? 俺たちゃ警備会社だ、一応食いつなぎ程度には稼げているけど、いずれ――」

 そこまでいって社長は自分が言葉にしなかった未来が足音を、それこそスキップする勢いで近づいていることを予感して汗にまみれた髪をかきむしった。

「おい、クソ広報、なんかいい手はないか、この際手段は問わん、ってか選んでられない、ってか選んでたら俺が殺す、いや殺すまではしないけど減給する」

 なんとも小物めいた事を言い出した社長に広報の彼は至極正論をいった。

「我が社は他の会社に比べ劣っているところがあります。それは宣伝力です」

「コマーシャルでも作れってか? それが出来るほどある金が無いのわ、知っているよな、おい」

「そうでなくても、何か話題性、それこそこのニュースの番組に出るような活躍をすれば――」

「続いてのニュースです、怪盗一族を名乗る――」

 ニュースを聞きながら社長は自身に奔る典型に身震いをしながら呟いた、というか叫んだ。

「これだぁあああああああああああああああああああああああああっしゃああああああああああああああおらあああああああああああああああああああああああ」

「社長、他テナントに迷惑がかかります」

 広報の冷静なツッコミも耳に入らない様子で社長は起死回生の手の構想を構築していた。


「う、ウチに怪盗一族が!?」

 さびれた美術館、その館長はニコニコと愛想よく、あるいは何か気味の悪さを覚える笑顔でいる、警備会社社長に対して驚愕の表情を刻んでいた。

「えぇ、えぇ、はい、そうなんですよ、で、でですね。ちょっとお値段はりますが――」

 そう言って商談に入りながら警備会社社長は自分の構想を広報に伝えたことを思い出していた。

「怪盗一族をでっち上げる?」

「そうだよそうだよ、いいか、今怪盗一族といえば名うての泥棒だ。どこにでも出ること、加えて知名度は高い、なんかニュースで言ってたな、予告状を送るとか一昔前のマンガかって―の、でもそれがいい、むしろ助かる、ありがとう、捕まってくれて」

 そこまでいって広報は慌てたように声をかける。

「ちょ、ちょっと待って下さい、普通それ警察とか盗みたいものの持ち主に送るんじゃ?」

「そ、れ、を、グウゥゥゥゥゥゼン、そう偶然俺達が見つけるんだよ、偶然。その内容考えとけよ、これも肝だからな」

 さり気なく難題を広報に押し付けいよいよ社長は笑みを深くしていく。

「で、だ、ぶっちゃけそんな事したって怪盗一族は来ない、だから、だぁかぁらぁ、だ・か・ら!」

 うるせぇ、広報はおくびにも出さず促す。

「怪盗一族の偽物を用意するんだよ」

 そこに来て広報も話が見えてきた。

「メディアに勝手に記事を書かせる、それによって宣伝する、ってことで、いいんでしょうか?」

 広報のため息をつく姿を思い出しながら社長はにこやかに商談を進めた。


 商談を終え、ひとまずネクタイをゆるめた社長は美術館を覗いた。これでも若い頃は美術商、ではなく手酷くふられた女の趣味で美術品を見ていたため、ここにある品物のほとんどが安い贋作であることを見ぬいた。

 それでも真贋のほどはさほど問題ではない。人間真贋で物を見ているのではなく自分のフィーリングに合ったものがそばにあることに充実感を覚えるものだ。もっとも社長は真贋というよりもっと即物的で金の価値で見ている。

 まず帰るか、思いながら一人の青年、美術館の館員のようだ、に目を留めた。なにが惹かれたか、特に見るところはないような青年だ。

 睨まれた、そんな気がした、だから気になったのだ。

 では、睨まれるようなことをしたか、もちろんしていない。

「おい」

「はい?」

 今までの顔を消したように愛想笑いをした青年に社長は怪しんだ。

「今夜、怪盗一族が来るんだとさ」

 なんとは無しに告げた。

 一瞬間がある。気にならない程度ではあるが、社長は気になる。

「え、そうなんですか?」

「あぁあぁ、そうだとも、でも大丈夫、オジサンたちが美術品を守ってあげるからね」

「あ、警備会社の方でしたか」

 ふむ、と顎に手を当て社長は笑う。

「そうそう、これから怪盗一族を捕まえて一気に有名になってくからね」

 サインあげようか? と愉快そうにいいながら、眉を八の字に寄せた青年が困りながら断り入れたのを見て社長は残念と言って美術館を後にした。

 二つの電話をして。


 怪盗一族は焦っていた。自分に落ち度はなかった、そう思う。だとしたらこれは偶然なのだろう。

 盗品を隠すにはもってこいの場所だ。人が来ず、盗品を入れた大型トラックが来ても何ら不自然ではないこの場所とその地位。

 暗闇で怪盗一族はカツンカツンと鳴り響く廊下を歩いていた。誰も居ないことを確認しながら夜を歩いた。懐中電灯は使わずサーモグラフィを頼りにする。

 故、その異変に気づいた。

「――誰かいる」

 口の中で思わず呟いた言葉に絶望を覚えた。

 仕方ない、こうなってしまっては盗品がどうのとは言っていられないまず身の安全だ。逃げることを選んだ。

 だが、もう遅いということを怪盗一族は気づかなかった。というより考えの中になかった。

「よう! サインあげようか?」

 夕方大仰な態度を撮っていた社長がそこに立っていた。


「まぁず、俺がついたうそを教えよう」

「嘘?」

 社長はコロコロと笑いながら答える。

「今日怪盗一族が出るって言ったの、アレ嘘なんだ」

「なにを、言っているかわからないですね、僕は忘れ物があったから――」

「忘れ物があったから、そんなぴっちりしたタイツのような格好をして、忘れ物をしたからサーモグラフィで電灯も点けないで歩いていた。まぁ黒だわな」

 社長はなぶるように断定する。

「あと、君が知っての通り怪盗一族が来るっていう事自体が嘘。ごめんちょ☆」

 ジョーキョーショーコー、社長はいう。

「君、俺を警備会社の人って言ったな。それがオカシイと思った」

「どこがです、失礼ですが警察の方には見えなかったんです」

「いやいやいやいや、別に失礼じゃないよ? たしかに俺の格好は制服さんには見えないもんねぇ、ウン」

 でもさ、笑みに細める眼が青年を射抜く。眼光というべきだろうか、青年はその光を怖いと思った。

「でも一般人はニュースを見てる。んで、警察に届けられた予告状、この情報があーる―のーに、ねぇ、ねぇねぇねぇねぇ!」

 なぁんで、社長はトドメとばかりに言葉にする。

「警備会社ってわかったのぉ? ウン、いいよ、君は少し事情通だ、そういうことにしよう。俺のような小さな警備会社の社長の顔を解る事情通、怪盗一族の手口の仔細を知り尽くしている程度にジジョーツー」

 そして、終わりにする。

「君、怪盗一族なんだろ?」


 それから、身柄を拘束し警察を呼び盗品が怪盗一族が犯行の際に盗んだものと解り青年は逮捕された。

「おい、チンピラ」

 知り合いの刑事に社長はそう呼ばれる。

「ダンナ、せめて社長って言ってくださいよ」

「チンピラが嫌なら変態って言ってやろうか? もっと普通に話せないのかよ」

 ショーブンでして頭を下げて社長は答える。

「館長は白だな」

「えぇ、そうでしょうね、あっしが来たこともよくわかっていないのは演技じゃなかったですからね」

 それだけ言って刑事は去っていく、それに社長は追いすがった。

「ちょ、ちょっとちょっっと、それだけですか?」

「文屋には好きな様に吹いていいが、それだけだ、よけいなことはいわないこと」

「へいへい、わぁかりましたよ」

「ちなみに、だ」

 刑事は告げる。

「てめぇのしたことは詐欺罪だ、嘘から出た真だが、その事実が変わらないことを覚えておけ」

「でんも役に立ったでしょ」

「よく言う、警察の情報力を利用したくせに」

 刑事の言葉に二つの電話を社長は思い出していた。

「あ、ダンナ? 私です、社長です、あぁ、あぁ、切らないで――怪盗一族のスタイルを教えて欲しいんですよ」

 流儀の方だ。それによって社長は確信を高めた。怪盗一族と警察でなければ知り得ないことをあの青年走っていた。情況証拠だ、どこまでいっても。けれども、社長は探偵ではない。

 そして、もう一つの電話は青年に話したとおり部下に対してのものだ。

 元々今日の予定ではなかったんだ、事件が起こるのは。

 なにが悪かったのか、あの青年怪盗一族に取りなにが悪かったのか。

「――間が悪かったんだよ」

 納得できることではないだろうが、納得したら受けいられるかといえばそうではないのだろう。

昨日(2014/08/10)農地に投稿できるかと思ったら出来なかったのがちょっと残念。さて、次回は霧と舞踏というお題でやってみようかと、もちろん何かリクエストございましたらご遠慮なくどうぞ。では、また次回お会いしましょう。

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