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第22話 運命を変えた恩人×道のりで感じた想い

「また会えて…嬉しいよ…ありがとう…ゴホッ!ゴホッ!」

 会えた嬉しさで心拍数が上がったせいか、はたまた緊張の糸が切れたせいか、再び吐血してしまった。手で押さえてから良かったものの、危うくミラちゃんにかかる所だった。もうシューティングスターも維持できなくなっていた。光の粒子となって消滅。

 デビュー戦でよく頑張ってくれた。ありがとう。

 そんな俺の背中を、優しく擦ってくれる。その手が凄く温かくて、心地がいい。生きてるって改めて実感できた。

 ゆっくりと俺の体を仰向けに変える。

「無理して喋っちゃだめです!私も嬉しいですから、あとでしっかり伝えますから今は休んでくださいね。─もう大丈夫」

 手をぎゅっと握り締めてくれて、優しい目で俺を見る。曇天の薄暗い景色なのに、その笑顔だけが光輝いているように眩しくて温かくて、美しい。

「ちょっと行ってきます。今、エステルさんにヒールしてもらうので」

 少し名残惜しそうにその手を離し、戦場へと駆ける。その背中は誰よりも頼もしくて、安心できた。



「エステルさん、持ちこたえてくれてありがとうございました。私がカバーに入るのでエドガー君の治療をお願いします!」

「ミラさん!こっちこそありがとう!スターリースカイ君の事は任せて。しっかりと治して、またデートに連れて行ってもらえるようにするから!」

「私と彼はそんな仲ではありませんが、彼もそう言ってもしたしデートになりますかね。では頼みました!」

 デートと言う時に、エステルさんはなぜか嬉しそうに笑っていました。全く突拍子もない事を言う人ですね。

 しかしこの間は恋人みたいに甘く、胸がときめくような時間を過ごしたのであながち間違ってはいませんが。あの日と同じように手を繋ぎましたし、貴族から守るためとはいえ、恐れる事無く正面から『今、デートを楽しんでますので邪魔しないでもらえます?』なんて言ってのけてましたし。

 まだ恋心というのはわからない私ですが間違いないのは─『生涯を共にする異性は彼がいい』という事。恋や愛はわかりませんが、今はまだそれだけで十分なのではないでしょうか。


 エステルさんを見送り、フリューゲルさんの隣に立ち、トリスタンとアダムスを睨みつける。さっきまで見えていた邪悪な表情は消え、張り付けたような善人面に。

「フライハイト君!なぜここに?それよりも彼らは裏切り─」

「あぁ言い訳とか必要ありません。アナタがアダムス家と癒着し、何やら不穏な動きをしているのはわかっていますので。それにあなた側の人間はほとんどが、騎士崩れやならず者でスカイ国から指名手配されている人ばかりじゃないですか。よくそんな状況で言い訳しようと思えましたね」

 こんな状況になってまで見苦しく言い訳をするなんて、普段の働きぶりからはまるで想像できませんね。人は見かけによらないと言いますが、まさにその通り。

 体と地位が目当てで近づいてくる貴族と同じ。見ているだけで気分が悪い。

 そしてその指摘に取り繕うのはやめてようで、すぐに邪悪な表情へ。



 時を遡る事、数刻前。

(お願いだから無事でいてください…!)

 イクシオンを飛び出して風を切り、土を巻き上げ、目的地に向かって突き進む。そんな中でただただ頭に浮かんでいたのは大切な人と過ごした僅かな日々。

 運命を変えた…いや、これからの運命が決まった特別な一夜。草原の中での再会。まるで恋人のデートのように肩を寄せ合って笑いながら一緒に過ごした平和な日常。

 その時の光景が、感情が、五感全ての感覚が鮮明に蘇ってきました。

「間に合え…!間に合え!!!」

 ただただ彼の無事を願って胸が張り裂けそうな思いで走る。杞憂に終わってほしい。もしかしたら何もなく平穏な任務に当たっているのかもしれない…そう、僅かにでも思っていないと心臓が押しつぶされてしまうような気がして。

 どのくらいの時間が過ぎたのか、それすらもわからずに進み続けた。

 肺が苦しくとも、足がもつれそうになっても、降りしきる雨で全身が濡れようとも、木々の枝が当たってこようとも、激流の川や屋敷よりも大きな断崖絶壁があろうとも、全てを突き破り、ただ前に。

 町の付近に着いた時には夕暮れ前。陽は厚い雨雲の中に覆われ、薄暗くなってきていました。途端に増えた見張りにばれないように、大胆さを薄めて慎重に行動。そして聞こえる戦闘音。それもかなり激しく、何度も爆発音が響き、遠くからでも爆炎が空に登っていくのが見えてしまった。

 そしてなぜか見張りが忙しなく動き始め、手薄になった。

 ただ事ではない。その瞬間、一気に不安が押し寄せて心臓が破裂するほどに鳴り響く。息をするのを忘れ、戦闘音に混じり自分の鼓動が耳をつんざく。

 気が付いたら戦場へ駆けていた。

「お願い…お願い、間に合って!!」

 人生で初めてできた大切な人。何にも代えがたい特別な存在。失いたくない。もう私を置いていってほしくない。

 約束したんです。

『これからはもっと一緒にいられるから!もう離れない!約束だよ、ミラちゃん!』

 全てを照らしてくれる弾ける笑顔で、あの頃と同じ無邪気にそう約束してくれた。

 子供みたいな根拠のない口約束でも、彼との物なら私にとっては何よりも大事で、生きる意味でもある。

 また一緒に隣にいてくれるように。私は因果を断ち切る。

 森の中、遠くに見える戦場は凄惨たる様子で。殺傷能力の高い魔法攻撃や投擲武器が飛びかい、閃光と衝撃波が一秒たりともやむことはない。

 ある距離に近づいた時に見えた。

 鮮血に塗れ、座り込みながらライトグリーンに輝く弓矢を射る大切な人の後ろ姿を。生きている。傷つきボロボロになっても精いっぱい逆境に抗って、生きている。

『間に合った…!』

 そう思えた瞬間に見えてしまった。背後から彼に向けて攻撃を仕掛けようと剣を構える敵の姿と、土属性魔法で作り出された大岩が宙に浮く瞬間を。彼は気づいていない。

 一瞬、その光景で時が止まる。この後に彼は気づくはず。でも今から気づいたとして、あの体と態勢では対処は不可能。そもそも空を飛べる彼が地べたに座って動けないでいるという事は、魔法を発動させる事もできない状況を意味する。

 大切な人の死が目の前に迫る。

 そんな事は許さない。


「間に合えっ!!!!!」


 ここで間に合わない人生など必要ない。ここまで生きてきた意味がない。

 障害物など関係ない。体の使える部位は全て使い、神経を極限まで高め、持てる力を全て出し切り地面を蹴る。

 音も風も全てを置き去りにして、光りよりも早く駆ける。

「死ねっー!!!クソガキッ!!!!」

 敵の汚らわしい声が響く中、勢いのままに飛び込み、背負っていたハルバード型のマナ式可変武器を振り抜くと同時にマナを流し込む。

 横薙ぎしながら変形したハルバードは大岩を破壊し、敵の胴体へとかかった。その手ごたえのままに、振り抜く。

 衝撃で塗れた地面から土煙と礫が舞い、視界を遮る。でもどこにいるのかは見える。土煙で顔を覆った腕がどいて、目を開いて、しっかりと私を見てくれた。

「ミラ、ちゃん…!」

 嬉しそうな瞳は潤み、一滴の涙が頬を伝って落ちていく。こんなにもボロボロなのに、向けてくる屈託のない笑顔はいつものままで。

 胸の中がカッと熱くなり、私の方も泣きそうになりました。

「間に合った…間に合いましたね!!」

 達成感と何とも言えない高揚感。全身が震えるほどの喜びで、不安でいっぱいだった胸の中がスッと晴れ渡った。この邪気な笑顔をまた見る事ができて、気が付けば涙が溢れた。

 生きててよかった。


 そして現在に至る。


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