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第21話 あの頃とは違う×黄金の風が舞う

「まず─」

 そう言葉が出る前に、背後から巨大な火球が敵とその魔法に向かっていく。通り過ぎる一瞬、熱気と光に包まれ、数秒後には衝撃波が襲ってきた。

 凄まじい威力だ、なんて感心していると、火球を連発しながらフレイ君が敵に向かって悠然と駆けていく。傷はもう治っていた。さらにそれを援護するように少し離れた後方から魔法攻撃を放ちつつマークとリーシャさんが付いていき、最後方をエステルさんが結界魔法を使いながら後に続く。

「ベルクマン、お前も来いっ!!前線を上げる!俺の後ろから退路を確保しつつ前線を維持しろ!!!」

 ライナーはその声に反応し、剣を抜きつつ立ち上がり、地面を蹴る。最初の一歩を踏み出した時に俺を一瞥。不安が目に浮かんでいた。

「お前はここに居ろ!…大丈夫だ」

 叫ぶように言うと返事も聞かずに駆けていく。

(嘘が下手だな。子供でも、この状況が最悪に近い事くらいはわかるって。ズタボロで血が流れすぎて、深く考えられない俺でも)

 最後の『大丈夫だ』、なんて…自分にも言い聞かせるみたいに言ってたじゃん。

 血を吐き、下を見れば轟音と衝撃波で血だまりに波紋が広がっていた。血と雨でぬれた髪が爆風で靡く。俺以外が動いている証だ。

 戦場に目を向ければ、死に物狂いで頑張っているみんなの姿がそこにあった。

 さっきとフォーメーションは同じだけどサポートがない分、たった一人で最前線を維持しているフレイ君の被弾率が上がっている。少しずつ全身に傷が増えていって、鮮血が舞う。ライナーも、マークも、リーシャさんも、エステルさんもその一瞬を生き延びるのに必死になっている。俺のいない穴を懸命に、文字通り命がけで埋めている。

 それでも止まらない。守りたいものを守るために諦めないでいる。なのに俺は─


「こんなことで…へばってんじゃねぇ…!」


 真実の余韻に浸っている時間なんてない。戦場は終わってない。

 這いつくばるようにしていた姿勢を、アローを杖代わりにして壊れかけの脚も無理やり動かして態勢を変える。重症だと体は鉛みたいに重たい、なんて言うけど間違いない。俺の体はこんなにも重たいんだとわからされる。マナは全てユニークスキルへ回す。

 痛い、苦しい、休みたい…そんなものは関係ない。ここで動かなきゃ、家族にも大切な人にも顔向けできない。動く度に口と傷口からに血が溢れ出たけど、なんとか正座みたいな形にはできた。動けないけど、これならバランスが整えられる。

 あの頃の俺とは違う。

 もう黙って見っているだけで終わるのは嫌なんだ。

 狙いを定め、シューティングスターに力を込め、射る。

「いっ、けぇぇっ…!!」

 放たれた矢は空気抵抗などないかのようにまっすぐ進み、フレイ君に斬りかかろうとしていた敵の胸に深々と刺さった。敵からはあの戦闘で終わった扱いにされてて、気にも留められなくなっていたのが功を奏した。まぁ敵だけではじゃなく、味方全員も驚いた顔をして一瞬、俺に視線を送ってきてたけど。

(俺も一緒に戦ってるぞ)

 最高の笑顔で返してやった。

 敵の最高戦力はトリスタン。本当であれば最初に仕留められたらよかったのだが、影に隠れていて狙えなかった。奴に固執して攻撃を遅らせる事ができるほど、チームに余裕はない。目に付いた敵から仕留める。

 撃った瞬間には次の矢をセット。狙いを付けて連射。目につく敵に時間を置かずに射る。

 だが─

「ゴホッ─!!」

 自分でも引くくらいに大量の吐血。ユニークスキルを初めて実戦で使ったけど思いのほか負担が大きいようだ。特に傷にはよく沁みる。でも視線はすぐに戦場へと向き直す。

 雨音交じりの戦場の中、自分の鼓動が嫌に大きく聞こえる。

「エドガーよせ!!そのままじゃ死ぬぞ!!!クッ…!!」

 流石ライナー。こんな時にも俺の様子に気付くなんて、よっぽど心配かけてんだな。本当にあいつには、昔から心配してもらってばかりだ。

(俺の親友でいてくれて、ありがとう─)

 でも止まるつもりはない。血を吐きながらもアローを射る。

「全員で生き抜くためには…これが、1番可能性が高い…大丈夫だ。生きて…帰ろう。もう俺は…黙って誰かを見送るなんて御免なんだ…!」

 俺のサポートのありなしで生存率は相当変わる。現に俺がまだ攻撃できると知った敵は、警戒してフォーメーションを変えた。防御中心となり、アローに狙われないように結界魔法を張ったり理的な壁を作り出したりして、視覚を遮るように動いている。いちいち俺の方を見て警戒しなくてはいけなくなり、動きにスピーディーさがない。読みやすくなった上に、攻撃の手が緩んだ。

 そりゃ多少離れていても狙ったところに必ず当たる、防御魔法をも無視できる高威力の矢が飛んでくるんだ。動きがある所に弓を向けるだけでも、抑止力になる。

 そして少しでも慎重さから離れれば─

「ぐあぁっ…!!う…うぅ…」

 アローが命を奪う。

 視界を奪うのにいつもの癖で煙玉を使った奴も同じ。

「煙玉と結界魔法は無駄だ!!壁を作りながら進め!!!重なるように動くなっ!!!あいつも限界が近い上にあの場から動けない!長くは持たないだろうから時間をかけて戦え!!」

 的確なトリスタンの怒号が飛ぶ。それに呼応するように騎士崩れも的確に動く。瞬時に対策してくるなんて、本当に面倒な敵だ。

 あぁ、俺は動けないさ。こっちに攻撃が飛んで来たら避けられないし、他も俺を守れるだけの余裕はない。ユニークスキルだけで対処するしかないけど、多数から攻撃されれば対処しきれない。だからこそ、そうさせないためにどんどん射る。

 壁で敵が見えなくなろうとも関係ない。ただ射るだけだ。

 壁に向けて乱発すると、短い悲鳴が木霊する。壁なんて見えないだけで、俺のシューティングスターアローを止められるだけの強固さはない。無闇に撃っても敵に当たることもある。それだけでも敵にとってはかなり厄介なはず。

 そしてトリスタンが言った事で一つ間違っている事がある。『長くは持たない』って…バカ言えよ。

「死ぬ気で持たせるさ…」

 あの日の俺とは違う。もう瓦礫の下で声も出せずに大切な人達が死んでいくのを見ているだけの子供じゃない。戦って、守って、守られて。チーム全員が大切な人と平和な時間を過ごせるように、俺も大切な人と一緒に居られるように、生きるために命を削るんだ。

 どんなに血が吐こうとも、この命が尽き果てるまで諦めない。止まらない。

 あの子と一緒にいるために─。


「…?!エドガー、後ろだっー!!!」


 俺の方を一瞬見たライナーが目を見開いて二度見し、叫んだ。すぐに視線を向けると数メートル先に複数の大岩が宙に浮き、その中で剣を構えた騎士崩れが突っ込んできていた。

 どちらかを対処しても、一方の攻撃は俺を捉える。良い二段構えだ。

(いつの間に…?そう言えばさっき血を吐いて咳込んだ時に、少し目を離したな…)

 驚きは少なく、どちらかと言えば勝手に合点がいった。

 今、顔は敵に向いているけど、体には上手く力が入らなくて反転が追い付いていない。魔法に回せるだけのマナもない。

(どちらも…対処できない)

 詰みだ。

「死ねっー!!!クソガキッ!!!!」

 絶望的な光景。死が一歩、また一歩と近づいてくる。

 悔しいな。真実もいまいち知れなかったし、もやもやする。みんなで生き残りたかった。そして何よりも。


(ごめんね、ミラちゃん…もっと、一緒にいたかった。約束…守れなさそうだよ)


 死を間近にして浮かんだのは大切な人─ミラちゃんの顔だった。

 10年ぶりに会えて一緒に過ごした数日。凄く楽しくて、幸せで、生きててよかったって心の底から思えた。こんな時間が永遠に続けばいいと心から願った。

 出会えたその瞬間から今までの光景と感情が、走馬灯のように駆け巡る。そして最後に映るは、無邪気に微笑んでいる可愛い笑顔。世界一綺麗で可愛らしくてカッコよくて、ずっと憧れて、側に入れるだけで幸せになれた。

 大切な人ともっと、もっと一緒にいたかった─。


 その身に降りかかるであろう衝撃を受け入れようとした瞬間、金色の風が舞った。


 大岩は破壊され、騎士団崩れの胴体に白銀のハルバードがかかり、目の前から忽然と消えた。鋭い斬撃も、大岩によるダメージもない。台風のような強さの突風が起こり、土煙が舞い上がる。思わず手で視界を隠す。

 少し荒い息遣いが環境音に混じり、俺の前で足音が止まる。この気配に覚えがある。

 急いで目を開けると、安堵の色がにじみ出たスカイブルーの瞳と交錯した。最期だと覚悟を決めた時に浮かんだ大切な人が…目の前にいた。


「ミラ、ちゃん…!」


 幻でも幻覚でもない。本物のミラちゃんが目の前に立っていた。

 まるでその時を待っていたかのように空を覆っていた厚い雲が消え、夕陽が差し込み彼女を照らした。

 世界に色が戻った。

「間に合った…間に合いましたね!!」

 肩で息をしながら、口元は嬉しそうに笑っていて、金色のベリーショートは風に揺れる。雨粒と一緒に汗がしたたり落ちる。頬っぺたも少し赤い。目も少しうるんでいるように見えた。

 カッコよくて、可愛らしいその姿をまた見る事ができた喜びが、胸の中いっぱいに広がる。視界がぼやけて、涙が溢れるけど、最高に嬉しくて笑顔になれた。

 俺の運命はまだ終わっていないようだ。


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