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第18話 未知の力×決意の前章


 アルベルトの手元に闇が集まり、弓矢へと姿を変える。

「【ダークネス・アロー・ゼクス】」

 放たれた矢は風の抵抗など受けていないかのように、線を引いたように綺麗な直線で飛んできた。そして空中で6つに分裂。回避が間に合わない。

「ぐぁああぁっ!!!!」

 1本の矢が右太ももにヒットし、貫通。

 火であぶられたかのように熱くなると同時に、鋭い痛みが足から全身へと駆ける。自然と涙が溢れ、更に視界が歪む。

 それでも止まることなく飛行して距離を取る。ようやくバランスを整える事が出来た。

「あっ…ぐっ!あああっ…!はぁ…はぁ…まぁまぁ良い腕してやがるな」

 少し茶らけてみるが、そんな事でダメージが減るわけもなく。雨で滴る顔から玉のような汗が噴き出て、噴き出た血と混じり落ちていく。

 痺れる腕に鞭を打って、ずたずたになった服を破いて包帯代わりに雑に巻いた。少しは出血抑えられるかもしれない。でも少しでも力を入れたり、動かすだけでも激痛が走る。足は潰された。ほとんど飛んでいたとはいえ、吹き飛ばされた時に受け身を取るのも、上手くバランスを保つのも不可能になった。

 腕は痺れている上に神経が引っ張られるような不快な痛みもあるし、感覚が鈍い。さっきの衝撃に合わせて剣戟でのダメージがここに来て、効いてきてる。弓矢も剣も行けるけど、どちらにせよ長くは持たないという感じ。

 でも大丈夫。

 次で決める。

 チャンスは一度きりだ。気づかれるな。


「お前のように弓矢の腕に自信があるわけではないからな。こちらは6本同時に撃たせてもらった。どうだね、人生初の【闇属性魔法】の痛みは?」 

「闇…属性…?おいおい、魔法は五大属性だろ?闇って…聞いたこともない」

「生み出したんだよ。闇のマナも魔法も」

「マナと魔法を生み出した…?そんな事が出来るのか。どちらにせよ、最悪な痛みだ」

 にわかには信じがたいが、おそらく嘘ではないのは確実だろう。あの蠢く闇から、あの日に見た黒いオーラも、今まで感じたことの無い異質なマナの気配を。こうして身を持って体験したのだから『闇属性』という五大属性以外の者が存在するのは疑いようがない。

 そんなものを生み出せる人間が相手なんて、もしかしたら俺の知りたい真実は途方もなく大きくて、世界の常識を変えるような存在なのかもしれない。

「気に入ってもらえたようでよかった。しかし知らないのも当然だ。もし我々の同志以外に知っている者がいれば、そいつは死んでいるだろうからな。貴様の剣を弾いたのは、私が常時発動している【ダークネス・オーラ】という防御魔法によるものだ。ある一定以下のマナ、魔法、攻撃を全て無効化し反射する。先ほど程度の貧弱なマナを纏った剣では傷一つつかない。たとえ心臓に直に受けても」

「なるほどな…それにしてもそんな事をわざわざ事細かく喋るなんて、自慢でもしたいのか?まぁそんなもの自慢にもならないけどさ」

「冥土の土産というやつだ。勝負はもう見えている。お前はこのまま死ぬ。あの日の真実が知れないお前へ、せめて自分がどういうもので死ぬのかを知らせておくという情けだ」

「ハッ、馬鹿言えよ。勝負はまだこれからだ」

「復讐心は大したものだが、所詮この程度。正直それ以外は何も驚きもない。いわば…失望だ」

「言ってくれじゃねぇか…!」

 突風を巻き起こし、吹き飛んでいた剣を巻き上げて、左手で掴む。見れば刀身が欠けていた。所々にひびが入り、その輝きは薄れていく。剣戟と闇を捌いた負担は相当なようだ。俺もまだまだ弱い。強くならなきゃ。あの子の隣でいるためにも。生きるためにも。

 もうそろそろ話してるのも辛い。決着をつける時だ。


「10年間、復讐心を胸によく頑張った。そこらの子供でもできる、ただ頑張った“だけ”だがな。お前の攻撃は通らない上に、ボロボロの体で何ができる?お友達の前だ…せめて、ひと思いにやってやろう。その後はそこにいるドラグーン・バレーだ。飛竜には昔から興味があってな。正直、お前に時間をかけるのも惜しくなってきた」

「俺もアンタから早く真実を話してもらいたくてうずうずしてたんだ。さっさと決着をつけようぜ…。因果が断ち切る!!」


 叫ぶと同時に懐に隠していた煙玉を宙に投げて、斬る。さらに【オーバー・ツイスター】を発動。戦場を包むようにつむじ風が起こり、煙が全体に広がり視界を奪う。

「威勢がいい割には戦術は似たり寄ったりの目くらまし…芸がない。闇にかかれば、お前の位置など簡単に割り出せる」

 その宣言通り、闇は俺に向かって這ってきていた。どういう理屈かはわからないが、見えていなくとも察知できるようだ。

 でも見えていない事が重要なんだ。

 安心して『奥の手』を発動させた。

 目を閉じれば、家族の顔が浮かび上がってくる。暖かい食卓、他愛もない会話。楽しくて幸せだった思い出が蘇る。最後の瞬間も。

 そして家族と共に浮かぶのは、大切な人の笑った顔。

「みんな…俺、大切な人ができたよ。生きて帰りたい理由ができた。ミラちゃん…待っててね」

 家族への思いを乗せてカッと目を開き、あるだけのマナを出力。出せる限りの力で加速した。

 灰色の煙幕の中はまるで深い霧の中にいるかのように、ほんの少し先すらもほとんど見えない。“普通なら見えない”。でも俺は目が良い。自分でも気持ち悪いと感じるくらいには。この煙幕に包まれている戦場でも相手も、闇も全て見える。

 アルベルトとは違い、見えているんだ。

 旋回しながら弓矢をアルベルトに向けて放つ。

 剣や闇でガードされ、甲高い音が鳴り響く。しかし無視はされていない。

「ガードしてやろうと思えるくらいには、先ほどよりも威力が上がっている。死を感じての人間としての底力、か。しかし長くは持─」

 爆発音がセリフをかき消す。爆炎がまたも戦場を覆う。火薬はさっきよりも多く入れておいた。あんな奴のセリフを最後まで聞いてやる義理はない。

 今出せる限界の速度で爆炎の中に飛び込み、背後に回る。同時に弓を構え、剣を無理やりセット。

 相当なマナをつぎ込んでいるから、矢に比べて威力は格段に上がる。

 距離5メートル。近付ける限界。この距離なら剣で射っても失速しない。

 アルベルトはやはり察知していたようで半身になり、ガードの態勢を取り始めていた。闇の動きは完全には間に合っていない。

 爆炎の中を突っ込んできたから全身が熱い。腕も重い。でも準備は整った。

「いっけぇええええ!!!!」

 指先の力を抜き、剣を射る。

 灰色の煙を切り裂き、螺旋を描き、矢と同じスピードで真っすぐ向かっていく。


「見事だ…だが足りない」


  瞬時に俺が狙った場所を特定し、剣と闇の両方を辛うじてガードに回した。僅かに闇に触れたが、剣の勢いが勝り突き抜ける。そしてその直後に剣に触れ、けたたましい金属音が響く。爆炎に照らされた世界を一段と煌めく火花が散る。ほんのわずかだがガードに接触し、狙った場所から軌道がずれながらも、アルベルトの顔に向かっていく。だが直撃はせずに頬を掠ったにとどめた。

 初めてまともに攻撃が入った。だがそれはダメージにすればあまりにも小さく、戦況には何ら影響を与えない。

 少しばかり流れた血を置き去りにするように、俺が移動した先に猛烈な速さでアルベルトが飛び掛かってきた。これは避けれない。

「終わりだ…元生き残り」

 振りかざされた漆黒の剣は、爆炎の光の中で異質なまでに黒く、世界の光りをすべて飲み込んでしまうのではないかと言うほどに底なしに深い。何も反射せず、ただただそこにはどこまでも闇が広がっていた。

 死が迫る。まるで死神の鎌が首に当てられているような錯覚を覚え、全身の血が冷えて固まるように冷たい。

 勝利を確信し、口元を歪ませたアルベルト。

 それを見て、俺も確信できた。


『この瞬間を待っていた』


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