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第26話 目覚めの触れ合い×生きる希望

「…んっ」

 失われていた意識が少しだけ戻ってきた。ダメージが深かったのか、夢は見なかった。

 ぼんやりしてまだ目は開けられないけど、仰向けになって寝ているのはわかる。全身を柔らかい布団が包み込んでいて、暖かい。

 どのくらい寝ていたんだろう。そう疑問が浮かんでくると同時に、ただ寝ている時には感じない感触を頭に感じる。

(…撫でられてる…?)

 優しくて暖かい手で、静かに撫でられている。撫で方が凄く上手で気持ちがいい。ミラちゃんの頭を撫でた事があるけど、撫でられてる時ってこんな感じなんだ。凄く落ち着く。

 しかもただそれだけじゃない。頭の下にあるのが枕とかの感触じゃない。

 枕とは別のベクトルの柔らかさで、撫でてる手と同じような温かさで、今まで感じたことがない独特の寝心地の良さがある。人生初めての感触。よくわからないけど、凄く心地がいい。落ち着く。

 徐々に意識が覚醒していて、全ての感触がはっきり伝わってきた。それと同時に、ようやく目が開けれるようになった。

「ん…んっ?」

 目を開けた瞬間、寝起きでまだ歪む視界の先。それでもよくわかるほどに綺麗なスカイブルーの瞳と交錯した。この瞳を間違えるはずがない。俺の大切な人だ。


「ミラ…ちゃん?」

「おはようございます。エドガー君」


 俺を覗き込むように見る、ミラちゃんがいた。嬉しそうにしつつも少し瞳を潤ませて、真っすぐ俺を見ていた。それを見れただけで、胸が幸せでいっぱいになっていく。

「おはよう、ミラちゃん─ただいま」

 生きて帰ってこれたんだ。深くまで呼吸ができて、全身に血が通い、生の実感がドッと全身に蘇る。熱い。傷も痛い。でも生きてる。ミラちゃんに救われて、あの戦場から俺は生還できた。約束を守り、大切な人の元へ。

 安堵感が一気に広がって、自然と満面の笑みになれた。

 そして思う。

(覗き込んでいるにしては近くない?というかミラちゃんの胸が…真上にある?)

 これってもしや。

 痛い首を少し傾けて確認してみれば、思っていた通りで。

「どうですか?膝枕の寝心地は」

 頭を撫でられながらの膝枕をされていた。

(はわぁっ!?)

 その事実を受け入れると胸が高鳴り、急に顔が熱くなったような気がする。凄くドキドキする。なんて心地が良いんだ!!

「凄くドキドキして…凄く心地がいい、です。頭を撫でてくれてるのも凄くいいよ」

「フフン、それは良かったです。少しくらいドキドキして語彙力が溶けてくれるくらいじゃないと、張り合いがないというものです。でも本当に…よかった」

 得意顔を浮かべて笑うミラちゃんの目から、涙が零れ落ちた。すぐに拭いて涙を隠して、プイっと顔を逸らすけどしっかり見てしまった。

 きっととんでもなく心配してくれたのだろう。少しだけ手が震えているし、顔にも疲労の色が出ている。

 手を優しく握る。いつの間にか血で染まった手は綺麗にされていて、包帯が巻かれていた。

 それでも包帯越しに彼女の暖かさが伝わってくる。触れているだけで心が安らぐ。

「ごめんね、心配かけちゃって。助けてくれてありがとう。怪我とかしてない?」

「まったく…丸1日寝ていた人から心配されるなんて予想外ですよ。他の皆さんは、怪我こそしてましたが全員無事です。むしろエドガー君が一番の重症でした」

 呆れてように笑ってくれた。でも少し元気を取り戻してくれたみたいだ。


 そして、全員無事でよかった。気を失う直前に安全の確保はできているとは思っていたけど、報告を受けるまでは完全に安心できていなかったから。あの状況で犠牲者を出さずに生還できたのは運がよかったという他ない。本当に良かった。

 というか俺って丸一日寝てたの?

 手伝ってもらって上体を起こして窓に視線を向ければ、曇りガラスで外は見えないけど太陽が沈みかけていているのはぼんやりわかる。

 起きた俺に水筒を渡してくれた。助かる。一日寝ていたせいか、喉が渇いていたから。

「ユニークスキルのおかげで怪我はしても瞬時に治るので、していないも同然です。それとそのドリンクは私の手作りです」

 胸を張ってまたも得意顔になるミラちゃん。可愛い!

「凄く美味しいよ!ありがとう!!またいつか作って!」

 フルーツのいい香りと程よい甘さが疲れた体に沁みる。お世辞抜きで世界で一番美味しいかもしれない。感動を覚える程だ。結構な量があったけど一気に飲み干してしまったし、なんならまだまだ飲みたい。あまりの美味しさに少しばかり中毒性があるようだ。今、猛烈に幸福感が上がっている。

「フフフ、そこまで言うなら作ってあげましょう」

「やったー!ありがとう!」

 胃を掴まれるとはこの事かもしれない。また作ってくれるその時が楽しみだ。

 それはそれとして─『この部屋』。1人用の病室のようだけど…『病室』っていうより─。

 ミラちゃんがくれたフルーツジュースを口にしながら、そうぼんやり考えた。


「しかし随分と無茶をしたみたいですね。ユニークスキルで自分を射るとは」

 優しかった瞳は打って変わり、少しだけ怒った瞳に。そんな目で穴が開くほどにじっと見つめられてしまった。どうやら何かあったかの詳細は聞いているようだ。

「えって…それはその…エヘヘ」

「笑ってごまかしてもダメです!重症の一番の理由がユニークスキルによる自身へのダメージとは、いくら凄腕のアーチャーでも無茶が過ぎます!」

 おっしゃる通り。怒られても仕方がない事をした。

 思い返してみれば俺の一番のダメージは、横腹に空いた風穴。そう自分のユニークスキルで負った傷だ。太ももの傷は太い血管を避けれていたのでギリセーフだったが、その怪我を悪化させた要因はユニークスキルの負担である。内臓へのダメージはあったし、現に血を吐きまくったし。これはよろしくない。

 笑ってごまかす作戦は失敗に終わった。もともと成功のビジョンは見えていなかったけど。

「でもまぁしかし…それでないと倒せなかったとフリューゲルさんとベルクマンさんから聞きましたし、何よりも…『相打ちではなく、生きるために射った』と彼らからは伝え聞いてますので大目に見ましょう。“死んでもいい”、なんて自分の命を粗末に扱わないでいてくれた。生きるために行動してくれた、ただそれだけで私は満足です」

「それは…ミラちゃんがいてくれたから。約束したからね!一緒に生きようって言ってくれたからだよ。あれがなかったらきっと俺は…変われなかった。生きる希望になってくれた。やっぱりミラちゃんは俺の命の恩人だよ!」

 そう言い終わると同時にぎゅっと抱きしめ、頭を撫でてくれた。

 柔らかくて暖かい感触と甘い匂いが全身を包み込んだ。あの日の俺が抱きしめたように、今度はミラちゃんが俺の事を優しく包み込むように抱きしめてくれた。心が重なったようで。自然と涙がこぼれた。

 俺も優しく抱きしめ返す。あの日と同じように。

「えへへ...ありがとう。俺の希望になってくれて」

「大切な人ですから。私にとってもエドガー君は生きる希望で、命の恩人なんです。こちらこそ、ありがとう」

 大切な人とのこの最高の空間がいつまでも、いつまでも続いてくれますように。そう願わずにはいられない。



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