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教室。  作者: 麻倉龍之介
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新学期。

 四月が来て新しい学年が始まると、当たり前だが、教室には見慣れた友達たちが来るようになった。僕のいる県立舘山高校では、ご多分に漏れず毎年クラス替えがあり、全生徒256名が今年は誰と一緒になれるのだろうかと気にしている。7つもクラスがあるので、運が悪ければ前の友達の誰とも一緒になれないことだってあるからだ。

 しかし僕にいたっては、もはや誰と誰が同じクラスであるかなということは重要なことではなくなったので、軽い気持ちで新しい教室を一つ一つ覗いていく。

「おはよう! 久しぶり」

 3年C組の教室でブラブラとしていると、笹山が元気に入ってきた。その顔はなんとなく僕の方を向いていたが、当然その挨拶は僕に向けられたものではなく、僕を通り抜けた先の菱田に向けられたものだった。

 笹山は、背の低い黒髪の女の子で、男女隔てなく人付き合いの出来るタイプだ。吹奏楽部でフルートを吹いている。

 菱田は、短髪長身の男でサッカー部だ。たしか前の3年生が引退した後、キャプテンに任命されていた。相応の人望があるというわけだ。

 笹山も菱田も、去年、同じクラスだった。そして二人とも、僕の葬式に来てくれた優しい一員だ。

「菱田くんも文系だったんだね」

「ああ。数学苦手だからな」

「私も」

笹山は笑うと、

「じゃあ今年もよろしくね」

 同じクラスになった女の子へと声をかけに行った。

「おい菱田。いいなお前は。女の子と仲良くできて」

 僕はどうせ聞こえないことをいいことに軽く愚痴を叩く。菱田はまるで僕の声が聞こえたかのように周囲を見回した。けれども見回したからといって僕の声が聞こえているはずがない。

 僕は生来人付き合いの苦手な質であった。菱田は割と相手をしてくれた方であったが、それはあくまで僕基準でのお話だ。菱田にしてみれば、大して記憶にも残っていないかもしれない。

 かといって菱田が嫌いなわけではない。嫌いなら愚痴を軽くは言えない。

 


 9時になる頃には、ほぼ全員の席が埋まっていて、チャイムの音が鳴ると同時に、この3年C組の担任の先生が教室に入ってきた。頭髪のほとんどが禿かかった、小さなおじいさんであった。

「おい菱田、どうすんだよ。ヤマセンじゃねえかよ」

 後ろに座った男子が菱田の背中を突く。

「わかってるよ。名簿表に書いてあったからな」

「『書いてあったからな』じゃねえよ。体育祭どうすんだよ」 僕は遅刻か欠席かとにかく空いていた席に座っていて、それがたまたま菱田の隣だったので、そのコソコソ話が聞こえていた。

(コバセンかぁ……)

 物理学の嘱託、小林なんとか先生。

 本人に何か問題があるわけではない。ただ単にコバセンが担任のクラスは、体育祭で優勝できないというジンクスがあるだけだ。しかしながらその実、体育祭で競技に担任の先生が出るわけがないので、非道い濡れ衣なわけで僕は実に同情する。そして、足の遅い僕の所為という謗りを免れるので、微量ながら感謝する。

「それではですね。みなさん始業式がありますから、廊下に並んでください。名前順で」

 生徒に疫病神扱いされていることなど、微塵も知らないコバセンは、事務的にそう言った。

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