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第28話 理解者×つながった心


「しかし驚きましたね」

 運ばれてきた食事を食べながら、ミラちゃんが思い出したように口を開いた。

「エドガー君の奥の手がユニークスキルだなんて。報告を受けた時は心底びっくりしました。まぁ倒れる直前に光の弓矢が消滅したのは目に入ってましたけど、あれがユニークスキルで作り出されたものだとは思ってもみませんでした」

「隠しててごめんね。ミラちゃんがユニークスキル発現者だって聞いた時に、凄く嬉しかったよ。俺以外にも発現者がいるのは知ってたけど誰かも知らないし、会ったこともなかったからってのもあるけど、ミラちゃんとお揃いだなぁ~って思ったから」

 カテゴリーは同じだけど本質が全然違うのでお揃いと言ってもいいのかはわからないけど、それでも何だか特別感があって本当に嬉しかった。それでいて、それを隠しておいた事にずっと胸が痛んだ。

「その…あの時はごめんなさい」

 急に申し訳なさそうに謝ってこられてしまったけど、何も心当たりはない。

「ふぇ?なんかあったけ?」

「ほらあの…普通の生活を…。私自身に言ったつもりでしたが、ユニークスキル発現者全員に対しての偏見になってしまいました」

「あぁー!その事なら大丈夫だよ!それまでの人生で、あの貴族みたいな人達と沢山出会ってたらそういう考えにもなるよ。だから気を病まないで元気出して!俺がその考え方を塗り替えていくよ!一緒に頑張ろうね!」

「本当に…あなたという人は。ありがとうございます。お揃いで頑張っていきましょう」

 少し暗かった表情は一気に明るくなった。良かった。

 貴族社会ではエニグマと関わりがあるというだけでステータスとなる、と前にミラちゃんが教えてくれた。ヴァルフリート家がミラちゃんを引き取った最大にして唯一の理由だ。

 この間のデート中には、そんな欲深い貴族からの横やりと思想をまざまざと見せつけられた。楽しい時間に水を差されてしまった形だったけど、暴言を寸前で打ち止めにして言い返す事ができたのでそこはよかった。あれ以上の言葉を彼女には聞かせたくなかったから。

 でもきっと過去には、あの言葉の続きを言われてきたのだろう。何度も、何度も。そんな環境にいてはマイナスな感情を抱くのは仕方がない事だ。

 俺も、ユニークスキルを隠してきた理由の1つはそれに近い。どこからか敵に情報が洩れてしまわないようにという点が大きいけど、この特別な力を狙って悪意のある人間が近づいてこないようにするためだ。何か人と違えば、その人生は大きく狂わされるなんて話は田舎でもよく耳にしたし、経験した。だからこそ隠して生きようと思った。

 それにしてもミラちゃんは真面目だ。過去の言動に少し引っかかれば謝ってくるなんて、彼女らしい。そこがまた魅力の1つだね。


「誰にも知られていなかったのを見るにエドガー君のそれは後天タイプでしたか?」

「うん!そうだよ!ある日突然、覚醒したんだ。ミラちゃんは先天タイプだったよね?」

 ユニークスキルは、マナ発現と同時に覚醒する先天タイプと何の前触れもなくある日、突然覚醒する後天タイプが存在する。ミラちゃんは前者。俺は後者だ。

 マナの発現は、10歳の誕生日を迎える頃に起きる。突然体の中に新たな力が宿り、魔法を使える下地ができる。どういう仕組みかはよくわかっていない。

 そして後天タイプのユニークスキルもそうだ。突然世界が変わる。

 今でもあの時の衝撃と、何が起こったのか理解できない恐怖は鮮明に覚えている。

「そうです。やっぱりあれ、ありました?ユニークスキルの使い方や本質が頭の中に流れ込んでくる謎の現象」

「あったよー!あの気持ち悪い感じのやつ!」

「あれ本当に気持ち悪いですよね。タイプ関係なく起こるんですね」

 ユニークスキルの使い方は、覚醒したその瞬間に頭の中に流れ込んでくる。どういうマナの動かし方をすればいいか、どういう能力かが本能的に強制的に理解させられる。

 しかもその時の感覚がめっちゃ気持ち悪い。意思とは関係なく動く思考と、自分の中に何か得体の知れない者が入り込んでくるような気配。一瞬、自分ではなくなるような感覚。詳細には言い表すことはできないけど、とにかく気持ちが悪い。俺はそれのせいで2日間くらい寝込んだ。

「エヘヘ、こんな話をミラちゃんとする日が来るなんて思ってもみなかったよ~」

「フフ、私もです。こんな話題は、誰からも共感してもらえませんからね。こればっかりはアイリスお嬢様もターニャお嬢様も理解できないものでしたから、全く盛り上がりませんでした。エドガー君がユニークスキル発現者でよかった…」

 そうしみじみと話す表情は心底嬉しそうで、どこかホッとしているようだった。きっと今まで誰からも共感されてこなかったのだろう。俺も同じ。

 こんな話題が話せるのはいなかったというのはあるが、そもそものユニークスキル発現者の絶対数が少ない。スカイ国内で10人ほどとされるくらいで、そこら辺を歩いて見つかるわけがない。俺も人生で初めて会ったユニークスキル発現者は、ミラちゃんというくらいだ。他にはフリューゲルさんしか知らない。理解者がいないのだ。ある意味では、特殊な力を持つ人間は孤独だ。

 だからこそ今こうしてミラちゃんとユニークスキルについて話せてるのが嬉しくて、楽しくて仕方がない。理解できるし、理解してもらえる。まぁ他の話題でも同じころだけど。それはそれとしてやはりこの話題は特別だ。

 しかも大切な人がユニークスキル発現者なんて、盛り上がらないわけがない。


 そして理解できているからこそ思う。

「あの力をずっとイクシオンから維持して、ここまで助けに来てくれたミラちゃんには申し訳なさでいっぱいだよ。あの後、大丈夫だった?あの時でもかなり疲れているみたいだったけど、心配する前に俺の方が気絶しちゃったからさ」

 本格的に使ってみてわかったけど、あれは維持しているだけでもそれなりの体力を使う。それなのに話を聞く限りでは、少しも止まることなくここまで走ってきてくれた。かなりの負担があったはず。現に今のミラちゃんの顔は、にこやかではあるが少し疲れが残っている感じだ。

「隠していたつもりですが…やはり見抜かれていましたか。流石エドガー君ですね。確かに疲労はありますね。ですが私もそれなりに経験値を積んできましたので、負担の減らし方も心得ています。見えないダメージもヒールしてもらえたので問題ありません」

「よかったー!でもあんまり無理しないでね!」

「私が好きでしたことなので感謝こそしても、申し訳ないなんて思わないでください。どうしてもというのなら…頭、撫でても良いですよ?」

「撫でさせていただきます!!」

 目を閉じ、撫でられ体勢に入った得意顔になっているミラちゃんの頭を撫でる。

 艶々のベリショ髪が指の間を抜ける。髪質と頭の形の良さも相まって、包帯越しでも伝わるこの撫で心地の良さ。撫でてるこっちの方が癒されてしまう。まずい、ずっと撫でていたくなってしまう。これは一種の魔力なのかもしれない。でもやめられない。

「…んっ。エドガー君の撫で方は相変わらず優しくて、気持ちは良いです」

 気持ちよさそうに撫でられる感触を堪能しているけど、時折喉を鳴らすのが色っぽくて俺の心臓はその度にドキッと跳ねる。でもそんなミラちゃんから目が離せない。

 今までに感じていた感情が変化していく。この芽生えてしまった感情を、いつかちゃんと言葉にできるように頑張らなくてはいけない。

 でもとりあえず、頭を撫でられるのを堪能してくれていてよかった。


 それからはずっとユニークスキルについて話した。能力の詳細や体への負担の減らし方、その後のケア。どうすればより強力になっていけるのか、効果的な鍛錬の方法など、話は尽きる事無く。

 気が付けば就寝時間近くとなった。

 風呂から上がり部屋に戻れば、ベッドが追加されていた。俺の寝ていたベッドに、ぴったりとシングルベッドがくっつけられている。これはもしや?

「監視役ですから一緒の部屋に寝ますよ。なんだか…あの日を思い出しますね」

「うん…そうだね!」

 俺がミラちゃんと初めて会った日。

 

 諸々の聞き取り調査を終えて、孤児院に着いた時にはすっかり日が暮れていた。夕食は馬車の中ですませていたからよかったけど、孤児院の人は俺の様子をどこか不気味がって、着いてすぐに押し込まれるように風呂に入らされて、終わったらある部屋に押し込まれた。

 ランタンの灯が揺らめき、薄明りが照らす物置のような小さな部屋。全体を見渡した時、スカイブルーの瞳と交錯した。部屋の隅に丸くなるように座るミラちゃんがいた。

 これが大切な人との初めての出会いだった。

 今にして思えば、あの時の様子は寂しげで儚げで、触ったら壊れてしまうような気がしてしまうほどに近寄りがたかった。でもその瞳には確かなる強い意志が宿っていたのが、今でも鮮明に覚えている。

 不思議な事にその瞳を見て俺は、『この子になら話してみたい。この子の側にいたい』と直感的に感じた。後に聞けばミラちゃんも似たような事を思ってくれていたみたいで、そこから俺たちは今みたいに語り合い、心を通わせた。その夜、俺には『大切な人』ができた。

 ベッドの中で肩を寄せ合い、小窓から見える綺麗な星空を見ながら眠りについた。決して忘れる事はない、運命を変えた時間。

 

「懐かしいね~ミラちゃんが暖かくて、久々に落ち着いて寝られたよ」

「お風呂上がりの割にエドガー君が冷えていたんですよ。では寝ましょうか」

 部屋の電気が消される。あの時と同じ、1つのランタンが部屋を薄く照らす。

 チラッと横を見れば、暗い中でも綺麗なスカイブルーの瞳と重なった。あの瞬間と同じように。

「ねぇミラちゃん」

「なんですか?」

「手、握っていい?」

「えぇ、いいですよ」

 差し出された手をギュッと握る。手を繋いだことで、体が触れ合い、ほんのりと暖かな温もりが伝わってくる。握られた手から彼女の鼓動が伝わってくる。落ち着く。体だけではなく心も重なっているみたいで、この上なく心地が良い。

 大切な人と繋がっている。ただそれだけで幸せで胸がいっぱいになる。

「ありがとう、ミラちゃん。これからもよろしくね!」

「エドガー君、こちらこそです」

 運命が変わった日のように、大切な人と心を通わせた。

 これからどんな運命が待ち受けていようと、大切な人が側にいてくれれば乗り越えられる。

 心の傷を背負いあった彼女と一緒に生きる。あの星空の様にいつまでも、いつまでも。

 『約束』から『夢』に変わったこの願いを、叶えるために止まらない。

 

 ついでに朝、目を覚ました時は抱き合うような形になっていて二人して妙に照れくさくなって笑い合った。


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