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第4話 あの日に見た光景×動き出す歯車

 世間ではトロス村が滅んだ理由は、飛竜による自然災害が原因だと言われているけど『真実』は違う。

 

 10年前、トロス村を壊滅へと追い込んだ厄害の正体は、【飛竜とそれを操るローブの纏った人間】だ。自然災害なんかじゃない。『人為的な殺戮』だ。


 あの日、俺たちは何も変わらぬ夜を過ごしていた。陽が沈み、家族でテーブルを囲んで夕食を食べていた。妹も弟も母も父も幸せに笑っていて、それがたまらなく嬉しくて暖かくて、どこにでもあるような平和な空間。

 だが唐突に、その瞬間は終わりを告げる。

 

 耳をつんざく咆哮と共に轟音と破壊音が村全体に木霊する。歩くたびに内臓をも揺らすような巨大な生き物の足音。様子を見に全員で玄関から飛び出した瞬間、血のような朱色をした巨大な瞳と視線が重なった。それが巨大で禍々しい漆黒の飛竜だと一瞬で気づけた。視界の端に、同種の飛竜が村を攻撃し破壊していくのが見えた。

 咄嗟に逃げようと足を動かそうとした時、母が俺を突き飛ばして家に押し込んだ。突き飛ばされ体が宙に浮いていた最中、最後に見た母は悲痛で懸命な表情で『逃げて』と口を動かしていた。


 受け入れたくない現実に抗うために手を伸ばそうとした瞬間、家が崩壊する音が聞こえたと同時に全身を衝撃が貫いて暗転。だがすぐに全身に激痛が走り強制的に意識が回復。

 家は跡形もなく崩れ去り、俺は瓦礫に埋もれていた。瓦礫の隙間からは僅かに外の景色が見えた。遠くから悲鳴と破壊音、時折閃光が駆け巡る荒々しい空間の背景には広大な星空がいつもと変わる事無く燦然と輝き続けている。透き通った星空は残酷なまでに綺麗で、今までの人生で一番の輝きを放っていた。

 絶望と無力感が心を支配していくが声も涙すらも出ない。力も入らず、ただただ呆然とわずかに見える外の景色を眺めるしかなかった。


 そしてその時、1体の飛竜とそれに乗るローブの人間がぎりぎり見えた。飛竜はその人間の指示に従い、村を破壊していく。飛竜を操る人間など聞いたことはなかった。食い入るように見つめていれば、爆風で一瞬だけローブとその袖がめくり上がり、腕を月明かりが照らした。

 【赤黒く光る2匹のウロボロス】。そしてかすかに見えたその男の顔。

 これが『敵』の唯一の情報。そしてこれがあの日に起こった、俺が見た『真実』だ。


 精神的にボロボロで誰も信用できる状況ではなかった俺は、調査団に対して『見たこともない黒い竜に襲われた』という最低限度の証言で終わった。調査団も精神崩壊寸前な上にそもそもまだ8歳の子供の証言などあてにはしていなかったようで、それ以上は聞かれもしなかった。


「この10年で調べてみたけど、ウロボロスの入れ墨についての情報は全然無くて。飛竜を操る人間は、スカイ国の伝承【ドラグーン・バレー】くらいしか目ぼしいのはなかったかなー。そして…あの日に見た飛竜が、危険度ランク最上位に属する【バハムート】っていうのを知れたくらいだね」

「バハムート…狂暴性と圧倒的戦闘能力、そして唯一意思疎通が不可能と判断され飛竜保護法が適応されない飛竜ですね。目撃情報が出た地区の住人には即避難が命じられ、騎士団から飛竜討伐隊が即時に出動するという。なるほど…それがエドガー君の村を襲った飛竜」

「うん。でもそれがわかったところでって感じではあるんだよね。意思疎通ができない飛竜をどうやって操っていたのか…俺の知らない、いや世間にすらも知られていない魔法があるのかもわかりようがない。まぁ田舎の孤児院じゃ調べられる限界があるからね。そういう所も含めて騎士団に入れば情報も見つけられるんじゃないかな?って思ってさ。ミラちゃんは何か知らない?飛竜とかウロボロスの入れ墨とか」

「そうですね…私も気になって調べてみましたがウロボロスの入れ墨については何ら情報はなし。ただ…飛竜と共生する一族【ドラグーン・バレー】については、その存在は架空のものではなく実在するのでは?と噂になっています。飛竜関連の品を調達してくる遊牧民『ミネルバ』がそうなのではないか…なんて、まことしやかに囁かれていますがどれも根も葉もない噂ですね」

「ミネルバ…ドラグーン・バレー…むぅ」

 『遊牧民ミネルバ』─季節ごとに家畜と共にスカイ国内を移動し、定住地を移す民族。独自のルートで手に入れた飛竜の鱗や牙、挙句は血を使って秘薬を作り出せる異質な存在。その希少な存在故に山賊や悪党から狙われる事があるらしいが、国に対して飛竜の秘薬を譲渡する事で直属の護衛を付けてもらい、その身の安全を確保しているという。

 正直かなり怪しい。

 どうやって飛竜の体の一部を手に入れているのか?どうして秘薬が作れるのか?その一切は謎に包まれている。護衛を派遣している王族の一部は知っているらしいが、それがまた怪しさに拍車をかけている。怪しい。

 もしかしたら俺の謎を解いてくれる存在なのかもしれない。はたまた…『敵』そのものなのかも。

「これは調査のし甲斐があるってもんだね!」

 なんだか真相に一歩近付けたような気がする。そう思えば胸の奥からエネルギーが溢れてきて、イクシオンに行くのが待ち遠しくて仕方がない。

 俺はどんな危険な目に会おうとも、あの日の真実が知りたい。なぜ俺の村は、家族は、あんな目に合わなくてはいけなかったのか。その答えを知りたい。


「ありがとう、ミラちゃん」

「ただの噂話を話したにすぎませんよ。私も協力できることがしますので、いつでも頼ってくださいね」

「頼りにするよぉ~!だからミラちゃんも俺の事を頼りにしてね!あんまり役に立てる気がしないけど応援する事だったらできるから、応援は任せてください!!」

「フフッ、そんな自信満々に自信がないと言わないでくださいよ。全く、もう…。ではそろそろイクシオンへと行きますか。話の続きは着いてからじっくりしましょう」

「そうだね!また飛竜や魔物が出ないとも限らないし」

「では私たちの馬車の後に付いてきてください。話は付けておきますので」

 そう言うと少し名残惜しそうにしつつも後ろに振り向き、歩き出そうとした。

「あ、待ってミラちゃん!」

 あることを忘れていたので呼び止めた。

「どうかしましたか?」

 少し小首を傾げて不思議そうな顔で俺を見る。そんなミラちゃんに近づいてスッと手を伸ばし、頭を撫でた。

「ありがとうミラちゃん。頑張ったね。やっぱりミラちゃんと俺といえばこれだよね」

 短くなった綺麗な髪はあの時と変わらず、艶やかで、サラサラで、滑らかで撫で心地が半端じゃなく良い。髪の長さが違うけどそんな事は関係なく、あの時と同じ。ずっと撫でたくなっちゃう。

 頭に触れているけどもこの瞬間は心も繋がっている、そう思えた。

「もう…本当にあなたという人は…」

 あの時と同じ、一瞬キョトンとして表情を浮かべた後にすぐに嬉しそうに笑ってくれた。

 少し呆れているような言葉とは裏腹に、あの時と変わらない最高の笑顔を見せてくれる。それがたまらなく嬉しくて、幸せで。ずっとこうしていたい。

 撫でられる感触を堪能するようにミラちゃんは目を閉じた。時折くすぐったそうに喉を鳴らす。可愛い。

「っん…エドガー君は撫でるのが好きですね。でも髪は凄く短くなっていますから、あの時とは撫で心地が全然違いますよね?」

「そんな事ないよ。あの時と同じ。撫でてるこっちが幸せになるくらいだよ。ベリーショートの髪も良く似合ってるよ!カッコいいし可愛いよ!」

「…フフン!そうですか。その言葉を聞けて、よかった」

「喜んでもらえて嬉しいよ」

「大切な人からの褒め言葉ですから、嬉しいに決まってますよ」

 その言葉と嬉しそうな表情で、瞬時に幸せで胸がいっぱいになった。俺と同じ特別な思いを抱いてもらっているとは思っていたけど、こう改めて『大切な人』に言葉にしてもらえてこの上なく嬉しくて、心の全てが洗われるよう。世界が一段と明るく輝いて見えた。

 ミラちゃんとまた一緒に過ごせるなんて、これからの人生が楽しみだ。

 ずっと一緒にいたいと願わずにはいられない。


 でも偶然の再会によって止まっていた俺たちの運命の歯車が動き出すことになろうとは、この時は考えもしなかった。



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