第25話 戦いの終焉×責任者としての役目
「それで要件は何かね、英雄フリューゲル」
「やぁアダムスさん。そしてトリスタン。あんたらの罪を裁きにきた」
「ほぉ。上流貴族たる俺に対して随分な物いいじゃないか。罪状は何かね。脱税か?それとも彼らに対する暴行か?しかし彼らの方から攻撃を仕掛けてきた。我々は正当防衛を─」
「そんな生ぬるい事じゃない。アンタの領土で発生した行方不明事案だ。拉致、監禁、そして─殺人を命じた罪だ。余罪はあげればきりがない」
「ほぉ、確かに土地の近くでは行方不明事件とやらが頻発しているようだが、それに俺やこのトリスタン君が関与していると?以前騎士団からの調査で疑いをかけられていたが調査の結果、関与は認められないとお墨付きをもらったんだがね。証拠は?あるなら俺はとっくに捕まっているはずだが」
どこか余裕の表情でアダムスが答えるが、その瞳は殺意に満ちている。まだこの場に来ても言い逃れをするなんてどうかしている。
「フリューゲル副隊長、私に対しての無礼な物言いも酷い物ですが、いくらあなたでも上流貴族であるアダムス様に対して無礼が過ぎますよ!!それともここに騎士崩れがいる、そしてそこにいる学生と戦闘になったという状況を見ただけで今までに発生した事案は全てに関与していると言いたいのか!?英雄だからと、言っていい事と悪い事がある!!!」
「俺達は王が直々に派遣した救助隊だ。スカイ国で有数の上流貴族を相手にするのに、何も証拠が無いわけないだろ。目撃者がいる。犯行に関与している一部始終を記録していたクリスタルも」
「どうせハッタリだろう。そんな物があるならあんただけじゃなく、多くの騎士団がここを訪れ、捜査されている。そんなものがあるなら今すぐに出してみ─」
「ではご要望にお応えして、僕の方から証拠を提出したいと思いま~す!!」
この会話の中どころか、この戦場において一度足りとも聞いたことがない男の明るい声が響いた。飄々とした感じの軽い声で、緊張感なんてものはない。
いつの間にか、フリューゲルさんの隣の立つ1人の男。
「…は?」
その男を見て、フレイ君から声が漏れた。俺も声こそ漏れなかったけど、息が止まるくらいに驚いた。だってその男は俺も見覚えがあったから。
それは他全員も同じようで、動きが止まり、その男を凝視してしまった。
大柄でまるで岩のような筋肉質。肩まで伸びた茶髪に青い目。深く刻まれた顔の傷。この戦いが始まった最初の方で、フレイ君が斬って捨てたはずの【ロイド】と呼ばれていた男だ。
しかもあの時に聞いた声とは全く違う。あの時は40代くらいの酒やけしたようなしゃがれた声だったのに、今の声は20代くらいの爽やかで張りのある若い声。似ても似つかない別人の声だ。
なんで?!理解が追い付かない。生きてたんのか!というか味方なのか?でも声が違う。
「お前は…ロイド!?ば、馬鹿な…!」
「確かにお前はそこのガキに斬られて死んだはず…どうなっている?!」
混乱しているのは此方だけではなく、敵側も同じようだ。
でも一番驚いているのはフレイ君だった。信じられないといった様子で、凝視している。何と言っても自分で斬ったのだ。この感じだと、手ごたえは確かなものだったのだろう。現に奴の胸付近にはしっかりと斬られた傷が残っているし、血も流れている。
「いやぁ~死ぬかと思ったよぉ。フレイ君って言ったっけ?ニックの弟君だよね。良い切れ味と剣捌きだったよ!俺よりも強かったからさ、流石にちょっと怪我でもしちゃうかな?って不安になるほどだったよ!ギリ避けた、ギリ!」
「褒め言葉は後にしてくれ。今は証拠を」
「はいよ、ニック!じゃあまずこれが、俺に殺人を命令しているアンタらの音声映像。これが拉致している時の写真と映像を撮ったクリスタル。そして被害者たちが今いる監禁場所。ついでにそこにはみんなが来るのに合わせて、救助隊を派遣して救い出してもらったよ」
そう言うとクリスタルでその時の映像を流し始めた。拉致の瞬間、殺人を命じるアダムスとトリスタン。監禁されている人たちの様子。2人が映る姿はどこをとってもまるで獣のようで、欲望に塗れた人ならざる者の顔をしていた。人の皮を被った怪物の姿がそこにはあった。
「拉致の目的は…学生諸君に聞かせたくないから省くよ。良かったな獣ども。ついでにアンタらが殺せと命じた学生の子は俺が匿って、生きてる。見せた死体は俺が用意した真っ赤な偽物さ。これで証人がまた増えたね!」
「ロイド、貴様…裏切ったなっ!!!」
「俺はロイドじゃない。むしろロイドなんて人間は『存在しない』」
そう言いながら顔の皮を、マスクを取るかのように捲る。一瞬で全く別の顔が姿を現した。
陽の光を反射するような鮮やかな栗色の髪に、モデルのような端正な顔立ち。
「俺の名前は『ブラッド』。自分で言うのもなんだけど変装の達人ってやつだ!存在しない人間に変装してアンタらに潜入してた。どう?急に二枚目が出てきて驚いてくれた?俺天才過ぎ!この活躍はクーちゃんも褒めてくれること間違いなし!どんなこと頼んじゃおっかなぁ~楽しみだな~」
凄すぎる!全くの別人だし、何なら顔の大きさも違うし。フレイ君の斬撃を当たって斬られて死んだように見せかけたって事でしょ?性格はなんかコメントしづらい感じだけど、間違いなく天才だし本当に二枚目。男の俺から見てもかなりのイケメンだ。しかもそれでいて悪い人ではない。味方でよかった。
あとクーちゃんって誰なんだろう。恋人かな?なんかその人の事を想っている時だけ優しくて生き生きとした表情になってるし。
「じゃあ僕は大切な仕事があるから帰るね~!あとはよろしくねー」
「あぁ任せろ」
「せいぜい痴話げんかはほどほどにしろ。というか、いい加減けりつけろ」
「ブラッド君、クレアによろしくね!」
「はいはい~みんなもほどほどにねー」
この感じだと先輩組みんな知り合いらしい。この雰囲気に慣れているようで困惑せず、ルンルン気分でスキップするかのように走り出したブラッドさんを普通に送り出した。
「トリスタン、被害にあった学生の多くはお前に関わりのある人ばかりだった。今回みたいに自分が隊の責任者になって連れ出しているのもあれば、違う任務地に赴くも別の責任者と結託しておびき寄せたり、脅して無理やり連れだしたり、アダムス家のパーティーに出席するとか任務に関係ない事で呼んだり…随分と手の込んだことをしたな。お前が部屋に隠し持っていた上級守護魔法がかけられた金庫…ぶち壊させてもらったよ。被害者のリストと計画、アダムスと取り交わした盟約、他にも色々と関与が裏付ける証拠が発見された。お前は外面が良かったし信頼も厚かったから上の連中は最初は信じてくれなかったが、証拠一式を提出したらすぐに緊急救助隊を派遣してくれた。俺も最初は信じられなかったし、みんな騙されたよ。ここら一帯の通信も遮断、町の方にも救助隊が向かって制圧も間近だ。アダムス家にも本格的な捜査が入った。証拠を固めるのにずいぶん時間がかかってしまったけども…もう終わりだ」
「…終わってなどいない!!!ふざけるな…こんな所で俺の野望は終わらないっ!!!全員が俺様に跪いていればいいのだ!!!トリスタン、こいつを殺してここを突破する!“あいつら”と合流できれば、こんな国はすぐに滅びる!あの英雄の村のようにすぐに跡地となる!!」
「えぇ慌てる事はない。英雄だろうとあいつの実力はそこにいる弟と大差ない。束になってかかれば苦戦はするだろうが殺せない相手ではない…!!!」
「あいつら…ね。誰かは知らないけど、こんな状態のお前らを助けてくれるようなお人よしがいるとは思えないな」
崩壊する現実を受け入れきれないのか、はたまた本気で勝機があると思っているのか。もはや正気を保てているのかも怪しいほどに目を血走らせて、狂気を感じるほどに殺気を放っている。
それでも命乞いなどしないのは、悪の美学か己が誇りか。
だがそれを見てもフリューゲルさんの視線はブレない。ただただ哀れみの目を向け、静かに拳を震わせる。
「フリューゲル副隊長…いや、英雄フリューゲル!!戦いは数だ!これだけの大人数に勝てるわけなどない。ここで英雄は死ぬんだよ!!ドラグーン・バレーの秘密も手に入れ、関与していたミネルバも皆殺しにしてやる!!!」
「…言いたいことはそれだけか?協力者が誰なのか、お前らの口から聞けなくなるけど…まぁいいか。数々の非人道的行為の罪─ここで終わりにしよう」
深紅の剣をゆっくりと向ける。その瞬間、フリューゲルさんの周りにはオーラが放たれたかのように色彩が歪む。空気が震え、マナが急速に動く。持っている剣とマナが混じり合う。
「ユニークスキル─【混沌に差し込む残光】」
「死ねえぇぇぇぇええええ!!!!!」
アダムスの怒号と共に魔法攻撃が一斉に降り注ぐ。刹那、爆発が起き、眩い爆炎が周囲を包み込んだ。普通の人間なら今の攻撃を受ければ、たとえ結界魔法を張っていても塵も残らない。
しかし全部が見えていた。全ての魔法攻撃を斬り、何のダメージもないフリューゲルさんが猛然と走り出し、トリスタンを一刀両断した。
その姿はまさに英雄。圧倒的なスピードとパワー。向かってくる敵は全て、屍へと変える。
「俺が少しでも互角に戦えたのは、小さい頃から一緒に鍛錬を積んできて、ニックのバトルスタイルを確立する手伝いをしていたからだ。だからこそ実力に雲泥の差があっても、大まかな動きの予想は立てれてそれなりに対処ができた。よく目に焼き付けろ。あれが英雄であり、俺の自慢の兄『ニック・フリューゲル』だ」
心配などただの杞憂に終わった。これが英雄と呼ばれる人の実力。
あんなに苦労した敵が見る見るうちに減っていく。俺では耐えられない攻撃を物ともせずに斬り裂き、剣を振るう。
何の心配もいらない。本当に助かったんだ。
「よかった…助かった─」
その現実を目の当たりにして、心が一気に軽くなった。ミラちゃんの背中の安心感も合わさって、ずっと張りつめていた糸が切れてしまったかのように意識が遠のく。
(よかった。みんな生きて帰れる。ミラちゃんと一緒にいれる…ありがとう)
幸せが胸に広がっていくのを感じながら、意識を手放した。




