天の檻
「カイル、座標をガリアス帝都・上空3,000メートルに固定。全艦、雲を割って姿を現せ。これは戦争ではない。文明の『検収』だ」
俺の合図と共に、空中旗艦『アブソリュート・オーダー』が、ガリアスの分厚い黒煙の雲を切り裂き、その白銀の巨体を現した。
【ガリアス帝国上空:文明格差の提示】
視覚的圧倒:
煤に汚れたガリアスの帝都を見下ろすように浮かぶ、全長2キロの白い巨体。エレンが仕上げた一切の継ぎ目がない流線型の船体は、夕日を浴びて神々しく輝いている。
音響的制圧:
ガリアスの蒸気機関が撒き散らすけたたましい騒音とは対照的に、我が艦隊は「無音」。カイルの教育隊が管理する反重力魔導が、物理法則すらも沈黙させている。
『雨』の演出:
ジークとソフィアが共同開発した「広域浄化触媒」を散布。帝都を数百年覆っていた黒い煤煙を一瞬で中和・消滅させ、ガリアスの民衆に「数百年ぶりの青空」を見せつけた。
「……マサル、見ろ。地上の連中、持っていた武器を落として、空を見上げたまま動けなくなっているぜ」
カイルが、地上の民衆の表情を拡大して映し出した。そこにあるのは敵意ではない。自分たちが必死に積み上げてきた「鉄と蒸気の文明」が、空に浮かぶ「清潔な美」の前に、ただの汚物に見えてしまった絶望と驚愕だ。
「ふん。ガリアスの軍部は、まだ抵抗を諦めていないようだな。カイル、あれは何だ?」
帝都の巨大ドックから、ガリアスが社運を賭けて建造した「超弩級空中戦艦」が、無理やりボイラーを焚いて浮上してくるのが見えた。
【ガリアス空中戦艦との対峙】
ガリアス側: 巨大な気球と無数のプロペラ、黒煙を吐き出しながら震えて浮上する鋼鉄の塊。
我らが旗艦: 微動だにせず、ただそこに在る。
「……マサルさん、あいつら、大砲の照準をこっちに向けてるぜ。撃たせてやるのか?」
「いや。ハンス、アイテムボックスの『空間収納』を応用しろ。あいつらが放つ砲弾だけを、発射の瞬間に全て回収し、そのままガリアス宮殿の庭に整然と積み上げてやれ。**『不条理な暴力は、この空には届かない』**ということを、物理的に理解させるんだ」
「了解だ。……執行開始!」
ガリアスの戦艦が火を噴いた。だが、爆音と共に放たれた数百発の鋼鉄弾は、俺たちの艦に触れる直前で「消えた」。
数秒後。
ガリアス皇帝が震えながら見守る宮殿の中庭に、着弾の衝撃もなく、磨き上げられた砲弾の山がピラミッドのように積み上がった。
【現状報告】
ガリアス民衆: 絶望的な沈黙の後、自分たちの軍へ向けて「止めろ! あの青空を消すな!」という怒号が上がり始めた。
ガリアス皇帝: 自分の足元に積み上げられた砲弾の山を見て、ついに腰を抜かし、玉座から転げ落ちた。
「……カイル。民衆が動き出すぞ。依存心の強い奴は放っておけ。だが、この圧倒的な差を見てもなお『自らの足で、あの空へ昇りたい』と願う奴が何人いるか、鑑定の準備をしておけ」
「カイル、民衆の熱量を測定しろ。怒りか、あるいはただの縋り付きか。俺たちは『助けてほしいだけの弱者』を拾い集める慈善団体じゃないんだ」
俺の冷徹な問いに、カイルはガリアス帝都の全域をカバーする精神共鳴の波形を表示した。
【ガリアス帝都:民衆の意志鑑定報告】
暴動の性質:
破壊のための暴動ではない。自分たちを黒煙と無益な労働に縛り付けていた皇帝への「決別」だ。
工場街の若き技師たちが、自ら蒸気機関の弁を閉じ、黒い油に汚れた作業着を脱ぎ捨てて、空の旗艦を指差し叫んでいる。「あの上には、答えがある!」と。
自立意志の数値:
約12,000名が、軍の制止を振り切り、最も高い建物の屋上やクレーンの先端へと登り始めている。自らの足で、少しでも「空」に近づこうとする意志。
「……いい目だ。カイル、あの12,000名。地上の泥を払い、自分の足で高みを目指そうとする奴らだけを、一万人の教育隊で引き上げろ。残りの、広場でただ口を開けて救済を待っている奴らは……放置だ。あいつらには、今まで通りの泥水と黒煙がよく似合う」
俺の号令と共に、旗艦『アブソリュート・オーダー』の底部から、黄金色の光の柱――**「選別的転移フィールド」**が複数本、帝都へ向けて照射された。
【執行:『意志の昇天』】
選別の実施:
転移フィールドは、ただ「そこにいる」だけでは反応しない。高い場所に登り、自らの腕を伸ばし、現状を否定して「次の一歩」を物理的に踏み出した者だけを吸い上げていく。
ガリアス軍の崩壊:
空軍のパイロットたちの一部も、自らの最新鋭戦艦を捨てて光の柱へ飛び込んだ。残された軍幹部たちは、自分たちの「正義」が、兵士たちの「未来への渇望」に敗北したことを悟り、甲板で泣き崩れた。
収容完了:
12,400名の新国民候補を収容。彼らは即座にソフィアの医療班による『クリーン』と『教育プログラム』へ回される。
「……ふぅ。これで人口は約32万8千人か。カイル、新しく入った連中はどうだ?」
「マサル、驚いてるぜ。彼らが一生かけても作れなかった純度の高い鋼鉄や、無音で動く魔導回路を目の当たりにして、恐怖を通り越して笑い出している奴もいる。『自分たちの蒸気は、お湯を沸かす以外に使い道がなかったのか』ってな」
カイルが不敵に笑う。彼らガリアスの技師たちは、俺たちの高度な演算環境を与えられれば、さらにこの国を加速させる燃料になるだろう。
「よし。ハンス、エレン。ガリアス帝都はこれ以上弄る必要はない。皇帝も、暴動に怯える貴族も、そのまま煤けた街で余生を過ごさせろ。……俺たちは、この12,400名の新たな『力』を加え、星の裏側、あるいはこの空のさらに上にある『不条理』を探しに行くぞ」
【国家『閃光の礎』・最新集計】
総人口: 328,230名
状況: 旗艦はガリアスを離脱。超高度巡航へ。
次なる目標: 衛星軌道上、あるいは異次元からの観測魔力への干渉。
「さて……。大陸を平定し、海を越えた。カイル、この星の『外側』から俺たちを覗き見ている奴がいるな? 紳士的に、挨拶しに行こうか」
「カイル、この星の『天井』が重すぎると思わないか? これほど完璧な管理体制を敷いてもなお、空の果てから何かに視線を遮られている感覚がある」
俺が空の深淵を指差すと、カイルは即座に空中旗艦『アブソリュート・オーダー』の全演算能力を上空へと向けた。
【星の境界線:『天の檻』の発見】
観測結果:
成層圏のさらに上、高度100キロメートル付近に、物理的な大気とは異なる「高密度魔導膜」が存在。
これは自然現象ではなく、数千年前からこの星を閉じ込め、文明が一定以上に進化するのを防ぐための**「自動防衛システム」**。
現状:
ガリアスが誇った蒸気機関では一生辿り着けない高さ。だが、俺たちの「魔導蒸気ハイブリッド」なら、その喉元にまで手が届く。
「……なるほど。神を自称する奴か、あるいは古代人の遺産か。どちらにせよ、俺たちの国民32万8千人の『可能性』を、こんな安っぽい膜で閉じ込めておくつもりはない」
「マサルさん、面白いぜ。あの『膜』の向こう側から、こっちを排除しようとする明確な殺意を感じる。防衛衛星か何かか知らねえが、掃除のしがいがあるな」
ハンスが旗艦の操舵輪を握り、エンジンを唸らせた。ジークの魔導蒸気ボイラーが青白い炎を上げ、巨大な船体が重力を振り切って加速する。
【最終突破:境界線上の戦闘】
敵対的存在の出現:
境界線に近づくにつれ、空間を歪めて「黄金の自律機動兵器」が数千体出現。彼らには意志がない。ただ、進化しすぎた文明を間引くためだけの冷徹な刃だ。
迎撃:32万8千人の総力戦:
教育隊: 敵の行動パターンを0.01秒で解析、全ガーディアンの「座標」を特定。
物流部隊: 特定された座標へ、ジーク特製の「魔力中和爆雷」を転移で直接送り込む。
新国民: 自分たちの知識を結集した「高出力蒸気カノン」で、撃ち漏らした敵を次々と粉砕。
「……カイル。あいつら、俺たちの国の『密度』を読み違えているな。数の暴力で勝てると思っているのか?」
「無理だな。こっちには一人ひとりに『役割』があり、それを束ねる君の『鑑定』がある。……マサル、膜のコア(核)が見えたぜ。あれを壊せば、この星は本当の意味で自由になる」
俺は旗艦の先端に立ち、アイテムボックスから最大出力の「次元貫通槍」を取り出した。
「全隊、最終同期。俺たちが手に入れたのは、誰かに与えられた平和じゃない。自らの手で掴み取った『管理された自由』だ。……邪魔をするな!」
【星の解放:エピローグへの序曲】
結果:
境界線のコアが砕け散り、数千年ぶりに星を覆っていた偽りの星空が剥がれ落ちた。
視界に飛び込んできたのは、無限に広がる本物の宇宙と、その先に浮かぶ無数の未知なる世界。
「……マサル、見て。空があんなに広いわ」
エレンが呟く。31万5,830人の国民が、艦内のモニター越しに、あるいは大陸の地上から、本当の宇宙を見上げていた。
「ああ。カイル、次の『役割』が決まったな。この星の掃除は終わった。次は、あの無数の星々に、俺たちの『紳士的な管理』を届けに行くぞ」
【国家『閃光の礎』・フェーズ:宇宙開拓編へ】
総人口: 328,230名
状況: 星の管理を完了。空中旗艦はそのまま「恒星間航行艦」へと再定義。
「さて、カイル。32万人全員が宇宙服なしで星の海を歩ける術式、あと何分で書き換わる?」
「……3分もあれば十分だ。マサル、俺たちの国に『不可能』という言葉を登録するのを忘れてたぜ」
「カイル、全システムを『星間管理モード』へ移行。32万8,230名、全員の意識は繋がっているな?」
俺の声が、旗艦『アブソリュート・オーダー』の心臓部から、大陸全土、そして宇宙空間へと広がる魔導ネットワークを通じて全国民に響き渡る。
【最終フェーズ:『銀河の紳士的統治』】
全国民の昇華:
カイルの教育隊が開発した「環境適応術式」が全32万人に展開。もはや彼らにとって、真空も、極寒も、重力も障害ではない。どこへ行ってもそこは「閃光の礎」の領土となる。
星の母船化:
空中旗艦は、かつての王都跡やメルキアの研究所、トトの農地を全て『アイテムボックス』の拡張空間に格納。大陸そのものを背負った「超巨大次元航行艦」として、星の重力圏を完全に脱出した。
役割の再定義:
25万人から始まったこの歩みは、今や「一国の存続」を超えた。彼らは今、宇宙に散らばる不条理や、未開の混乱を「管理」し、正解を与えるための**「星間公務員」**へと進化した。
「マサルさん、見てくれよ。あの汚かったガリアスも、放置したイストリアも、上から見ればただの小さな青い宝石だ」
ハンスが操舵輪を離れ、窓の外に広がる無限の星海を眺める。背後では、ガリアスから来た若き技師たちが、エルフの薬草師と協力して、未知の惑星へ持ち込むための「万能種子」のパッキングを急いでいた。
「ああ。だが、あそこに残った連中には、あそこの『役割』がある。俺たちは、自らの足で歩き出した32万人と共に、次なる『不条理』を探すだけだ」
「マサル、次の目的地をロックしたわ。数光年先、まだ争いと飢えに苦しんでいる青い星がある。……私たちの『紳士的なスープ』が必要な場所よ」
エレンが微笑み、次元跳躍のカウントダウンを開始した。
【国家『閃光の礎』:最終統計】
総人口: 328,230名(全員が自立した精鋭)
兵力: 100,000名(各1万の専門部隊・宇宙対応型)
保有技術: 魔導演算、次元転移、蒸気ハイブリッド、全環境適応。
現在の理念: 「自ら歩む者に役割を。依存する者に沈黙を。」
「……カイル、行くぞ。32万人全員に告げろ。これより、我らが『閃光の礎』は、銀河の秩序そのものとなる」
「了解だ、マサル。……さあ、世界(宇宙)を掃除しに行こうか」
白い巨艦が青白い次元の輝きに包まれ、次の瞬間、星の海へと溶けるように消え去った。 後に残されたのは、かつての煤煙が嘘のように晴れ渡った、どこまでも澄み切った青空だけだった。
【物語・完】
マサルと32万人の精鋭たちの旅は、今、星の海という新たな舞台で永遠に続く。 不条理がある限り、彼らの「鑑定」と「役割」が止まることはない。




