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最終話 世界の闇×大切な人との夢


「…はぁ?!セレスクロニクル!?」

 衝撃のあまり金縛りにあったかのように固まって動けなくなった。息が止まる。思考が完結しない。だが言われて全てを思い出した。

 朱色のラインが入った漆黒の鎧。斧と鎖と竜が描かれた国旗。それらは全てセレスクロニクル国のものだ。何世代にも渡り争いを続けている関係最悪の隣国。つい2年前だって激戦を繰り広げて、第三騎士団の活躍がなければ壊滅まっしぐらの道を歩んでいたと推測されるほどの戦況になったほどの相手。ここ最近は派手な争いはしていないが、いつ大規模な争いが再発してもおかしくないほどに緊張感が高まっている。

 しかも四将の一人。意味がわからない。

 長きに渡る争いで、両国民同士で良い感情を抱いているという人は少ないだろう。俺はまだ被害にあったことはないが、家族や大切な人を奪い合った同士。俺が敵に抱いていた黒い感情を、それぞれに抱き合っている事は想像に容易い。

 きっとバレたら、想像もしたくないような混沌とした状況に包まれながら俺たちは即刻処刑。崩壊待ったなし。

 決して外部に漏らすわけにはいかない真実。心臓を直に握られているかのような圧迫感で、息をするのも苦しい。

「え、あ…その…はぁ?なんで!?待って待って!訳がわからない。養成学校どころか、義務教育でもセレスクロニクルは敵国と教えられましたし、なんなら2年前も戦線を繰り広げてた相手じゃないですか!なんで組織に…!?…あぁダメ、何もわからない!」

 思考がまとまらない。人生最大のパニック。俺の習ってきた事って間違ってたのか。

 軽くパニックになっている俺の背中を、ミラちゃんが優しく撫でる。あぁ…落ち着く。ミラちゃんがこんなにも落ち着いているから、何も心配しなくてもいいってことだ。

「少年、君のその反応はよくわかるよ。はぁ~愉快愉快」

「えっと…スカイの人間だけどセレスクロニクルにスパイしてるとかですか?」

「ううん、生まれも育ちも所属もセレスクロニクル。なんなら王家の遠い血族」

「はわぁ~じゃあ、わかないですぅ~。エヘヘ…ありがとうミラさん」

「随分とふにゃふにゃになっちまって…フライハイトって魔性の女なのかい?」

「私たちは大切な人同士なのでこうなっているだけです。どうぞ気になさらず」

 そうそう。大切な人が側にいてくれれば安心なことこの上ない。もしかしてこういう所も、メンタルが少し壊れていると評価される由縁だろうか。


「彼女はれっきとしたセレスクロニクルの人間だ。組織の人間ではあるが、スカイ国側の人間じゃない」

「それこそ騎士になっている皆さんにしてみれば、2年前の戦線を経験している以上は剣を交えた敵なんじゃないんですか?」

「そうだね。俺もロジャーもクレアもブラッドも、一度彼女にこっぴどくやられて死にかけた。生きてるのはかなり運がよかったよ。でも今は組織の人間として仲間だ。でも秘密結社だからそれは表に出せない顔で、もし戦場で会えばその時は、生死をかけて本気で剣を交える事になるだろ」

 その瞳は覚悟の炎に溢れ、爛々と輝いていた。この組織にいる全員が同じようにその瞳に闘志を宿す。どんな思いでその覚悟を決めたのか、察するに余りある。

「そしてスターリースカイ君、君にはもう1つ知っておかなければいけない『真実』がある。君からすれば、今までの話は前座になりかねない程度の内容だから心して聞いてほしい」

 一気に部屋の空気が重くなった。

 これ以上に知っておかなければいけない真実があるのか。

「君が言った通り、スカイとセレスクロニクルは長きに渡り血を血で洗う争いをしてきた。難題にも渡り、その争いの終着点は見えない。でも実は─


【この2国間の戦争は、我々以外の悪意ある第3勢力によって引き起こされ、コントロールさえている】」


「…戦争を、コントロールされている…?」

 あまりの規模の大きな話に思考が止まる。

 そんな悪意に満ちた、いや悪意しかない事ができる人間がいるのか。

 そもそもとして『長きに渡る争いが第三勢力によって引き起こされてコントロールされる』なんてことは可能なのだろうか。方法すらも皆目見当もつかない。何が必要なのかすらも想像ができない。

 でももしそれが本当だとしたら、俺が学んでいた歴史は、完全に覆る。世界の常識が変わる。

(世界の闇に触れるってこういう事なんだ)

 ミラちゃんやフリューゲルさんが言っていた言葉の意味を、今ようやく理解できた。これは、生半可な覚悟では受け止める事はできない。

「先の争いの中で第三騎士団がセレスクロニクルの主要基地に電撃戦を仕掛けた時、第三勢力に妨害されそうになった。彼らの描くシナリオにとって、俺達が邪魔で仕方がなかったのだろうな。でもそれがきっかけで、第三騎士団のメンバーや現場に居合わせたティア王女、セレスクロニクルの一部の人間がその事に勘付いて、調査する事になった。そして疑問が確信に変わり、この秘密結社─【シャドーテイル】を結成する運びとなった」


 シャドーテイル。影の物語。確かにこれはそうそうに表ざたにはできない影の話だ。

 世界の常識が揺らぐ。あまりにも危険な真実だ。しかし─。

「なるほど…確かの話はかなり衝撃的ではありましたけど、どれも同じくらいに驚愕しました。前座になんてなってないです」

「いや、これはまだ本題の前提の話しだ」

「えっ?前提?」

「あぁ。その第三勢力は何者なのか、目的は何か、どこの国の人間なのか…ここ2年で様々な場所で起きている事例と照らし合わせても中々その答えにたどり着けなかった。でもはっきりとした手がかりがあった。これだ」

 そういって一枚の紙を手渡してきた。

「…っ…!!!!!」

 たしかに、今までの話は俺にとって前座となった。人は驚きすぎると言葉が出ないというが、本当に言葉が出ない。ただただ息を飲む事しかできなかった。

 部屋の静寂で、自分の鼓動だけが耳をつんざく。渡された紙から目が離せず、持っている手が震える。視界からその紙に書かれたもの以外が消える。


「─ウロボロスの印」


 【赤黒く光る2匹のウロボロス】。アルベルトの腕にも入っていた、俺の因縁の敵の入れ墨のマーク。それが寸分の狂いもなく精巧に描かれていた。

 組織が持っている敵の手掛かり。それの1つにこれがあるということは。

「君の家族を奪った敵は、俺達が追っている第三勢力いうことだ。戦争をコントロールし、君の生まれ故郷でありデュランダルの生まれ故郷であるトロス村を壊滅に追い込み、英雄譚に出てきた悪の組織【オメガ】の栄光を願い、暗躍している。詳しい目的は不明。この情報を知った時、君が組織に入るのは運命だったのかもしれないと思ったよ」

 もし運命というのがあるのならば、俺の今状況は間違いなくその言葉が相応しい。

 家族を奪った正体不明の敵が、世界の裏で暗躍して戦争をコントロールしている。故郷で生まれた英雄が倒した悪の組織を名乗っている。

 今はまだ点と点でしかないけども、その点の一つであの日の真実が絡んでいる。

「この先に進めば、これほどまでの強大な敵を相手にすることになる。危険性は語るまでも無い。しかも自分たちの情報が一斉、外に漏れてはいけない。そういう意味でも危険度はさらに高まる。生半可な覚悟では体も、精神も持たないだろう。改めて聞こう。君はこの先に進む覚悟はあるか?」

「─あります。むしろ今の話でもっと覚悟が強まりました」

 真実に近付けたのに、後ろに下がるわけはない。


「アルベルトから話を聞いただけではまるで納得できなくて、ずっともやもやしてた。あの日の真実に続きがあるのならば、それを知るのが僕なりの家族への弔いになる。でも亡くなった家族だけのためじゃない。『大切な人と一緒に生きる』、それが今の夢です。その夢を誰かに頼る気は一切ありません。自分で切り開いていきます。それに…大切な人が一緒いてくれるので怖くないです!」

 どんな時でも心が繋がっている大切な人がいる。ただそれだけで、なんだってできる気がするんだ。戦いに臨む事に恐怖なんてない。

 その答えを聞いてフリューゲルさんは微笑んでくれた。

「君ならそう答えてくれると思っていたよ。では正式に…ようこそ『シャドーテイル』へ」

「頑張ります!任せてください!エドガー・アクセル・スターリースカイ、世界の闇を射抜いてみせます!!」

 どんな闇が待ち受けていようと止まらない。あの日の真実を見るために、大切な人との夢を叶えるために。運命の歯車が動き出す音が聞こえたような気がした。

 スッとミラちゃんに手が握られた。少し頬を赤くして優しく微笑み、スカイブルーの瞳は一段と眩い輝きを放つ。

「エドガー君、一緒に夢を叶えていきましょうね。よろしくお願いします」

「よろしくね、ミラちゃん!」

 胸の高鳴りを感じつつも、彼女の鼓動が温もりと共に伝わってきて落ち着く。

 あの日に止まってしまった俺の歩みは大切な人との出会いで動き出し、止まってしまった運命はこの瞬間に動き出した。

 たとえどんな過酷な運命が待っていようとも、大切な人が側にいてくれれば何も怖くない。

 未来がどうなるかなんてわからないけど、命の火が消えるその日まで夢に向かって歩き続ける。

 【大切な人との夢】。それが俺の生きる意味。

 俺の夢と戦いは、まだ始まったばかりだ。


ご一読いただきありがとうございました!

一旦ここで物語を閉めます。いわば『第一部 完』という感じです。

いつか続きを書いていこうと思いますので、その時はよろしくお願いします!

PVも500を突破しました!凄く嬉しいです。重ね重ねになりますが、ここまで読んでくれてありがとうございました!

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