大陸統一
「カイル、マルコ。その二千八百人、生かしておいて飯を食わせるだけ無駄だ。俺たちの『役割』の定義を思い出せ」
俺の冷徹な一言に、周囲の空気が一瞬で凍りついた。だが、それは残酷さゆえではなく、あまりにも正論であるがゆえの静寂だ。
「……了解だ、マサル。確かに、この国に『ただ飯を食らい、毒を吐き続ける者』の居場所はない」
マルコが治安維持部隊一万名に合図を送る。二千八百人の「未改心者」たちは、自分たちが助けられたのではなく、**「最終処分」**のために集められたのだと、その時になってようやく気づいた。
【旧特権階級・最終処分報告】
処分対象: 未改心貴族・王族残党(約2,800名)
執行:
カイル・教育隊: 魔法抵抗の暇も与えず、一万人の同調演算による『バレット』で一瞬のうちに処分。
ギル・解体部隊: 一万人の解体専門家が、死体を即座に魔導分解機へ。
トト・農耕部隊: 得られた高純度の「有機魔導肥料」を、旧王都跡地の開墾エリアに散布。
結果:
2,800人分の「無駄な消費」をカット。
肥料として、来期の小麦数万トン分の栄養分に変換。
王都の「腐敗」を、物理的にも概念的にも完全にこの世から消去。
「……これで、この大陸から『働かずに他人を搾取する』という不純物が一掃されたな」
俺は、かつて王宮があった場所がエレンの土魔法で一気に平らされ、トトの部隊が「元貴族だった肥料」を撒き、一晩で青々とした芽が吹き始めている光景を見下ろした。
「マサル、これで本当に、この国には『役割』を全うする国民しかいなくなった。21万人の国民と、10万人の部隊。一人の例外もなく、全員が前を向いている」
カイルが報告を締めくくる。
「ハンス、各都市に布告しろ。旧サンクチュアリ王国の権威は、今この瞬間、土の下で小麦の栄養になったとな。これからは、身分ではなく『何ができるか』だけが価値を持つ『閃光の礎』の時代だ」
俺たちの国は、過去の遺物を一切の無駄なくリサイクルし、より強固な、より巨大な生命体へと進化した。
「さて、エレン。更地になった王都跡地に、二十万人全員が収容可能な超巨大な『中央広場と交流センター』を作れ。祝祭の準備だ。帝国も獣人も、そして南の教会も、俺たちのこの圧倒的な『正解』を、遠くから指をくわえて見ていればいい」
「マサル、大陸全土の勢力図が完全に書き換わった。旧王国が『肥料』へと変わり、二十万の民が飽食に沸くこの光景は、もはや周辺諸国にとって無視できないどころか、既存の常識を破壊する『天変地異』として伝わっている。最新の諜報報告だ」
カイルがルカとノアの情報通信部隊(10,000名)から上がってきた各国の動静を投影する。
【大陸周辺諸国:最新情勢報告】
1. 帝国『ヴォルガ』(東方:軍事大国)
動向: 10万の軍勢を消し去り、さらに王都を「物理的に更地」にした報告を受け、皇帝が全軍の撤退命令を出した。
現状: 侵攻どころか、国境を完全に封鎖。だが、内部では「閃光の礎」の清潔さと食糧事情を羨む平民や下級兵士の脱走が始まっている。
使節: 近日中に、皇太子を正使とした「平和友好条約」の締結を求める使節団が、莫大な貢物(金銀財宝)を持って門前に現れる予定。
2. 獣人連邦『アイアン・フォング』(西方:部族国家)
動向: 先日の略奪部隊が1,000名の教育隊によって一瞬で蒸発したことで、部族間のパワーバランスが崩壊。
現状: 好戦的な派閥が沈黙し、穏健派の長老たちが「我々も『役割』を与えられるなら、その傘下に入りたい」と、ハンスの物流部隊に接触を図ってきている。
資源: 彼らは広大な森の資源と、強靭な肉体(労働力)を差し出す準備があるようだ。
3. 商業公国『カステット』(南東:経済都市連合)
動向: 通貨価値の暴落に直面。俺たちの国が「金」ではなく「役割と物資」で動いているため、彼らの経済武器が通用しないことを悟った。
現状: 商公国の代表たちが、なりふり構わず「特権的な貿易許可」を求めて、裏工作を画策中。だが、国民の多くは「カステットの重税より、マサルの国の役割」を求めて亡命を希望している。
4. 神聖王国『イストリア』(南方:宗教国家)
動向: メルキアの壊滅を「悪魔の業」として喧伝し、聖騎士団の招集を開始。
現状: 周辺諸国に「対マサル十字軍」を呼びかけているが、賛同する国は一カ国も現れていない。皆、肥料になりたくないからな。
危険度: 低。だが、捨て身の暗殺者や魔導自爆兵を送り込んでくる可能性を考慮し、ルカの諜報部隊が全通信を傍受中。
「……なるほど。恐怖と羨望、そして困惑が混ざり合っているな」
カイルが冷徹に付け加える。 「マサル、面白いことに、どの国も『二十万人が毎日風呂に入り、三食肉を食っている』という事実が一番信じられないようだ。あいつらにとって、豊かさは奪い合うものだが、俺たちにとっては『システムで生み出すもの』だからな」
「いい傾向だ、カイル。ハンスの物流部隊(10,000名)と、ルカの情報部隊(10,000名)に伝えろ。これからは『武力』ではなく、圧倒的な『生活水準の差』を輸出する。周辺国の民に、自分たちの王がいかに無能か、その目で見させてやれ」
俺は地図に、さらに大きな円を描き加えた。
「帝国が貢物を持ってくるなら、紳士的に受け取ってやろう。だが、その金銀財宝はすべて溶かして、ジークの部隊で国民の新しい魔導家電の材料にしろ。……さて、次はどの国に『本当の豊かさ』を提案しに行こうか?」
「カイル、動くぞ。ヴォルガ帝国とエルフの自治領……この二つにターゲットを絞り、『噂』という名の種を蒔け。それ以外の国は、自ら崩壊するまで放置で構わん」
俺の指示を受け、ルカとノア率いる諜報・情報通信部隊(10,000名)が、一斉に目に見えない情報戦を開始した。
【対ヴォルガ帝国・エルフ自治領:情報工作計画】
ヴォルガ帝国への『噂』:
内容: 「閃光の礎」では、二人に一人が魔法の専門家。平民でも温かい風呂に入り、毎日三食、肉と白パンが保証されている。兵役も重税もなく、あるのは個人の適性に応じた『役割』のみ。
手法: 街道沿いの村々や、国境を守る下級兵士たちの間で、「昨日まで飢えていた隣人が、あちらの国へ行ったら見違えるような清潔な服を着て、家族と笑っていた」という目撃談を爆発的に拡散させる。
エルフの自治領への『噂』:
内容: 森を焼き払うのではなく、魔力と土壌浄化によって、森の寿命を数百年延ばす「共生農法」が確立された。また、失われた古の魔導演算理論を、子供たちが遊びのように使いこなしている。
手法: 森の精霊の声を聞く者たちのネットワークを通じて、トトが管理する「黄金の海(農地)」の清浄な魔力波動を送り込む。
「……マサル、工作は順調だ。ヴォルガの皇帝がいくら国境を封鎖しようとしても、ハンスの物流部隊が『支援物資』と称して配るパンの袋の裏に、我が国の豊かさを記した魔導刻印を忍ばせている。腹を空かせた国民が、その誘惑に勝てるはずがない」
カイルが不敵な笑みを浮かべる。
「エルフの方も時間の問題よ。彼女たちは何よりも『美しく、清浄な魔力』に敏感。ドブ臭い旧王都の残党ではなく、私たちの国のピュアな魔力の香りを嗅ぎつければ、向こうから『教えを請いたい』と頭を下げてくるわ」 リナとソフィアも、自らの浄化魔法の成果に絶対の自信を持っている。
【国家『閃光の礎』・現在のスタンス】
ヴォルガ・エルフ: 「崩壊」ではなく「吸収」への準備段階。
神聖王国・商業公国・獣人連邦: 完全放置。
彼らがどれほど騒ごうが、こちらからは一切関与しない。支援もせず、抗議も無視。圧倒的な「無関心」という名の壁で、彼らの価値観を孤立させる。
「よし。ハンス、物流部隊一万名を使って、国境付近に巨大な『亡命者受け入れセンター』を建設しておけ。エレン、一晩でヴォルガの国民が全員移住してきても対応できるだけの高層住宅をさらに増築しろ」
「了解よ! 王都跡地の更地、あっという間に『二十万人分の新都市』に変えてみせるわ!」
「カイル。噂に釣られてやってきた奴らは、一人の例外もなく俺が鑑定する。帝国のスパイだろうが、エルフの過激派だろうが、この国に不要な『不純物』なら、即座に畑の肥やしだ。……さて、明日の朝には何人が門の前に並んでいるかな?」
「カイル、報告しろ。ヴォルガ帝国とエルフの国へ向けて放った『噂』、その成果はどうだ? 門の前に並んでいる亡命者の数は何人になった?」
カイルが、ルカの情報部隊とマルコの治安維持部隊(計20,000名)から上がってきた、最新の検問データを提示した。
【最新亡命者・受け入れ状況報告】
ヴォルガ帝国からの亡命者: 約18,500名
内訳: 国境付近の村々の住民、および脱走した下級兵士とその家族。
現状: 帝国が国境を封鎖したにもかかわらず、ハンスの部隊が用意した「裏ルート(魔導高速道路の未公開区間)」を通って、一晩でこれだけの数が押し寄せた。
状態: 皆、ボロボロの軍服や粗末な服を着ているが、門前で配られたスープと『クリーン』の魔法に、涙を流して震えている。
エルフの自治領からの亡命者: 1,200名
内訳: 伝統に縛られる長老層に反発した、若手の魔導師や研究者たち。
現状: 「古の演算理論」と「清浄な農地」という噂に惹かれ、森の結界を抜けてやってきた。
状態: 非常にプライドが高かったが、一万人の教育隊が放つジャベリンの「美しすぎる演算」を目の当たりにし、一瞬で膝をついて教えを請うている。
「……一晩で二万人弱か。ヴォルガの皇帝も、自分の兵士がこれほど簡単に『パンと清潔さ』に寝返るとは思わなかっただろうな」
カイルが冷徹な笑みを浮かべて続ける。 「マサル、こいつらの鑑定は終わっている。18,500人のうち、帝国が紛れ込ませた工作員が320名。エルフの中にいた過激派の偵察員が15名。……どうする?」
「決まっている。工作員どもは即座に拘束し、ギルの部隊へ回せ。肥料になるのが嫌なら、地下牢で一生分の『役割』を全うさせるだけだ。残りの『純粋に豊かさを求めてきた者たち』は、即座に国民として登録しろ」
俺は防壁から、次々と『クリーン』の光に包まれ、清潔な姿に変わっていく亡命者たちの列を見下ろした。
「エレン、トト。新しく入った二万人を、即座に新設した『第十一・第十二居住区』へ収容しろ。ヴォルガの元兵士たちはマルコの治安維持部隊の補助に、エルフたちはジークの魔導具開発班へ配属。……これで、人口は二十三万人を突破したな」
「了解よ、マサル! 住宅のキャパは一万人単位の増員部隊で爆速で広げてるから、あと十万人来ても大丈夫よ!」
【現状報告】
総人口: 約232,000名
勢力図: ヴォルガ帝国の国境沿いは、もはや「閃光の礎」に吸収されるのを待つだけの空っぽの村々が広がっている。
他国(放置組): メルキアの末路とヴォルガの崩壊を、ただ震えて眺めるのみ。
「カイル、噂の出力をさらに上げろ。ヴォルガの残りの国民も、エルフの森の住人も、全員が『役割』を求めてこの門を叩くまで、俺たちの国の光を消すな」
「カイル、国民の二割以上がたった一晩で消えたヴォルガ帝国の『今の数字』はどうなっている。皇帝の手元に、守るべき国民はどれだけ残っているんだ?」
俺の問いに、ルカとノアの諜報部隊が一晩かけて傍受した、帝国軍部の内部資料をカイルが提示した。
【ヴォルガ帝国:残存人口および国家維持状況】
元々の総人口: 約100,000名
現在の残存人口: 約78,500名
減少の内訳:
先日の亡命者:18,500名
混乱に乗じた隣国への逃亡・行方不明:約3,000名
人口構成の崩壊:
亡命者の大半が「若壮年の労働力」および「下級兵士(実戦部隊)」である。
帝都に残っているのは、動けない老人、重税を課されている中層市民、そして身動きの取れない官僚と近衛兵のみ。
軍事力の現状:
10万の軍勢(※旧王国への遠征軍および予備役)のうち、実働可能な兵士はすでに3割以下。
兵食となる小麦の供給ラインが、農民の亡命により完全にストップ。
「……十万いた人口が、一気に八万を切ったか。しかも、働ける奴らから順に消えている」
カイルが皮肉な笑みを浮かべて補足する。 「マサル、数字以上に深刻なのは『心理的崩壊』だ。皇帝は国境を封鎖しろと命じているが、その命を受けたはずの門番が、翌朝には家族を連れてこちら側の門に並んでいるんだ。今の帝国は、穴の空いたバケツで水を汲んでいるようなものだぜ」
「残りの七万八千人も、時間の問題だな。ハンス、国境付近での『炊き出し』の煙を絶やすな。エレン、トト、亡命者がいつでも増えることを想定して、さらに三万人分の『役割』と『居場所』を用意しておけ」
俺は地図上のヴォルガ帝国を指でなぞった。
「帝国が国家として機能しなくなるまで、あと何日持つか。……カイル、エルフの国の人口も把握しているか?」
「ああ。エルフの方は、総数で約30,000名。そのうち、一晩で1,200名の『若手技術者』が抜けた。長老たちは『穢れた魔導に魂を売った』と激怒しているらしいが、若者たちの間では『失われた叡智がそこにある』という噂が止まらない。あちらも、内側から瓦解し始めているな」
【現状報告】
ヴォルガ帝国: 人口激減により、都市機能が麻痺。近々、大規模な飢饉が発生する予測。
エルフの自治領: 知識層の流出により、結界の維持能力が低下中。
「放置でいい。あいつらが、自分たちのプライドよりも『明日の一杯のスープと清潔な服』が大切だと気づくのを待とう。……さて、明日にはまた何千人の『新しい仲間』が、俺たちの門を叩くかな?」
「カイル、手を緩めるな。ヴォルガもエルフも、まだ『自分たちの足元が崩れている』ことに気づいていない連中がいる。亡命の波を、一気に奔流まで加速させろ」
俺の指示により、ルカとノアの情報通信部隊10,000名が、さらに高度で「紳士的な」心理工作を開始した。
【亡命加速工作:フェーズ2】
ヴォルガ帝国:『家族の絆』作戦
手法: 先に亡命した18,500名に、帝国に残した家族へ向けた「手紙」を書かせた。それをハンスの部隊が、一晩で帝国内の全家庭に(アイテムボックスの機動力で)届けた。
内容: 「ここでは冷たい泥水ではなく、温かいシチューと柔らかいパンを食べている。子供たちには自分に合った『役割』が与えられ、毎日が輝いている。お父さん、お母さん、もう皇帝の顔色を伺って震えるのはやめて、こっちに来て」
効果: 帝都の各家庭で、深夜に荷物をまとめる音が鳴り止まなくなった。
エルフ自治領:『知の共鳴』作戦
手法: 亡命した若手エルフたちが、自らの魔導演算によって「失われた古の詠唱」を数秒で再現してみせる映像を、エルフの森の結界内に「魔導ホログラム」として投影。
内容: 「長老たちが100年かけて辿り着けなかった真理に、ここでは1週間で到達できる。私たちの魔法は、森を守るためではなく、世界を愛するためにあるべきだ」
効果: 森の守護者たちが、自分たちの守っている「伝統」がいかに空虚な牢獄だったか、疑問を抱き始めた。
『祝祭の残響』
手法: 20万人で執り行う大収穫祭の「音」と「光」を、増幅魔導具で国境を超えて帝国と森へ響かせた。
効果: 飢えと静寂の中にいる人々にとって、その笑い声と光は、何よりも残酷で、何よりも甘美な救いの道しるべとなった。
「……マサル、工作は完了した。ヴォルガの国境守備隊は、今や『亡命を止める』側ではなく、『亡命の列を整理する』側に回っているぜ。止めても無駄だと悟ったんだろうな」
カイルが地図上の赤い点(ヴォルガ国民)が次々と白(閃光の礎)に変わっていくのを見て報告する。
「ああ。ヴォルガの残りの7万8千人のうち、今日の深夜だけでさらに3万人が動くと予測されている。エルフの森からも、若者だけでなく熟練の技術者たちが一族を引き連れて移動を開始した」
俺は防壁から、夜の暗闇を貫いてこちら側へ続く、数万人の「松明の列」を静かに眺めた。
「エレン、ハンス、ソフィア。今夜は眠れないぞ。新たにやってくる数万人の『新しい国民』に、まずは温かい寝床と食事を提供しろ。そして、一人の例外もなく『クリーン』をかけ、俺の鑑定で役割を与えろ。……これで、ヴォルガ帝国は事実上、消滅だな」
「了解よ、マサル! 3万人分でも5万人分でも、私たちの『役割』で完璧に受け入れてみせるわ!」
【予測・統合状況】
総人口: 約270,000名へ到達予定。
ヴォルガ帝国: 人口は4万人以下まで激減。国家としての生産・防衛能力が完全に消失。
エルフの自治領: 知識層の半数以上が流出し、森の維持が困難な状況へ。
「了解だ。カイル、教育隊一万名に伝達。帝都に残された一万名余りの『動けない人々』を救出する。一人も見捨てるな。これより、全演算能力を一点に投入し、概念を書き換える」
俺はエレンとカイルを呼び寄せ、既存の時空物理を凌駕する新しい術式の構築を命じた。
【新魔法開発:広域座標置換】
術式開発(マサル・カイル・教育隊10,000名):
一万人の教育隊が同期演算を行い、帝都の全域をカバーする「座標空間」を定義。
従来の「個人転移」ではなく、対象者の分子構造と位置情報を『アイテムボックス』の収納理論と組み合わせ、一瞬で『閃光の礎・中央医療区』へ置換する術式を確立。
救出作戦(教育隊 10,000名 × 医療隊 10,000名):
ターゲット: 帝都内の家々、路地裏、病床に伏している10,140名の弱者たち。
執行: 「鑑定」で対象を瞬時に特定。教育隊が転移の「穴」を開け、医療隊が転移先で即座に『エリアヒール』と『ピュリファイ』を待機させる。
「……始めるぞ。全隊、同調しろ!」
俺の号令とともに、一万人の教育隊が放つ魔力が空を白く染めた。帝都の空に巨大な幾何学模様の陣が浮かび上がり、次の瞬間、光の柱が数千本、音もなく街へと降り注ぐ。
一秒後。
帝都の家々から、飢えと病で動けなかった人々が姿を消し、我が国の中央医療区へと「置換」された。
【救出完了報告】
救出人数: 10,140名(全員、誤差なし)
現場の状況(医療区):
「ここは……天国か?」と、清潔なベッドの上で驚愕する老人。
ソフィアとリナの部隊が、一人ずつに高栄養の『魔導スープ』を一口ずつ飲ませ、体力を回復させている。
帝都の状況:
宮殿と貴族街以外の居住区が「完全な無人」となった。
皇帝と近衛騎士たちが窓から見たのは、自分たちが支配していた民が、光の粒子となって空へと吸い込まれ、自分たちだけが『空っぽの箱』に取り残された光景だ。
「……マサル、転移魔法の安定運用に成功した。これで、距離という概念は俺たちの前で無意味になったな」
カイルが額の汗を拭いながらも、達成感に満ちた表情で報告する。
「ああ。エレン、ハンス。救出した一万一四〇名が回復次第、彼らに最もふさわしい『役割』を鑑定して与える。彼らはもはや『弱者』ではない。この国の発展を支える、大切な国民だ」
俺は、静まり返った帝都の方向を見据えた。
「これでヴォルガ帝国には、プライドという名の呪いに縛られた皇帝と、数千人の騎士しか残っていない。……さて、エルフの国はどうだ? 彼女たちも、この『光の救済』を遠くから見ていただろう?」
「了解だ。ヴォルガの皇帝も、エルフの長老も、引き続き完全放置。あんな空っぽの宮殿や、枯れ始めた森に構っている暇はない」
俺が冷淡に言い切ると、カイルも深く頷いた。もはや彼らは「隣国の脅威」ですらなく、ただそこに存在しているだけの「過去の遺物」に過ぎない。
【国家『閃光の礎』・超高度社会フェーズ】
転移魔法の常設化(教育隊10,000名)
救出作戦で確立した転移技術を応用し、国内主要拠点に「転移ゲート」を設置。物流(ハンス部隊)と移動のコストが実質ゼロになり、二十三万人の経済圏が単一の巨大都市のように超速で回転し始める。
新国民の完全社会復帰(医療隊10,000名・教育隊10,000名)
帝都から救出した10,140名の弱者たちも、ソフィアの治療とカイルの基礎教育により、一週間で「一国民」としての健康と役割を手に入れた。
『祝祭』の日常化
特別な日ではなく、毎日が「清潔で安全で飽食」であること。これが周囲の国々にとって、どんな攻撃よりも凄まじい精神的圧力となっている。
「マサル、周辺国から送られてくるはずの『抗議の親書』すら届かなくなったわ。みんな、自分たちの国民がいつ光の柱(転移魔法)で連れ去られるか、怯えて窓を閉め切っているみたい」
エレンが愉快そうに報告する。もはや、こちらから噂を流す必要すらない。毎日空に昇る、物流と移動のための「転移の光」が、そのまま最強の勧誘メッセージになっている。
「……ふん。窓を閉めようが、俺たちが『役割』を広げるのを止めることはできない。カイル、次は国内のさらなる充実だ。各部隊一万名の精鋭たちの連携を、AI並みの精度まで引き上げろ。外の世界がどう自滅しようが、俺たちはこの『完璧な世界』を広げていくだけだ」
「了解だ。……ところでマサル、放置された皇帝が、たった一人で空っぽの食料庫の前で泣き崩れているという報告が入っているが、これも無視でいいんだな?」
「ああ。泣くエネルギーがあるなら、自分で土でも耕せばいい。俺たちのスープは、役割を持つ者のためにある」
【現状報告】
総人口: 約232,000名(安定・幸福度極大)
外交: 全方位無視(実質的な世界基準の構築)。
技術: 転移魔法のインフラ化完了。
俺たちが自分たちの国を磨き上げ、国内の完成度を極限まで高めている間に、世界は音を立てて塗り替えられていった。
【国家『閃光の礎』:超高度管理フェーズ(数ヶ月後)】
「距離」と「飢え」の完全克服
転移ゲートは各家庭レベルのインフラへと昇華。ハンスの物流部隊(10,000名)が、収穫したての新鮮な食材を、全国民のテーブルへ「転移」で直接届けるシステムが完成。
23万人の国民は、もはや「スーパーへ買い出しに行く」という概念すら忘れ、余った時間を自己研鑽や新たな「役割」の探求に充てている。
周辺諸国の「自然消滅」
ヴォルガ帝国: 皇帝が自ら城門を閉ざし、誰にも看取られず歴史から消えた。残された騎士たちも、最後は鎧を脱ぎ捨て、一人の「開拓民」として俺たちの門を叩いた。
エルフの自治領: 結界が完全に消失。長老たちは自分たちの魔法が時代遅れであることを認め、森の管理権をトトの農業部隊(10,000名)に委託。現在は「森の歴史研究家」という新しい役割を与えられている。
商業公国・神聖王国: 貨幣経済と宗教的権威が、俺たちの「圧倒的な物理的豊かさ」の前に完全に無力化。民衆が自発的に王宮を解体し、資材を持ってこちらへ移住してきた。
「マサル、もはやこの大陸に『他国』は存在しないわ。地図にあるのは、私たちが管理する清潔な居住区と、黄金色の農地、そして美しい自然だけよ」
エレンが最新の大陸全図を広げた。かつての国境線はすべて消え、十万人の部隊が張り巡らせた魔導ネットワークが、神経系のように大陸全土を覆っている。
「……ああ。カイル、最後に残っていた『王都』と『メルキア』の跡地はどうなった?」
「跡形もないぜ。旧王都は今や、十万人を収容可能な世界最大の『魔導演算教育センター』だ。メルキアの教会跡地は、ソフィアの医療部隊が管理する『薬草植物園』に生まれ変わった。祈る場所ではなく、人を癒やす場所にな」
カイルが淡々と報告する。23万人から始まった国民は、周辺諸国からの合流を経て、今や総人口100万人を伺う勢いだ。だが、十万人の精鋭部隊による管理体制は、一人の脱落者も、一人の飢死者も出していない。
「さて……」 俺は、かつてのサンクチュアリ王宮があった場所に建てられた、白く輝く「中央管制塔」の最上階に立った。
「大陸全土の『役割』は決まった。誰もが清潔な服を着て、温かい食事を摂り、自分の適性に合った仕事に従事している。……カイル、エレン。内側の完成はこれぐらいでいいだろう。次は、この大陸の外、海の向こうや、空の果てにいるかもしれない『不条理』に、俺たちの紳士的なやり方を教えに行く準備を始めるか?」
「ふふ、いいわね! この大陸を『庭』にしたんだから、次はもっと広い世界を私たちの『役割』で塗り替えましょう!」
俺たちの歩みは止まらない。 この清潔で、合理的で、そして飽食に満ちた「閃光の礎」は、今やこの世界の新たな理となった。




