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第8話 過去の紹介×英雄の見解

 試験の結果は合格。養成学校への入学が許可された。

 学校といっても義務教育みたいに年単位ではなく、所属したい場所にもよるが基本的な在籍期間は半年くらい。剣術を学ぶ、高度な魔法を習得しつつ、危険度の低い実戦任務に当たる。

 様々な試験や実績を重ねて、卒業と同時に正式な騎士になり、騎士団所属となる。

 まずは、第一関門突破という感じだ。よかったー!!

 合格者は寮へと入ることになり、合格発表後にすぐ案内され、荷物を運び入れた。

 3階建ての木造建築で玄関から入れば木の良い香りが全身を包み込み、廊下を歩けば少し足音が鳴る。それなりに年季の入った感じだけど、綺麗で広々としているし、何よりも空気がいい。流石、騎士養成学校の寮だ。

 部屋は4人部屋。ベッドと机が人数分あるが、それだけで自分のスペースは満帆になるほどの広さ。ついでに男子寮、女子寮に建物が分かれていて、女子寮は2人部屋らしい。内覧を済ませたミラちゃんが教えてくれた。

 同室はフレイ君の友人?のエステルさんらしい。フルネームを『エステル・ハートフィールド』。合流した時には2人はすでにいい感じ意気投合していて友人関係になっていた。流石だ。

 そんな俺と同室なのは幼馴染のライナー、手合わせしたマーク、そしてフレイ君。この3人が当分の間はチームメイトとなる。他にはリーシャさんとヒーラー担当のエステルさんが固定のメンバーで、その時々で変わる上官1人を加えて行動していくようだ。

 ミラちゃんと一緒のチームじゃないのは凄く残念。正直寂しいし結構落ち込んでる。元々ヴァルフリート家の関係で最前線での任務より、司令部の護衛任務に当たる予定だったらしいから、別のチームになるのは仕方がないけどさ。一緒に入れると思ったのに…。


「面白そうなメンバーじゃねぇか」

 部屋に入った面々を前にマークが楽しそうに笑った。面白そうかはさておき、全員良い人だから良かったぁー!これから当分同じ部屋で過ごすからどういう人だろうかと正直すごく緊張してた。安心感が半端じゃない。

「そうだな。良いメンバーだ」

 どこか満足げに同調したのは、まさかのフレイ君だった。あの鬼神のような闘志に満ち溢れた表情と、近づくのも憚られるくらいの殺気は鳴りを潜めていた。しかしその声色と視線はなんとなく壁を作っている雰囲気で、俺達を警戒し探っている感じに思えた。

 そしてライナーもどこか警戒している感じだ。まぁこいつはいつも通りだ。父親の事もあって、人を信用信頼するタイプじゃないから。

 静かなるプレッシャーが部屋を包み込む。なんだろう、空気が重たい!


「まずは自己紹介といこう。知ってると思うがマーク・シルヴァーストーンだ。マナの属性は地。大地を操る事があったら頼んでくれ。ライメイ村出身。さっきまで一緒にいたリーシャは俺の彼女だ。お前らが狙ってるとは思わないが、一応な。そういうわけで今日から頼むぜ」

 そんな空気を気にすることなく、マークはマイペースに口を開いた。助かる。

 というか今、彼女って?

「やっぱり2人って付き合ってたんだ!なんだかそんな感じがしたよ!」

「普通だと思うけど俺たちの情熱が漏れ出てしまったらしいな。俺にとってリーシャは最高の女だ。寮が別れていて残念だ。これも恋のために乗り越える障害…燃えるぜ」

 普通だとか言っているけど、人前で頬っぺたにキスしていたんだから普通は恋人だと思うんだけど。でも俺にはそういう経験がないから何とも言えないけど。

「うーん、恋愛については全然わからないけど、そういうもんなんだね」

「エドガーにはこの話は早かったな。俺ばっかり話しても仕方がない。次だ、次」

「なら俺が行こう」

 名乗りを上げたのは意外にもフレイ君だった。

 それにしても恋愛について、俺が知る時は来るのだろうか。


「フレイ・フリューゲル。属性は火だ。さっきの騒動で知れ渡った通り、ミネルバの人間だ。聞きたい事があるなら聞いてくれて構わない。どの程度の付き合いになるかはわからないが、よろしく頼む」

 余裕のある表情で聞いて構わないって言ってるけど、目の奥から警戒心が漏れ出ていて本音を答えてくれそうにはない。だからこそこの低姿勢なのがむしろ怖い!!俺、聞けるかな?今から聞くのが怖いんだけど。

 でも仕方がない。どうなろうとちょっと踏み込んでみよう。


「じゃあ次は俺!名前はエドガー・アクセル・スターリースカイ。風属性だ。グランバレー孤児院で育ったけど出身は…トロス村だ」


「ハァっ!?トロス村って…英雄の生まれ故郷のか?!」

「スカイ国唯一の『飛竜災害によって地図から消えた村』…でもあるな」

 出身を言った途端、マークとフレイ君が目を見開いた。その横で俺にだけ聞こえるように『無茶をしやがる』とライナーがぼやいた。どうやら俺の意思を読み取ってくれたようだ。流石。

 2人の反応は想定内だ。あの村は、いろんな意味で有名になってしまったからね。

 飛竜による災害は後を絶たないが、村が壊滅し地図から消えるまでの被害を負った例は、スカイ国内ではトロス村が初にして、唯一だ。

「それで合ってるよ。俺とこいつの生まれ故郷だ」

 ライナーの肩をポンッと叩く。1つため息を吐いた後、ライナーは口を開いた。

「紹介に預かったライナー・ベルクマンだ。マナ属性は水。人生の半分以上はグランバレー孤児院で育ったが聞いた通り、生まれ故郷はトロス村だ。俺の場合は、あの災害が起きる前に諸事情で村から引っ越していたから、こいつと違って最期を見る事はなかったがな」

「待て待て待て!最期って…噂では、あの飛竜災害で生き残ったのはただ1人。子供だったと聞いているけど…まさか」

 全てを察してくれたようで2人の視線が俺に集中する。

「そのまさかだよ。バハムートによってトロス村は壊滅したけど、その現場にいて唯一生き残ったのが当時8歳の子供だった俺、エドガー・アクセル・スターリースカイだ。たぶん当時の資料を見てくれれば確認できるんじゃないかな。聞きたい事があれば話すよ」

 4人しかいない部屋が一瞬にして静まり返り、沈黙が支配した。部屋の外のがやがやとした話し声や物音だけが、静かに響き渡った。


「なんでそれを、俺達に話そうと思った?」


 沈黙を破ったのはフレイ君だった。感情がいまいち読み取れない静かな瞳で、俺の真意を確かめようと真っ直ぐ見つめている。おそらく俺の考えが少し予想できているのかもしれない。

「色々あって人を見る目には自信がある。2人を信用しようと思ったから。それと、俺が知りたい理由を話さないとフェアじゃないと思ったからだね。フレイ君、聞きたいことがある。バハムートについてと、今から話すことの見解について」

 そして俺は、あの日に自分が見た出来事を話した。災害の詳細。家族の最後。バハムートの事。そして、飛竜を操る謎の人間の存在と、俺の復讐への思いを。

「…」

「俺は敵を討つために、敵の情報を探して騎士団に入ろうと思った。どうか、何か知っていたらどんな些細な事でもいいから教えてくれ。頼む!」

 警戒されているなら最初手の内を明かして、自分の考えを全て見てもらった方が普通に隠して探っていくように過ごすよりも遥かに良いと思ったから。

 さっきのオブライエン隊長の様子を見ていれば、何かと詮索されてきてミネルバの民として嫌な思いをしてきただろうから、後から聞いたのでは逆に信頼関係は築けない。まぁでも人によりけりで、これで心を閉ざされるってのも十分に考えられるけどね。だからこれは、賭けだ。

 こめかみ辺りを揉むように手で覆い、少しの間沈黙。悩んでいる様子で何度かため息をついた後、大きく息を吐き、真っすぐ俺の目を見た。


「付いてこい。全員だ」

 なんだか事態が動きそうではある。まずい…緊張してきた。

 言われた通り、フレイ君の後を黙ってついていく。寮から出て向かったのは騎士団本部のスカイスクレイパー。なぜここに?フレイ君は無言だし、前を行くから背中しか見えていないが別に殺気立っているわけでもない。感情が読めない。だからこそ怖い!

 受付を済ませ、迷うことなく歩みを進めていく。すれ違う人達は少し怪訝そうな表情を浮かべているがフレイ君は軽く挨拶をしつつも、どんどん先に進んでいく。どうやら初めて来たという感じではないようだ。

 数分の無言の後にたどり着いたのは、第三騎士団副長室だった。すなわちフレイ君の兄である、ニック・フリューゲルさんの部屋だ。

 部屋の名前を一瞥すると、部屋をノック。


「フレイだ。お客さんを連れてきた。ちょっと時間貰ってもいい?」

 そう声をかければ。

「今なら大丈夫だ。入ってくれ」

 そうフリューゲルさんからの返答が。めっちゃ緊張してきた。急展開過ぎないか?まだ心の準備がいまいちできていないよ!

 しかし嘆いても時間は無情にも動くもので、返答を聞くと同時に扉を開き、中へと通された。

 書類らしきものを山積みにしたテーブルの奥、椅子に深く腰を掛けたフリューゲルさんがにこやかに迎えてくれた。さっきの戦闘よりも少し疲れた表情を浮かべているし、やっぱり役職が多いとやることが多いんだな。お疲れ様です。

「おや?君達か!まずはおめでとう!無事養成学校を卒業して、立派な騎士になってくれよ!」

 此方の緊張など意にも返さず、律儀に合格の祝いをしてくれた。あまりの優しい声色に緊張感がほぐれて、恐縮しながら頭を下げた。けどこの動じなさ、流石だ。


「書類に目を通してる所に悪いな」

「むしろ気分転換になって助かったよ!体力仕事ならバンバンできるけど、書類関係の仕事は苦手だし全然したくないからさ、疲労感が半端じゃなかったんだ。あぁ~疲れた」

「お疲れ様。まぁ気分転換になるような話題を持ってきた。ちょっと…俺よりもニックから話してもらった方がいいと思って連れてきたんだ。スカイ騎士団のミネルバ代表から話を聞いた方が納得するだろ?」

 そう言って俺に視線を向けるフレイ君。ん?ミネルバ代表?

「え?ミネルバ代表って…」

「俺の役職は第三騎士団副長、飛竜調査隊隊長、そして騎士団に所属するミネルバの代表を務めているよ。正直どれか1つに絞りたい。疲れた、やめたい。早く誰か変わって…」

 一瞬、瞳から光が失われたような気がする。本当にお疲れ様です。

「それはさておき。彼から話がある。スターリースカイ、俺に言った事をニックに言ってくれ。俺はコーヒーでも淹れておく」

「ありがとう。ミルク多めで頼む」

 フレイ君は棚の方へ行き、コーヒーを入れる準備を始めた。兄弟って感じで和むなぁ。


「副長としてじゃなく、ミネルバ代表しての話か…なるほど。面白そうだ。遠慮せず、何でも聞いてくれていいぞ」

 先ほどまで光を失っていた瞳は爛々と輝いていて真剣そのもの。表情は心底楽し気ににこやか。フレイ君の様子から、きっとつまらない質問ではないと感じてくれたのかもしれない。

 俺もその意思に応えて、自分の人生をぶつける覚悟を持って心を決めよう。

 先ほどフレイ君に話したことをフリューゲルさんにも話した。


「どうか知っている事があったら教えてください!お願いします!」

「…なるほどね。ちょっと待っててくれ」

 少しの沈黙の後、フリューゲルさんは立ち上がると棚から1つの古びたファイルを取り出し、開いて眺めた。何もしゃべらず、真剣な眼差しで読み漁り、あるページに入った時に手を止め、食い入るようにそのページを見続けた。

 一体何を見ているのか、どんな答えが返って来るのか。不安と緊張で高まった心臓の音が耳をつんざく。

「君があの、唯一の生き残りの少年か…」

 少ししてパタンッとファイルを閉じ、真っすぐと視線を向けてきた。


「あの飛竜災害の時、救命信号を受けて真っ先に向かったのはたまたま近くを通っていたミネルバだった。だが飛竜との共生を謳い、それを信条に生きてきたのにバハムートの出現を予期できず、注意喚起もできなかったのは我々の責任だ。ミネルバを代表して謝罪したい。申し訳なかった!俺達の力不足だった」

 深々と頭を下げるフリューゲルさんとその隣で同じように頭を下げるフレイ君。

「2人ともやめてくださいよ!ミネルバが悪いなんて誰も思っていません!あんなの…誰も悪くない」

 飛竜と1番距離が近い人達ではあるが、あれを予期するのは無理だろう。だって人為的なものなんだ。あのローブの人間たちが何かしたに違いない。そんなものを予期できる方がおかしい。飛竜と距離が近いというだけでミネルバの人たちが謝るのは間違ってる。

「バハムートが確認されたのは、トロス村の災害が初めてだ。君の言う通り、あれがそのローブの人間たちが起こした人為的なものだとしても、バハムートというあれほどの巨体が移動していたならば気づいていなくてはいけない事だった。痕跡も見つける事が出来ず、気づくことすらもできなかったのは我々の力不足と言わざるを得ない」

 俺は飛竜の専門家ではない。だからその痕跡や兆しを発見する苦労もわからないが、ミネルバで見つける事が出来ないのなら誰であろうと無理だと思っている。

 でもフリューゲルさんはそうは思っていない。心底申し訳なさと、力不足を悔やんでいる。それはきっと責任感であり、一種の使命だと思っているからなのだろう。ミネルバにとって、飛竜関係はそれほどまでに重い事。逆にこっちが申し訳ないくらい、全てを背負わせてしまっている。


「そして…本当なら君の謎には全て答えたい所だが…それは無理だ」


 眉間にしわを寄せ、こちらが申し訳なそうなほどの心苦しそうな表情を浮かべて言葉を絞り出してくれた。

 本当に誠実で良い人柄だ。俺なんかのためにこんなに苦しそうな表情を浮かべてくれている。実力だけではなくこういう面があるからこそ、英雄と呼ばれて慕われているのだろう。

 でもその誠実さがわかってしまうからこそ、この答えが重く、辛い。


「まず飛竜を操る人間だが、それは我々ミネルバではない。我々はあくまでも共生を目的としていて、強制的に従わせたりするのは禁忌としている。魔法学でも習う【魔物使い(ビースト・テイマー)】という項目があるが、飛竜を操ったという例は聞いた事はない。飛竜を操るのは不可能だと言わざるを得ない。ローブの人間についても残念ながら情報はなく、あの災害について人為的な介入が行われたという痕跡も証拠は発見されておらず、自然災害だというのがスカイ国全体での見解だ。巷で噂の『ドラグーン・バレー』と言われているが、それもミネルバではない。実在するかどうかも、我々にはわからない。これがミネルバ代表としての答えだ。君は本当のことを言ってくれていると思うが、何も見つかっていない。すまない」

「…そう、ですか。フリューゲルさんの誠実さは十分に伝わったので…十分です」

 仕方がない。真実に近付けるとは思っていなかったし仕方がないとは思うけど、こうも簡単に空振りだとドッと落ち込むな。そんなに甘いものではないと何度も言い聞かせてきたけども、成果がないのは精神的にきつい。

 するとライナーが軽く肩を叩いてくれた。落ち込んでいるのが自分で思っている以上に全身から現れてしまっていたようだ。


「スターリースカイ君、2人だけで話そう。みんなはすまないが、ロビーで待っていてくれ」

 何を話すのだろうか。想像もつかない。


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