第5話 王都×英雄
「うわぁ~!!ここがイクシオンかぁ!!初めて来たけどスゲェ~!!」
「王都なだけあって大きさも、人の多さも、そして喧騒具合は桁違いだな」
門の受付を通り抜け、人生で初めてイクシオンとへ足を踏み入れた。
レンガと鋼鉄を組み合わせた城壁は飛竜や魔物の攻撃を受けてもびくともしなさそうなほどに堅牢そうで、遠くから見ればまるで山脈のように雄大で、近くの門から見上げれば後ろに倒れてしまいそうになるほどの巨大だ。
いくつもの尖塔が並び、その先端には悠然とスカイ国の国旗が風に靡いている。城壁を囲むように水堀があり、その中には色鮮やかな鯉や大人しい水生魔物が優雅に泳いでいて、なんだか心が癒された。
視界に入る待ちゆく人たちも、パッと見ただけで俺が過ごした孤児院のある村の人口よりも多そうだ。街並みは、祭りをしているわけでもないのに活気にあふれているし、どこか華やかで煌びやかだ。村の祭りよりも賑やかで騒がしい。都会って凄い。
予定通り、1日かけて目的地である王都イクシオンへとたどり着いた。最初の2日間に比べてあっという間だった気がする。
道中はヴァルフリートさんの馬車に付いていって、凄腕の護衛に囲まれながら過ごすという今までに体験した事がない状況にあって緊張したけど、その反面凄く安心できた。ミラちゃんも職務中とあってか、再会して時と同じように凛としていて半端じゃなくカッコよかった。ずっと見惚れていた。側にいてくれるのだから、安心できないわけがない。
「初めてのイクシオンはお気に召してくれたかしら?…って、もう何か食べてる?」
声のする方を振り向けば、手続きを終えたヴァルフリートさんがミラちゃんとメテウスさんを引き連れて優雅に佇んでいた。流石貴族か、ただ立っているだけなのに華がある。
この3人だけのようで、どうやら他の護衛の人たちは一緒には来ないらしい。
ついでに俺とライナーは、入り口で売っていたグリフォンのから揚げを食べている。
ヴァルフリートさん一行とは入る門が違うので、イクシオンに着く少し前に一旦短めのお別れしていた。イクシオンに近づくヴァルフリートさん達に気付いた門番関係の重役が出向いてきて、立派な正門へと案内し始めたのだ。正門はきっと貴族とか国の上層部専用なのだろう。
俺達は外の人間なので別の門へと誘われた。といっても、ヴァルフリートさんの口添えもあり遠くのではなく、すぐ隣の城門で手続きやらなんやらを済ませる事ができた。
乗せてくれた御者さんにお礼と安くしてもらった手間賃を渡してそこも別れ、手続きも終えてついに、イクシオンに到着。
ヴァルフリートさんが重役やお偉いさん達に挨拶をしている間に少し時間があったので近くにあった露店でグリフォンのから揚げを買って、早速頬張っていたのだ。身が引き締まっていて美味しい。噛めば噛むほどに旨味が溢れてくる。
「グリフォンのから揚げを食べてました!」
「フフッ、エドガー君は相変わらず美味しそうに食べますね」
「ミラさんも食べる?沢山買ったから皆でどうぞー!」
人数分買っていたのでミラちゃんと2人にもあげた。
早速、受け取ったから揚げを口に放り込むと、満足げに頷くミラちゃん。お気に召してくれたようだ。いつもどんな料理を食べているのかわからないけど口に合ってよかった。
「なぜ人数分を?」
「彼はそういう人なので」
「なるほど。ミラ、いいお友達を持ったわね」
そう言ってヴァルフリートさんとメテウスさんは同時にミラちゃんの頭を撫でた。慈愛に満ちた目で優しく、丁寧に、まるで割れ物に触れるかのように慎重に。この仕草だけで2人にどれほど大切にされているかというのがわかる。
高身長のミラちゃんは頭を軽く下げてそれを受け入れ、嬉しそうに撫でられている。なんだかキラキラ輝いていて、尊くて胸がほっこりする。それと同時に、こうやって誰かに頭を撫でられて嬉しそうにしているミラちゃんが見れて嬉しくてたまらない。
(よかったね、ミラちゃん!)
大切な人が幸せでいる。これほどまでに嬉しい事はない。俺も頑張らないと。
から揚げを頬張りながらメテウスさん先導の元、石畳の街道を進み、騎士団養成学校入学試験会場へと向かう。受付の場所は、騎士団本拠地らしい。
街の中心に向かうにつれて人の往来は激しくなり、活気が高まっていく。王城への広々としたメイン通りの両サイドには深緑の葉をつけた綺麗な街路樹が等間隔に植えられていて、その奥には豪華絢爛な店が立ち並び、常に人が溢れている。
だがある一本道に入った時、その賑やかさは姿を消した。
コケ一つ生えていない石畳の街道の奥。王城と見間違えるほどに巨大で、何棟もの尖塔が点に向かって伸びている城が姿を現した。
石レンガで組まれたアーチ状の門と、それに連なる厚く強固な外壁は水に墨を垂らしたような薄く黒い。天高く伸びた尖塔に刺さる国旗ともう一つの旗。太陽の様に明るいオレンジの生地に、交差した剣とランスを包み込むように広がる四枚の羽が描かれている。
他とは明らかに違う荘厳な雰囲気の建物の前は人でごった返していたが、響く声は淡々とした事務的な会話がほとんど。殆どの人間が緊張感に包まれ、どこか落ち着かない様子。格好はバラバラだが、背中や腰に武器を付けている。
間違いなくここが。
「ようこそ、スカイ国騎士団本拠地─【スカイ・スクレイパー】へ」
一歩前に出たヴァルフリートさんが騎士団本拠地をバックに両手を広げポーズを決めた。黒髪が靡き、陽の光で瞳が煌めく。まるで物語のラスボスのような迫力があってカッコいい。そして背景に騎士団本拠地があるのが絵になっていて、少し感動してしまう気持ちがある。
その様子を見てミラちゃんとメテウスさんは拍手を送っているし、この雰囲気なんか良い。俺も倣って、拍手を送る。
「皆さん、お久しぶりだね!」
決めポーズをしていたヴァルフリートさんに爽やかな声がかかる。
声の方に目をやれば、そこには2人の男性が立っていた。1人は透き通るような水色の髪に金色に近い輝かしい瞳。太陽の光に負けないくらいに屈託のない笑顔を向けてきている。
もう1人は対照的に気だるそうで、頭にバンダナを巻き、黒髪の間から覗く目は鋭い。何かを見定めるかのように全員をくまなく見渡す
2人ともスカイ国の騎士の証である、スカイ国旗が刻まれたライトグリーンの鎧を纏っていた。騎士団の人で間違いなさそう。ぱっと見、かなり強そう。
「あら?フリューゲル副隊長とシュヴァルツ補佐官。ごきげんよう。お出迎え感謝します」
その名前には聞き覚えがあった。俺個人がというより、この国にいるならばその名を聞かなかった人の方が少ないのではないだろうか。
「フリューゲルとシュヴァルツ…まさか、お二人はあの伝説の第三騎士団の!?」
今も続く、隣国セレスクロニクル国との長きに渡る戦いの一幕。
スカイ国とセレスクロニクル国は幾多もの戦いを繰り広げていた。テーブルを挟んだ小さな衝突から、国境が変わってしまうほどの大規模なものまで。幾度も幾度も衝突してきた。
2年前、何度目かになる大規模な戦闘状態に入り、いくつかの都市や雄大な自然が荒れた大地へと姿を変えた。そもそも武力では劣っているスカイ国は毎回劣勢だったが今回は過去最大に苦しい展開で、あと一歩何かが違えばこの国はなくなっていたと聞く。だがそれは、英雄の活躍によって一気に状況が変化した。
危険を顧みず少数精鋭で敵陣へと忍び込み、主要基地を破壊。補給路を断ち、さらには、いるだけで戦況を変えると言われている四将の1人を退けた。これをたった1日で全て完了させ、文字通り戦況を変えた。セレスクロニクルは前線から撤退。両国で講和条約が組まれた。
それをやり遂げたのが伝説とも言われる『第三騎士団』だ。
フリューゲル副隊長はその四将と1対1で戦い正面から退けた人。シュヴァルツ補佐官はこの電撃戦の実行を指揮し、1人もかけることなく生還させ、国から勲章をもらった。
2人の活躍がなければこの国は消えていたかもしれない。いわばスカイ国の英雄である。
「いやいや伝説なんて大げさな…」
「あぁ、そうだ。あの伝説の第三騎士団のロジャー・シュヴァルツだ。で、こいつが英雄のニック・フリューゲル。名前だけじゃなく、しっかりと顔も覚えてやれ」
「おいロジャー!少しは謙遜しろって!嬉しいけど…嬉しいけど!」
「心の声が駄々洩れじゃねぇか」
話でしか聞いていなかったからどんな人柄なのかまでは伝わってきていなかったけど、陽気で良い人そうで安心した。
この人たちが国を救った英雄か…実際に目の当たりにできてなんだか感慨深い。
「ここにいるという事は、お二人は今回の試験官に?」
「えぇ!担当の騎士団は違うしこういうのは苦手だと言ったんだけど、上層部から『英雄がいないと示しがつかない』とかなんとかで、無理やり試験官に選ばれちゃいました。それで、この子たちが今回の入学希望者?」
ヴァルフリートさんの後ろにいた俺達に3人に目を向けた。
黙ったままジッと数秒見つめると満足そうに微笑んで頷いた。
「うん、君ら良いね!これからが楽しみだよ!」
何が良いのかはわからないが、そう言ってくれたのは嬉しい。頑張るぞ!!
「そうでしょ?期待以上の活躍をしてくれると思うわ。特にミラが。騎士団司令部長の1人である私が言うのだもの、間違いないわ」
「お嬢様のご期待に沿えるように誠心誠意頑張ります!!」
得意顔で胸を張るミラちゃんとヴァルフリートさん。仲の良さを見せつけられ、少し緊張感のあった空気が和んだ。
ん?というかヴァルフリートさんって騎士団のお偉いさんなの?役職持ちなの?
「ヴァルフリート家は騎士団設立に大層な力添えをしたから役職は貰えるが、あの地位にいるのはまぎれもなく実力だ。試験官の1人でもあるし…敵には回すなよ?」
俺の心を読んでいたかのように、メテウスさんが俺にだけ聞こえる声で話してくれた。釘を刺すような圧のある声なのは聞き間違いではないだろう。少し背筋がジッとした。
ヴァルフリートさんはもちろんの事、メテウスさんも敵に回さないと心の中で誓ったのだ。




