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スペース・青春グラフィティ

掲載日:2026/03/06

※挿絵は生成AI画像です。


「いらっしゃい、ジョウジ。あら、どうしたの? あの車」


 エリーは、ジョウジの肩越しに玄関の外の車を見た。


「すごいだろ。1959年型キャデラック()・最新式V8フュージョン・リアクター搭載モデルの宇宙車スペースモービルさ」



挿絵(By みてみん)



 ジョウジは、車まで歩いていくとボンネットを叩いた。


「ジョウジがこれ、買ったの?」


「違うよ。父さんの車さ」


「へ~、よく貸してくれたわね」


「そんなわけないだろ。こっそり借りてきたのさ」


「え、いいの? ばれたら叱られるわよ」


「大丈夫だって。父さんは今、火星に出張中なんだ」


「そういう問題じゃないでしょ」


「こっそり返しとけば、バレやしないって。それより、エリー。こいつでドライブに行こうぜ」


「大丈夫?」


「行きたくないの?」


「……行きたい!」


「じゃあ決まりだ」


 ジョウジが運転席に乗り込むと、エリーは助手席に座った。キーを回すと、ブルル、とエンジンが低く唸る。


「すごい音ね」


「だろ? まあ、カーオーディオから出てるんだけどな。さ、出発だ」


 クラッチを切り、ギアを入れた。アクセルを踏み込みクラッチをつなぐと、エンジンが轟音をあげ、加速した。サスペンションは、ふわふわとした乗り心地だ。 


「少しの間、道路を走ろうか」


「へー。これ、タイヤが地面に付いて走ってるのね」


 ────


「さあ、そろそろ飛行モードに入るか。『キャディ』、離陸リフトオフ!」


『了解。スラスター点火』


 車載 AI(キャディ)が応えると、車体がふわりと浮き、ロードノイズが消えた。


『エンジン点火』


 マフラーから青白いプラズマが噴射されると、車は加速し、2人の身体がシートに押し付けられる。ノーズを上げると、地面が離れていく。


「すごいね……!」


 エリーは、助手席の窓から、自分の住んでいる街並みを見下ろした。


「エリー、準備はいいかい? 『キャディ』、軌道投入!」


『了解。加速に備えてください』


 さっきより強い加速がかかり、ふたりともシートに押し付けられた。空を翔ける車体は、どんどん速度を増していく。スピードメーターの数値が、狂ったように跳ね上がる。


『現在、時速3,000km』


 圧力だけでなく、小刻みで激しい振動が車内キャビンに満ちる。


「エリー、……い、いい眺めだろ?」


「見てる余裕ない、よ……!」


『現在、時速1万5,000km……時速2万km……時速2万5,000km』


 地上がどんどん遠ざかる。フロントガラスに暗い空が映り、はるか彼方の地平線が、地上との境界を形作っていた。

 

 加速は続き、だんだん、気が遠くなる……。



 ──車体の揺れがふいに止まり、車内の音も消えた。わずかなハム音のみが聞こえる。



『現在、時速2万8,000km。エンジン停止。宇宙速度に到達。周回軌道に入りました』


 AIが告げる。


「起きろよ、エリー。外を見てみろ」


 ジョウジが、助手席のエリーの肩を揺さぶった。


「お……、起きてるわよ!」


 さっきまでと打って変わって、身体の重さがなくなっていた。


 ふたりは窓の外の、眼下に見える地球をしばらく見つめていた。



挿絵(By みてみん)



「さ~て。じゃ、『高速道路』に乗るか。AIのオートクルーズにして、と」


「どこ行くの?」


「そうだな……、月あたりにするか」


『軌道を離脱します。コースセット』


 AI(キャディ)が答えると、車は緩やかに加速し、地球を離れる。


「見てみろよ、エリー」


「見てるよ」


 窓から見える地球が、少しずつ、小さくなっていく。


「ラジオでもかけようか」


 ジョウジがカーラジオのスイッチを入れると、ノイズがスピーカーから流れる。つまみを回し、周波数を合わせる。


『ザーッ、……ハロー。毎度おなじみDJの、イーチ・コタキです……』


 2人はシートをリクライニングした。


『……では1曲目よござんすか。地球はジャパンから、ラジオネーム「株価ナイアガラ」さんからのリクエストで、「翔けろ! トビウオくん」です』


 月までは1時間。ハンドルを握る必要はない。



 ──1時間が過ぎると、月が目前まで迫っていた。ジョウジの59年式キャデラック風・宇宙車スペースモービルは、月の周回軌道に入った。


「さ~て、サービスエリアに停まろうかな?」


 月の軌道上を回る宇宙ステーションにランデブーし、無数にあるハッチのひとつからドッキングする。


駐車場パーキング・ルームの与圧完了。降車してください』


 ステーション内のアナウンスが響く。


 ジョウジとエリーは車を降り、少し通路を歩くと、広いホールに出た。そこには、フードコートと土産コーナーが併設されている。


 2人はホールの隅にあるディスペンサーでコーヒーを注文すると、次々と入れ替わる人々を眺めていた。


「何だよエリー、俺の顔に何かついてるのか?」


「ううん……、ご飯粒がついてたのよ」


「え、うそだろ?」


 ジョウジは頬を触った。


「うそよ」


 エリーが首を振って微笑ほほえんだ。


 ──ホールには、さっきと同じラジオ放送が流れている。


『……それでは「リュウ・マツモト」さんからのリクエスト。「恋するふたり」をお聞きください……』



 ──ジョウジたちの目の前を、若い女性が通りすぎた。


 銀髪のロングヘアーに、金色の瞳をしている。背が高く、身体にぴったりと張り付く全身タイツは、金属の光沢を放ち、スタイルの良さを強調していた。


 ジョウジが思わず目で追っていると、二の腕に痛みを感じた。


「痛ったー! なにすんだよ、エリー」


「見てたでしょ、今のひとを」


「見てないよ。いてて……あ、そろそろ行かなきゃ」


 ジョウジはエリーの手を引いて車に戻る。駐車場が減圧され、ハッチが開くと、宇宙空間と星々が目に映る。


 車は加速して月の軌道を離れる。フロントガラスに地球が映った。


「ちょっと手動で運転してみようかな?」


「大丈夫?」


「俺、免許を持ってるんだよ?」


 ハンドルを握り、アクセルを踏み込むと、エンジンが低い唸り声をあげ、車は加速した。


「な、これなら地球に早く着くぞ。車をさっさとガレージに入れときゃいいのさ」


 ジョウジの言う通り、地球はどんどん近づいてくる。



「ねえ、スピード出しすぎじゃない?」


「平気さ。どのみち後は、AIの自動運転なんだから。……よっと」


ハンドルから手を離し、オートクルーズをオンにする。


「大気圏突入は、AIに任せるさ」


『地球に接近。逆噴射で減速します』


 AIキャディが答えると、ジョウジは両手を頭の後ろで組んで、シートにもたれかかった。


『──警告。現在の燃料残量では、再突入はできません』


「え、なんでだよ、『キャディ』!?」


『突入速度を下げるための燃料が不足しています。地球の周回軌道に入ります』


「ちょっと、どうなってるの? ジョウジ」


「さっきの加速で燃料を使いすぎちまったみたいだな。『ガス欠』ってやつだ」


「どうするのよ! もう」


 車は軌道を回り続け、ウィンドウには青い地球が映っている。



 ──車内キャビンに、気まずい沈黙が流れた。



「こうなったら、JAF(ジャパニーズ・アストロフェデレーション)を呼ぶか……」


「は~、しょうがないわね」


 ジョウジは通信機のスイッチを入れた。


「ハロー。JAFですか? 今、地球の軌道上でスタックしちゃってて。故障? ……いいえ、ガス欠です」


『了解しました。そのままで待機してください』


 通信を終えると、ジョウジはため息をついた。


「30分以内に来るってさ」


「ねえ、ちょっと寒くない?」


 エリーが腕を抱いてふるえている。


「ああ、ライフサポートへの電力をセーブしてるんだろう」


 ジョウジは後部座席から毛布を取りだし、エリーといっしょにくるまった。


 電力セーブのために照明は暗くなり、計器類のほのかな光が、エリーの顔を照らす。静かな車内で、互いの胸の鼓動が聞こえるような気がした。



 ──30分後



『……こちらJAFです。ジョウジ・サカモトさんのお車でしょうか?』


 通信機からの声が、沈黙を破った。


「来た! は、はい。連絡したサカモトです」


『了解。ランデブーして燃料補給いたします』


 JAFの機体が、ジョウジの車の『給油口』から水素を補給する。


『完了しました。請求書は、車検証に記載の所有者様のご住所にお届けいたします』


 JAFの機体は軌道を離れていく。


「所有者の!? ちょ、ちょっと待ってよ……」


「あ~あ……。ジョウジ、早く帰りましょうよ」


『キャディ』がエンジンを逆噴射すると高度が下がり、地上が近づいてくる。

 エリーだけが窓から楽しげに景色を眺めていた。


 ──そのまま飛んで、エリーの家近くに着地する。


「じゃあ、今日はありがとうね、ジョウジ。楽しかったわ」


「うん……。じゃあね、エリー」


 力なく笑うと、ジョウジは、自宅に車を走らせる。ガレージに車を収め、部屋に戻った。



 ──次の日、ジョウジがハイスクールから帰ると、玄関で父親が腕組みをしていた。


「あ……、父さん。出張から帰ってたんだ。おかえり」


「ジョウジ、これはどういうことだ?」


 父のタブレットには、JAFからの請求書が表示されている。


「5万ニホンドル。これは、お前のしわざだな?」


 5万……1か月分のバイト代の半分だ。


「と……父さん、これは……」


「馬鹿もん! お前、父さんの車を勝手に乗り回しただろう」


「まあまあ、お父さん」


 母親が割り込んだ。


「無事で帰ってきてよかったじゃないですか。ジョウジも反省してますよ」


 ──結局、ジョウジは父親にこっぴどく叱られた。


 ────


「あ~あ、車を貸してもらえないんだったら、バイトして自分で買おうかな」


 リビングのソファーに寝っ転がって、ジョウジがつぶやくと、父親は鼻で笑った。


「ジョウジ、未成年はな、親の同意がないと車は買えないぞ」


「まあまあ、お父さん。ジョウジは、エリーちゃんとドライブしたいのよね?」


「そうそう……ん? 母さん、何で知ってんの」


 ────


 その夜、ジョウジはエリーに電話していた。


「そういうわけでさ、エリー。とうぶん親父は、俺が車を買うのを許してくれそうにないな」


『そんなことないわよ、ジョウジ。きっとお父さんも分かってくれるわ。それに、お母さんも説得してくれるわよ』


「そうかなあ?」


『そうよ。だって、お母さん、そう言ってたもん』


「……え? エリー、なんで君が知って……」


『あ、パパが帰って来たわ。それじゃあね、ジョウジ』


 電話が切れると、ジョウジは首をひねった。


「……まあいいか」



 ジョウジが窓の外を見上げると、夜空には月が浮かんでいる。



「いつか、自分の車であそこに行こう……。エリーを連れて」


※この作品はフィクションです。登場する人物、団体、車両等は、すべて架空のものです。

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― 新着の感想 ―
企画から参りました。 すごい加速から地球を遠くに眺める二人、いいですね。 トラブルがあったものの、まさかのJAFが面白かったです。 エリーがうまく取りなしてくれたようで、ジョウジはエリーとの未来の夢が…
JAFすげーっ! アストロだけど。 未成年だけど、免許ありって事は、法律がちょっと違うんだな。 ん? バイトで買えるくらいの値段なのか、宇宙車。 もしかして、安いのだと原付くらいの値段だったりして。
 青春ですねぇ。  ……って、タイトルにそう書いてましたね。(笑)
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