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第3話 変わらない大切な人×ユニークスキル

「久しぶりだね、ミラちゃん!元気そうでよかったよ!」

「エドガー君も元気そうで。私もまた会えて嬉しいです。でもよく気付きましたね。10年で色々変わっていますし、顔はほとんど隠していたし、髪だってこんなに短くなっているのに」

「確かに変わってる所もあるけど大して変わってないよ!ミラちゃんはミラちゃんだよ!それに大切な人だもん。すぐわかるよ」

「…フフッ、変わってないですか。ありがとうございます。エドガー君もあの頃と変わってませんね」


 あの時と変わらない嬉しそうな微笑みで、また俺を受け止てくれた。

 本当に元気そうなのが嬉しくて仕方がない。髪は短くなって、様々な事を乗り越えたようで顔つきも精悍になっている。そんな事は些細な変化はあるものの、あの時と何も変わることなく。


「しかし人前で“ちゃん”はやめてください!恥ずかしいじゃないですか!」

「へへっ、ごめんごめん。嬉しくてつい」

「全くもう。でも…そこが貴方らしくて、ホッとしてしまいました」

「俺も凄くホッとしてるよ。今はヴァルフリートさんの所にいるんだね」

「えぇ。色々ありまして、アイリスお嬢様に拾っていただきまして。エドガー君も見てくれましたね。さっきの“あの力”を」


 思い出されるは、空を走るように宙を舞い、人の何十倍も巨体である飛竜リンドヴルムを揺るがす姿。人の限界を超えた身体能力と、見たこともないマナの動き。魔法学で様々な術を見てきているが、どの強化系魔法にも当てはまることがないものだった。

 でも1つだけ考えられるものがある。


「察しの通り、【ユニークスキル】が発現しました。名を【フォース・オブ・リミットブレイク】。人類の限界を超えた身体能力と回復力を得ることができます」


 【ユニークスキル】─この世で同じ能力は2つとない、1人にのみ発現する唯一無二の能力。特殊なマナがエネルギー源となり、動かし方も異なる。どういう仕組みか、発現条件は何か、ほぼ全てが解明されていない特殊な力。

 それ故にユニークスキル発現者は【エニグマ】と呼ばれている。


 スカイ国内にいる発現者は10人前後“らしい”。らしいというのは、ユニークスキル発現者が希少な存在のため情報のほとんどは国に隠匿されているため、国の上層部以外はその詳細を知らないからだ。あくまでも噂話という事だ。

 ただしそんな一般人の俺にも伝わってくるユニークスキル発現者の情報がある。

 スカイ国第三騎士団副隊長であり、2年前のセレスクロニクル国との戦争においてスカイ国を救った英雄『ニック・フリューゲル』と、たった一人で戦況が変わると謳われる四将の一角にしてスカイ国最強の騎士『ライアン・ハルベルト』だ。この2人は騎士団に所属し、幾度もスカイ国を救ってくれた功績があり、一般市民の間にも知れ渡る存在となっているのだ。

 噂によれば、フリューゲルさんはマナと武器を融合させ、驚異的な武器を生み出すことができ、ハルベルトさんは自然の摂理を操作できる、とされている。機会があればこの目で見たい。

 でもまさか、ミラちゃんが発現者になっているとは思いもしなかった。


「あの日から2年後、マナ発現と同時に覚醒しました。その報告を受けたヴァルフリート家の先代当主…すなわちアイリス様の父親によってヴァルフリート家に引き取られました。引き取った理由は名目上、同い年のアイリス様の遊び相手兼付き人という事でしたが実際には、自分たちのステータスのため。貴族の世界とは不思議なもので、エニグマと関わりがあるというだけでステータスとなるみたいです。エニグマとなった私は、『普通の人生を送る』という夢は叶わなくなってしまいましたが…」

 あの日に交わした約束が掠めていく。スカイブルーの綺麗な瞳が申し訳なさそうに揺らいだ。胸の奥がぎゅっと締め付けられるように苦しくなった。でもこのままにしておけない。

「そんなことないよ!エニグマとか関係ない!ヴァルフリートさんやメテウスさんもいるし、俺もいるから。だから…そんな事言わないで、ね!」


 そう笑顔で言って見せれば、曇った表情は消えて微笑んでくれた。

「そうですね…エドガー君も一緒に背負ってくれていますから」

「うんうん、一緒に背負ってるんだから安心して!ヴァルフリートさんの家での扱いは悪くない?大丈夫だった?」

「そんなに心配しなくとも大丈夫ですよ。待遇は良くはなかったですが、孤児院にいた時よりも遥かに良くて悪くもなかったです。辛い事も多くありましたが、アイリス様とターニャ様が貴族と付き人という垣根を越えて、良き友人でいてくれて楽しい日々を送れました。それに…離れていてもエドガー君がいてくれるからと、心の支えになっていましたので」

 晴れ渡る青空と同じように一切の曇りのない微笑みで嬉しそうにそう話すミラちゃんの表情が、どれほど幸せな時間だったのかを物語ってくれる。そして自分も心の支えになれていたことが嬉しくてたまらない。

 その表情が見れて心底嬉しくて、ホッとした。俺もずっと同じ気持ちだったから。

「そっか…よかった」

「そんなに泣いてくれるくらいに思っていてくれたんですね」

 気が付いたら涙がまた頬から落ちていく。本当に泣いてばかりだ。

 でもそんな俺を見てミラちゃんは嬉しそうだ。


「俺もミラちゃんがずっと心の支えになってくれてて…本当は手紙を出そうと思ったんだ。でもあの孤児院には色々あって記憶がおぼろげなまま行ったから場所がわからなくて…ようやく見つけた時には閉鎖してるって聞いてさ。ずっと心配してたんだ!だから泣くくらい嬉しいよ」

「フフッ、ありがとうございます。私も心配してました。同じく手紙を出そうとしましたが…孤児院での待遇が悪く、調べる事もできませんでした。まぁ待遇が悪いのは私の一族が残した負の遺産のせいですがね。それとあの孤児院はエニグマを報告したという事でヴァルフリート家から相当な報酬金を貰ったみたいで、職員全員がやめてしまったので閉鎖となったようです。なんだか複雑な気分ですけど仕方がない」


 ミラちゃんの一族は没落貴族だ。それなりの地位にいたが、それはあくどい生き方をしてのし上がってきたという事らしい。だが悪事が露呈し凋落。そのタイミングでミラちゃんが生まれたものだから呪いの子だと蔑まれ、あの孤児院に捨てられた、とあの日に話してくれた。

 一族の悪事が尾を引いて、周囲や親類からも敬遠。あの時いた孤児院の関係者もその影響を受けていたので、ミラちゃんの待遇は良くなかった。まぁそれでも孤児院としての最低限の事はしてもらえていたようではあったが。世の中、良い親ばかりではないのが悲しくなる。こうやって何も悪くない子供に被害が及ぶのだから。

 そういう意味では、研究に没頭し蒸発したライナーの父親も同じ。世界は無慈悲だ。誰に対しても。


「ミラちゃんは悪くないのに、それでいて嫌な大人だけが得をする…なんだかなぁー」

「強いて言えば『運が悪かった』と言う感じですかね。でもそのおかげでエドガー君に出会えましたし、アイリス様、ターニャ様にも会えたので良しとしましょう」

「それもそうだね!俺もミラちゃんに会えたから良しとするよ!」

 人生は不条理だ。悪い事をしていても人生は大きく好転するし、逆もまたしかり。全員に不平等だ。だからこそ目の前の幸せを全力で噛み締めた方がいい。

 いつその幸せが消えるかわからないからね。

「それでエドガー君はどこへ行こうとしていたんですか?」

「騎士団養成学校に入るために、入学試験を受けに【イクシオン】に行くんだ!」


 『イクシオン』─スカイ国の中心に位置する都市であり、王都である。

 王都というだけあって広大な土地に国の中枢を担う機関がこの場所に多く集まり、スカイ国を回している場所である。そのためこの場所に本家を置く貴族も多い、とライナーが事前に情報を調べて教えてくれた。下調べするなんて偉い。

 たぶんさっきライナーが『目的地は同じ』と言っていたから、ヴァルフリート家もイクシオンに家があるのだろう。

 イクシオンを中心にスカイ国が回っていると言っても過言でないため、騎士養成学校の試験もそこで実施される。それを受けるために俺とライナーは国の端っこにある村から出てきたというわけだ。ここまで馬車に揺られる事、丸二日。まだ着いていない。御者さん曰く、今日中には着けるらしい。


「あら、それは奇遇ですね!私も入学試験を受けるために、イクシオンへ向かっている所でした」

 そう言うとミラちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

「え?ミラちゃんも入るの!じゃあまた一緒にいられるね!」

 ミラちゃんとまた一緒に過ごせると想像しただけで嬉しくてついつい浮かれてしまう。まだ合格したわけでもないし、なんなら受験すらもしていないが。

「まだ受験すらもしていませんがね」

「動きキレキレだったし、ミラちゃんなら絶対合格できるよ~!俺も合格できる…はず!」

「先ほどの動きを見ていればエドガー君も間違いなく合格できますよ。対生物としてはまだ経験不足でアジャストできていないようでしたが、剣捌きやマナ操作などの対人技術は余裕で騎士としての水準に達しているように見えました。あの日から、お互い…頑張りましたね」


 2人で過ごしたかけがえのない時間を懐かしむようにスカイブルーの瞳はまっすぐ俺を見つめ捉えて、優しく包み込んだ。それが無性に幸せで、嬉しくて、体の芯からじんわりと熱くなっていくのを感じた。いっそう顔が綻んでいくのがわかる。

 ある目的のために頑張りすぎるくらいに頑張った。きっとそれはミラちゃんも同じで。あの身のこなしと、この佇まいを見ていればおのずとその努力や頑張り、苦労がわかる。

 こんな名もなき草原の真ん中で偶然にも恩人であるミラちゃんと再会できた。この冷たく残酷な世界で『運命』という言葉をあまり信じる事はできていなかったけど、これからは少しは信じてみようかなと思えた。


「そういえばミラちゃんはなんで騎士になろうと?ヴァルフリートさんの護衛があるんじゃ?」

「あぁ、それは前当主であるアイリス様のお父上からの命令ですね。ヴァルフリート家は騎士団創設メンバーの一角であり、今も上層部とも深い関わりのある一族ですので、影響力を維持するために『護衛を続けつつ騎士団に入り、手柄を上げる事でヴァルフリート家の名を高めよ』…と面目上は言われています。しかし思惑としては、自分の家が保有しているユニークスキル発現者を誇示することでヴァルフリート家がいかに素晴らしいかというのを見せびらかしたいんですよ。私としては、これからの人生をどうしたいかというのは特に決めていなかったので了承しましたが」

「ミラちゃんの意向も聞かずに自分の欲望のためだけに押し付けるなんて酷い人だね!引き取った理由といい、人をまるで道具のように見て…」

「世の中、そういい人ばかりではないという事です。思惑はどうであれ、人並みの生活は送れているのでその部分には感謝してますよ。しかし素晴らしい事に、アイリス様はそういう部分を引き継ぎませんでした」

 そう言って心穏やかに微笑むミラちゃん。その表情は本当に嬉しそうで、これがどれほどの喜びかと考えれば、ヴァルフリート家での生活の中には幾多の苦労と葛藤があったのだろうと察する。そんな彼女の心の支えに少しでもなれていたことが誇らしい。

 あの1日にも満たない時間は一生心に残り続けるかけがえのない瞬間だった。

 さっきの会話と話しぶり的にヴァルフリートさんはミラちゃんを大切にしてくれているみたいだし、本人の意思も聞かずに勝手に決めるようなことはしないと確信すらも持てるほどだ。


「なので心配は無用です。むしろ私としてはエドガー君の方が心配です」

「ふぇ?僕ですか?」

「エドガー君が騎士団に入りたい理由って─【敵】を探すためですよね?」

「…うん、そうだよ」

 ミラちゃんは、全てを知っている。あの日に何もかも打ち明けたから。俺の事も、村での出来事も、そしてこれからどう生きていくかも。

 俺が騎士団に入る目的は、俺から全てを奪った『敵』へとたどり着くためだ。



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