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三大噺 鐘、落ち葉、警備

作者: 八島えく

 ぼくのすぐ後ろで鐘が鳴った。また誰かが死んだのだろう。ここの鐘は、誰かの死が生まれて初めて役割を果たす。

 ぼくは振り返り、いまださめやらぬ余韻を全身で味わいながら、ゆっくりと鐘に近づいた。鈍い黒に染まったそのものは、触れたぼくの手に振動を伝えた。

 鐘の横には、なんの花を咲かせるかわからない木が、一本植えられている。花など咲いていないし、痩せた枝に、一枚だけ死にかけの葉がしぶとく生き残っている。ぼくはその葉に話しかけた。

「また君より先に、誰かが死んだよ、ヘンドリック」

 ヘンドリックは少し揺らいで見せた。ほんの少しの動きが命取りになるとわかっているのだろうか。

 たぶん、鐘が鳴るのはあと一度だろう。その最後は、ヘンドリックが飾る。もうここに、鐘を鳴らしてやれるのはヘンドリックしかいない。ぼくは、鐘がその仕事を最後の最期までやりとげるのを見届けなければいけない。ずっと昔は鐘にいたずらするやつどもがいた。そいつから鐘を守るために警備として創られたのが、ぼくだ。だから、鐘が死ぬまでぼくは死なない。ぼくが死んでも、誰も鳴いてくれない。

 白に、ほんの少しだけ色を混ぜたようなここには、もうだれも残らない。

「あ」

 ついに、とのときが、きた。ヘンドリックは、茶色にくすんだその身をひらつかせて、ゆっくりと僕の足元に落ちた。

 背後の鐘が、さっきよりも大きく鳴いた。ぼくはなるべく優しく、落ち葉でしかなくなったヘンドリックをつまみ上げた。

「もう、だれも君を鳴らしてあげられないね」

 落ち葉から指を離す。背後の鐘が、だんだんとどす黒さを増していく。ぼくを置いて、鐘も死ぬ。ただの破片になった鐘は、ぼくに看取られていった。

 ぼくも、役目を終えたのだから、間もなく朽ちるだろう。その場にぺたんと座り、急に眠くなって寝転がる。ぼんやりしてきた視界に、妙にくっきり映ったのは、ヘンドリックのくっついていた、痩せた木だ。そのものは、満開の花を咲かせた。花が咲いたそのものを見たのは、初めてだ。

「おつかれ」

 そう声をかけてくれた。ぼくは涙を流しているのに、笑っていた。

三大噺というのをやってみました。学校の帰りの電車で携帯電話にぽちぽち打ったもので、何も考えずに気のまま書きました。

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