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第9話 バハムートの真相×信頼関係

 全員が部屋から出て行ったのを確認すると、フリューゲルさんがさっきまで見ていたファイルを差し出してきた。

「これは、トロス村を襲った飛竜災害に関する報告書と資料だ。疑うわけではなかったが、念のために確認をとらせてもらったよ。君の事が写真付きで載っていた」

 見せてくれたページには、救出された直後の酷くやつれた8歳の俺の写真とその状況が載っていた。あの時の俺ってこんな感じの顔だったんだ。鏡を見る時は当分先だったからわからなかったけど、屍みたいな表情だ。

「この表情から君は自分であちらの世界に行ってしまうのではないかと、誰しもが心配していた。前を向いてここまで来るのに、俺達では知ることのできないような苦悩や葛藤があったろう。まずは…よく生きてくれた。生き続けてここまで来てくれた。それだけでも君は立派だ」


 『立派』、か…。

 その言葉を聞いた瞬間、心の中から溜まっていた思いがあふれ出た。嬉しいや誇らしいと感情なのか、この思いをなんて言い表せばいいのかはわからないけど、少しだけ『報われた』。そう思えた。

「ありがとうございます。俺一人じゃ無理でした。友人と大切な人がいたから生きれました」

「ベルクマン君と、ヴァルフリートさんの所のミラ・フライハイトさんの事だね。試験会場で見させてもらったし、あの後に簡単な素行調査で調べさせてもらった。嗅ぎまわれるのは好きではないと思うが、決まりだから勘弁してほしい。それにしても、良い人達に恵まれたね」

「えぇ。復讐に生きる僕には、過ぎた人たちです」

 復讐という黒い感情が生きる気力になっている、到底まっとうな生き方ではない俺を、蔑むことも咎める事もせず、そのまま受け入れて一緒にいてくれている。俺なんかと比べる事すら烏滸がましいほどに、人間性ができた人たちだ。


「そんな自分を卑下するものじゃないさ。君の生きる理由になっているんだから、決して悪い事ではないと僕は思うがね。それに僕から見れば、君は復讐だけで生きているとは思ってないよ。周りには素晴らしい人が囲っていて、その中で君は良い表情で目を輝かせていた。それが何よりの証拠さ」

「そうかも、しれませんね。確かに心境に変化はありますが…僕にはそれがよくわからない」

「今はそれでいいんだ。そのうちわかるさ」

 この人もまた、そんな俺を受け入れてくれた。俺は周りの人の恵まれている。心底そう思う。


 そんな事を思っているとフリューゲルさんは指を鳴らした。俺とフリューゲルさんを囲むように周囲に魔法陣が発生。これは確か─。

「結界魔法だ。飛竜調査隊の隊長の部屋ともなれば盗聴や盗撮については警戒はしているが、念には念を入れてね。この魔法陣の中での話は誰にも聞こえないし、見えない」

「何のためにですか?」

「詫びと言っては何だが、飛竜調査隊としてバハムートについて公表できていない情報の1つを君に教えるためだ。少しだけ『真実』に近づく話にもなるから心して聞いてほしい」

 『真実に近づく』。言葉を理解したと同時に心臓がドクッと跳ね上がった。あの日の出来事が脳裏に流れ、気が付けば手を固く握りしめていた。

 フリューゲルさんと会ってまだ数分しか経っていないけど、この人がここまで前置きした上で嘘の情報をくれるとは思っていないという信頼感がある。王都に来て良かった。

 自然と背筋が伸びる。全身が強張ってしまっていた。

「そんなに畏まらないで聞いてほしい、と言っても無理だとは思う。けど今から話すことは、まだ確証がない憶測の域を出ない話だから誰にも言わないでくれ。友人にも大切な人にも」

「勿論です。僕の不用意な発言で、みんなをごたごたに巻き込みたくはありませんからね」

「フフフ、その発言もまた、君の心境の変化から来るものだと思っているよ。頑張って生きてその名の通り、大切な人の星空になれるように前に進んでくれ」

「はい…!!」

 眩しいほどの笑顔と輝く言葉に、胸の中がじんわりと熱くなった。初めて会ったばかりの俺にこんなにも心配をかけてくれる。人生いろいろあるけど、本当に出会う人には恵まれている。

 たしかに感じる心境の変化。その変化に戸惑いつつもその言葉の通り、俺は前を向いて歩いていかなくてはいけない。真実にたどり着くために。


「では話すぞ。心して聞いてくれ」

 真剣の眼差しへと変化し、場の空気が少し震えた。

 まだまだ謎の多いバハムートについて、いったいどんな事を聞かされるのか。


「バハムートは【飛竜種ではない】、という疑いが強まっている。というより、調査隊の中ではアレは飛竜ではないとほぼ結論付けている」


「飛竜じゃ…ない?」

 あの見た目で?あの破壊力で?

 衝撃的ではあるけど、それを俺が聞いてもどう真実に近づくことになるのだろうか。

「確かにそれは驚きですけど、それと俺の真実が一体…ん?待てよ。飛竜じゃないって事は…!」

 【魔物使い】。さっきフリューゲルさんが少ししてくれた何気ない話が、瞬時に蘇り、繋がる。

「そう。さっき言った通り、魔法学において【魔物使い】は古くから存在する。そして飛竜を操れたという事例は今も存在しない。これを見るに飛竜を操るのは不可能と言わざるを得ない。では…バハムートが飛竜ではなく【魔物】という分類なら、どうだろう?」

「バハムートなら操れることができる…!?」

「魔物使いという魔法の分類がある以上、そういう可能性があるという事だね。トロス村の一件は飛竜によって起こされた自然災害ではなく、君の言っていた通りに人為的に起こされた殺戮という話の根拠になるかもしれない。これはあくまでも、さっきの話を聞いて俺が感じた個人的な意見だけどもね」

 飛竜を操る人間がいなくとも、それなら存在しないわけではない。探す敵の特徴が根本から間違っていた。正体は一切不明ではあるけども、この情報はでかい。

「でもどうしてバハムートは飛竜じゃないと?俺は飛竜に関しては素人知識しか持ち合わせていないので、見分け方とか分類の基準もわかっていないんですが」

「詳しい基準はあまり公表していないからね。一般的な飛竜と魔物の分類の分け方は、大半が見た目だ。まだ飛竜の研究は始まってそれほど経っていないからこんな曖昧な基準でしかないけど、いくつかの共通する身体的特徴は一致すれば、それは『飛竜』とされる。大雑把に言えば、空を飛ぶための翼や蛇のような長い体、あとは解剖して骨なんかを見てから判断する。だが…ここ最近になってわかってきた事は、飛竜には他の種族にはない特別なマナが流れているという事だ。どの飛竜にもその特別なマナが存在する。しかし、いくら調べてもバハムートにはそれが存在しない。よって我々飛竜調査隊は、バハムートは飛竜ではなく魔物だと考えるようになってきているんだ。そのマナをどうやって感知したのかは機密事項だから省くよ」

 飛竜ってそうやって決まってたんだ。全然知らんかったわ。やっぱり専門家は違うね。

 特別なマナか…リンドヴルムと戦っていた時にはなんも感じなかったけど、きっと専門家ならではの感知方法があるのだろう。魔法とか機械とかで。

 でもこれで調べる道は開けた。

 【魔物使い】。数ある魔法学の1つだけど、その原初はかなり古いらしい。デュランダルの英雄譚でも悪の組織にその使い手が登場したくらいだ。魔法学の基礎からは少し外れた位置にあり、アレンジや改良のしやすさから様々な土地で独自に進化していっているという少し特殊なジャンル。一般的には魔物を強制的に操るというものではなく、心を通わせ仲間にするという術らしい。専攻外なのでこれくらいしか知らない。


「バハムートが確認されたのはトロス村の災害時が初めてだ。個人的にはその点もなんだかきな臭い。初めて存在が確認された魔物が英雄の生まれ故郷を壊滅させる…このまま放っておいては取り返しがつかないような、何か不穏な気配がする」

 まだ真実へは遠いけど、なんだろうか。妙な胸騒ぎがする。フリューゲルさんと話していく内に俺はもしかしたら、とんでもない事に首を突っ込んでいるのかもしれないと思えてきた。世界の闇に触れてしまっているのかもしれない。

 でも─。

「たとえどんなことが待ち受けていようと、俺は真実を求めます。家族のために、大切な人のために、そして俺自身のために」

 この気持ちは変わらない。きっとみんなは、そんな事は望まずに平和に生きてほしいと空の上から願ってくれているかもしれないけど。止まりたくない。これは俺のわがままだ。

「良い覚悟だ。安心したよ…君に話してよかった。俺も個人的に調べるとするよ。俺も大切な人を守るために、黙っているわけにはいかないからね」

 そう言って、こちらが委縮してしまいそうなほどに目を爛々と輝かせていた。でもこの人は味方みたいで安心した。どんなことが待ち受けていようと、とか言ったけど流石にフリューゲルさんを相手にしたくはない。ユニークスキル発現者だし。勝てる気がしない。

 得られた情報は少なかったけど、それでもその情報は俺がこれから進むべき道を教えてくれた。地道だけど真実に近づいてきている。その瞬間が来るまで、頑張らなきゃ。

「色々話を聞かせてくれて、ありがとうござました。少し前に進めそうです」

「貴重な話は少ししかできなかったのが申し訳ないけど、そう言ってもらえて安心した。でも僕の方からも君に聞きたいことがある」

「俺にですか…?」

 俺に聞きたいことなど何かあるだろうか?

 過去も含めて大体の事は話したし、隠している事は1つあるけどもそれは俺をよく知るミラちゃん以外には悟られてすらもいない事だ。自分で言うのもなんだけど隠匿するのは得意だし、長年一緒にいるライナーにするも勘付かれていない事をフリューゲルさんに悟られているとは思えない。まぁミラちゃんには秒で勘付かれたけど。でもあれはミラちゃんと俺だから気づけただけで、他の人ができるとは思えない。


「このファイルによると災害の後に、救助隊や騎士団関係者、国の上層部人間までもが君と面会し話を聞いているようだが、今さっき話してくれたような事はどこにも書いていない。俺とフレイ、さっき一緒にいたシルヴァーストーン君を除いて、過去を打ち明けた相手は他には誰かいる?」

「ミラさんとライナーには子供の頃に話しました。他は誰にも言ってません。救助隊にも上層部にも。2人に話した時には周囲を入念に確認してから言いましたので、誰かに盗み聞きされたり、見られたりとかもないです。目と耳には自信があるので間違いないです」

「ならなんで、俺達に過去の事を包み隠さず話してくれたんだ?フライハイトさんやベルクマン君は君の大切な人達だ。関係性と言うか信頼関係が出来上がっているから理解できる。でも当時の救助隊等に話さず、俺たちには話してくれた。どうしても気になるというよりも腑に落ちない。信頼関係という意味では、違いはないはずだけど」

「…あぁ、その事ですか」

 どんなことを聞かれるかと思えば。少し身構えていた身としては、安心したわけではないが少し緊張感が薄れた。

「俺に言ったのはフレイが連れてきたという事があるとはいえ、他の全員を追い出した後にフェイクを入れて話して色々と探る事だってできただろう。だがその前にフレイにも同じことを言って聞いている。君からすれば、俺やフレイが君の敵の関係者である可能性だって考えられたわけなのに、だ。俺の話を聞く前は、敵は飛竜と関係が深いと思っていた君なら、飛竜と共生を目指しているミネルバの人間こそ敵の有力候補だと思うんだがね。そんな俺達に、なぜ聞いたんだ?」

 その表情は心底不思議そうで、本気わからないと言った様子だった。

 確かに常識的に考えれば、バハムートを操れていたんだから飛竜と関わりの深いミネルバの民が敵との関係が深いと考えるのが普通だ。実際、数分前まではそう思ってたし。

 でも答えは単純で、実に非論理的だ。


「俺、弓矢の腕と同じくらいに人を見る目は自信があるんですよ。単純に言えば…直感です」

「えぇ!直感なの!?ほぼ勘!?確固たる証拠があったとかではなく…?!」

 心底驚いたというような表情で、目を真ん丸にして驚いてくれた。表情豊かな人だ。

 でもまぁ驚くよね。特に証拠もなく自分の勘だけを頼りに話しましたって、人によっては浅はかな行動だと非難するだろうし。

「無意識に鍛えられた洞察力と言うか鑑識眼といいますか…あの時には誰も信用していませんでした。もし話した相手が敵だったら殺されるという恐怖があったし、下手に喋って敵に情報が伝わって口封じに来るとも考えましてね。でもその疑心暗鬼に陥っていたからこそ、それからの人生はよく人を見るようになりました。それが経験になったのかはわかりませんが、少し会ったり見たりすれば良い人か、悪い人かどうかは判断できるように培われていきました。なのでこの短時間でも『フリューゲルさん達は敵ではない。味方になってくれる人達だ』と判断しましたので喋りました」

「なるほど…ね!」

 少し拍子抜けしたような感じで苦笑いして俺を見ているけど、これがまぎれもない事実。

 確固たる証拠はなくとも、自分の目と直感を信じる。自信があるからね。

「でもなんとなくその気持ちはわかる。俺も見てくれたらわかる通り、感覚派だ。自分の直感と経験を信じて行動に移すからさ。ベルクマン君やフライハイトさんは子供頃からの信頼が高いだろうから洞察力がなくとも信じれる。納得した」

「確かにライナーはそうですけど、ミラさんは1日しか一緒にいませんでしたよ。聞き取り調査が終わって最初に行った孤児院で会って、5分もしない内に全部話しましたね」

「えぇ!?納得できない!なんで!?」

「うーん…なんででしょうね?自分でもよくわかりませんが、彼女の前では隠し事はしたくなって思ったんですよね。包み隠さず、自分の全部をさらけ出して、それを見て欲しいって」

 ただただミラちゃんには話したいと思えたんだ。話さないという選択肢が自分の中ではなかった。今にして思えば何とも不思議な事だけど、話したからこそ『大切な人』になれたのだ。理屈では説明できない『運命』ともいえるようなものが、心を通わさせてくれるためにそうさせたのかもしれない。

「まぁ聞きたい事は聞けたし、大丈夫だ。他に聞きたいことはあるかい?ないならこれで解散になるけど」

「そうですねー…実はミラさんにも言ってあることなんですど─」

 真実にたどり着くために、目につく不安材料には飛び込んでいかなくては。

 


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