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教室。  作者: 麻倉龍之介
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命日から

3月18日、僕は死んだ。

 交通事故だった。春休みの浮かれた気分で交差点を渡っていたところを、信号無視をした軽トラックが突っ込んできた。単純な事故だった。単純な事故だったからこそ、僕には何の準備も覚悟もなかった。クラクションの音がして、白い軽トラックが見え、一瞬、運転手と目が合ったと思ったら、もう目の前が真っ暗になっていた。

 葬式には親類の他、担任の先生と数人のクラスメイトとが参加してくれていた。遺影には、高校に入学したころに撮った写真が使われていた。なんだか少々気恥ずかしい。今が三年生になる直前の春休みだから、その写真からは、ほぼ丸二年が経っている。

 非常にショッキングな出来事ではあるけれども、これ自体は大したことではない。むしろ問題なのは、どうして死んだはずの僕が、僕の死について語っているのかということだ。

 僕は話をじらすのも、じらされるのも好きじゃない。だから答えから先に言おうと思う。


――僕は、いわゆる幽霊になってしまったらしい。

 

 死後の世界などというのは、たわごとだと思っていたけれども、実際に僕がそうなのだから、認めざるを得ない。でもこれが成ってみると案外なかなかと便利なもので、壁がすり抜けられるからどこでも入りたい放題だし、寝る必要だってない。飲み食いが出来ないのは残念だけれども、それでも問題ないというのはやはり便利だ。

「だって死ぬわけじゃないし」っていうのが、僕の持つ今一番のジョークだ。どうだろうか。

 ただ死んでから結構すぐ気がついたのだが、死んでしまうとやることがない。もちろん世界の名所を旅してまわるのも良いかもしれないし、好きなスポーツを観戦するのも良いかもしれないが、どうにも見ているだけではつまらない。カメラのシャッターを切ることはできないし、ボールを蹴ったり、バットを握ったりすることも出来ない。せめて見てきたものをネタに、友達と話が盛り上がれればいいのだけれども、死んだ僕が生きているみんなと話すことはできない。

 それにこれは驚いたことなのだけれども、幽霊友達というのもまだ一人もいない。これは僕が社交的じゃないとかそういう問題じゃなくて、死んでしまってからも幽霊というものにまだ一度も会っていないのだ。夜の学校とか、夜の病院とかそういった所に顔を出してみたけれども、本当に幽霊がいない。今度心霊スポットで有名だったところに行ってみようとも思うけど、望み薄かもしれない。

 僕は、学校に居着くようになった。

 落ち着くところと言えば、結果的に学校だったのである。落ち着くところと聞かれれば、大抵の人は家を思い浮かべるかもしれない。僕も多分そう答えていただろう。でも死んでしまうと、意外と違った。

 僕の部屋は、事故の日の朝から何も変わっていない。机の上はプリントやら本やらが散らかっているし、あの朝脱いだ寝間着は、ベットの上に投げ捨てられている。厳密には何かを取り出したり、片付けたりしているのかもしれないが、そんなことを感じさせないほど、僕の部屋は綺麗に散らかっている。部屋に触れないことは両親の意向か何か知らないが、妙に気持ち悪く感じてしまった。誰も触っていないことで、反って僕のものでは無くなってしまったように感じた。

 僕の代わりに僕の遺影と遺骨が帰り、僕である僕が帰る場所ではなくなった。

 それにこれは実際的なことだが、そもそも帰ったところで、自分の持ち物に触ることもできない。こんな調子で僕は家にいるよりも、学校へ帰ることの方を好んだ。


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