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第16話 宿敵×戦場にかける思い

「─した!おい!!エドガー!!」

「ッ!!…はぁはぁ…はぁ…はっー…」

 ライナーに肩を揺さぶられて、意識が覚醒。雨の音も、頬を滴る水も、目の前の光景も全てが戻ってきた。到底明るいとは言えないような天気なのに、なぜか眩しく見える。後退してきたフレイ君が合流した瞬間だった。

 腕の傷は思いのほか深く、それでいて無理に動いたためか傷口はさっき見た時よりも広がっていた。血が雨に混じり、流れ落ちるように広がっていく。食いつくようにエステルさんが回復魔法をかけ、それをしている間にも右手を敵に向ける。

「フレイ、どうしたんだよ!!何があった!」

「かなりの手練れの新手だ!!1対1なればなんとかできるかもしれないが複数人を相手にした上に同時に攻め込まれたら勝機は薄い...距離を取るのにこの程度の傷で済んで上出来だ。なんとか策を練るから弾幕を張って時間を稼げ!!回復が終わるまでなんとか耐えてくれ」

 最前線を維持していたフレイ君が戦闘不能。戦線が崩壊。敵がこの状況を逃すはずがない。

 でも今それよりも気になってしまうのが蠢く宵闇の正体。あれがいるという事は─。

「今が攻め時だ!!殺せっ!!!」

 トリスタンの怒号に呼応するように騎士団崩れが咆哮を上げる。先ほどまでの低下した士気は優位に立ったことで消え去った。悪意に満ちた獣の表情から地鳴りのような汚らわし声を放ち、迫ろうとする。

 だが─。


「いや、お前達は待機しろ─俺が行く」


 咆哮をかき消すように一人の男の声が戦場に広がった。少ししゃがれたその声色は、どこか嬉しそうなのに背筋が凍りそうなほどに静かで、高揚のない平坦なものだった。だがとてつもないほどに重く、張り詰めたようなプレッシャーが含まれていた。

 敵はその声に一瞬で反応し、前進をやめて左右に分かれた。その奥から歩いてきたのは、40代くらいの白髪が混じる男だった。なによりも目が先に行ったのは服装。


【あの時に見た、ローブを纏った姿と完全に一致した】。

 

 少し光が薄れた、黒が混じった茶色の瞳。こんな戦場でも緊迫した雰囲気はなく、まるで今からお風呂にでも入りに行くかのようにリラックスした感じだ。それでいて悪意に溢れている。

 今でも鮮明に覚えている。瓦礫の下からわずかに見えていた光景。家族を襲ったバハムートを操っていた『ローブの男の顔だ』。爆炎の光りでほんの一瞬だけ見えていた。口や鼻はマスクで隠されていたけども、その目はしっかり見えていた。あの時と何も変わっていない。あの目で間違いない。

 偶然か、必然か、そんなものはどうでもいい。今の目に前にあの日の真実を知る人間が立っている。

 でも自然と驚きはない。あの闇を見た時から、どこかで心構えはできていたから。ただただ目が離せない。真実を知る機会が来た。


「やれやれ、調達したサラマンダーが逃がされるとは予想外だがそんな事よりももっといい者に巡り合えた。待っていたぞ…エドガー・アクセル・スターリースカイ。トロス村の飛竜災害において唯一にして、まさかの生き残り。調査資料を見た時の驚きは、昨日の出来事のように思い出される」

 なるほど。だから俺の事を知っていたのか。という事はこいつが、黒幕。トリスタンを使って俺をこの場に呼び寄せた張本人。どうやって調査資料を見たのか、そんな事はもう些細な事だ。

「あの日の生き残りが10年の時を経て、対峙する…運命とは実に複雑なものだ」

 愉快そうに笑って見せるその顔は心底楽しそうで。怒りと言うにはあまりにも生ぬるい感情が込み上げてくる。血が沸騰してしまうくらいに全身が熱い。

「俺もアンタの事を覚えてるよ。バハムートが起こした爆炎でアンタの顔が一瞬だけ見えた。忘れたことはない」

「ほぉ…顔を見られていたか。深手を負って、瓦礫の下から見つかった、と書いていたが、その状況でも見ていたのか。若かりし頃の私の油断というべきか、素晴らしい根性…というよりも復讐心というべきか?どちらにせよ、素晴らしい目をしている」

「こんなにも嬉しくない褒め言葉は人生で初めてだ。あの時になんで見続けられたのかは自分でもわからない…けど、今は確かに復讐心でいっぱいで矢をお前にぶち込むのを必死に抑えてるよ。アンタには聞きたい事が沢山ある。なんで俺の村を…俺の家族を!!」

「この聖なる漆黒の闇の事よりも、まずはあの日の真実を聞こうとするか…それもまた復讐の矜持。だがやはり、若者はすぐに答えを知りたがる。教えてやってもいいが…力づくでやってみろっ!その復讐心に満ちた瞳にかけてかかってこい。教えてやれることは、これからお前の命を奪う者の名だけだ─アルベルト。さぁ始めようか、殺し合いを」

 アルベルトが剣を抜くと同時に体から、先ほどフレイ君を襲っていた闇がうねり上げて暴れ狂う。それに恐怖し、顔をひきつらせた騎士団崩れはサッと距離を取り、トリスタンやアダムスは少し離れつつも、狂気じみた笑みを浮かべながら闇を見つめた。

 少し近づいて分かったけど、まるで生き物かのように蠢く得体の知れない闇からは微かにマナを感じ取れる。五大属性のどれにも属していない、異質な雰囲気。特に光属性とは真逆の雰囲気だ。

 奴の剣も闇と同じように漆黒で、刀身は闇に呼応するように不気味に揺らめく。


「絶対勝てよ」

「あぁ…この日のために備えてきたから。絶対勝つさ」

 ライナーが肩をポンッと叩いて背中を押してくれた。短いけど力強い、なんともらしい言葉だ。

「おいエドガー」

「ん?どうしたの?」

 数歩歩いた俺にマークが駆け寄ってきた。肩を組み、俺にだけ聞こえる声で呟く。

「生きて帰って来いよ。お前のためにも、あの子のためにも」

「…それは…」

「何かあったらあの子の顔を思い浮かべろ。大切な子なんだろ?…いいな」

 返事も聞かず、力強く背中をバンッと叩いてみんなの元へと戻っていった。これもなんとも彼らしい。

 俺は問いにすぐ返すことができなかった。移り行く心の変化にまだ戸惑っていて、答えが見つけられないでいた。でもその芽生えてしまった感情が心の中では急速に大きくなっていっていて、きっとこれが今の俺の答えなんだろう。

 大切な人─一夜で俺の運命を変えてくれた恩人。あの一夜だけじゃない。10年ぶりに会えて、嬉しくて、楽しくて、あの日に灰色に変わってしまった世界に色が戻ったかのように世界が明るくなった。

 だから1つだけ言える事は─。


「もっと一緒にいたいよ─ミラちゃん」


 誰にも聞こえる事のない言葉は雨音にかき消され、曇天に吸い込まれる。

 この気持ちを、感情をどう言い表していいのかはわからないけど『生きて帰る』、そう強く思えるには十分だった。

 戦いが始まる。


「弓矢は自前のようだが、その剣は騎士団から支給された量産型のものと見えるが…それで俺と相対するのか?復讐と言う割にはずいぶん舐められたものだな」

 古びた木の鞘から抜かれた剣は、生き物のように刃紋が動く、白銀の刃。薄暗い空間の中で不気味なまでに光っていた。

「そう早とちりするなよ。しっかりと俺専用に変えてもらったからさ…!」

 少ししか見ていないのに弓矢が自前であることも剣が支給された剣であることも見抜くなんて、こいつできる。しかも接近されたフレイ君が手練れと判断し、文字通り死に物狂いで距離を取ると判断した相手だ。俺の目はあくまでも人を見る目はあっても、相手の実力を測れるような洞察力はないからわからないけど、この突き刺さるような殺気と積み上げてきたであろう貫禄。俺が出会った中でもトップクラスの強敵だというのだけはわかる。トリスタンなんかとは比べ物にならないくらいには強いだろう。下手をしたらフリューゲルさんと同格かもしれない。だからこそ、せめて武器だけでも強くなくてはならない。

 剣にマナを注ぎ込む。薄緑色のオーラが纏わるとたちまち刀身が伸び、厚みも増す。色も鮮やかなライトグリーンに染まり、柄の部分が鳥の羽の様に広がる。


「ほぉ…騎士団の剣を改造し、【マナ式可変武器(バリアブル・アームズ)】にしたのか。量産型の駄剣に比べ物にならない程の上物。流石王都と言うべきか、イクシオンにも良い腕の職人がいるのだな」

 

 【マナ式可変武器(バリアブル・アームズ)】─特殊な魔法を使いつつ、持ち主のマナを流し込みながら素体の刀身を打つことで武器の本質を変化させて出来上がる武器。普段はコンパクトで何の変哲もない物だが、持ち主のマナを流し込む事で武器は覚醒し、力に応じて変形する。切れ味や強度を素体の限界まで引き出し、比べ物にならないくらいに向上させる。

 マナの本質は個人個人で違うので、世界に同じものはない唯一無二の武器だ。

 腕のある職人でないとまず作る出すことすらできないが、色々と話したらヴァルフリートさんが腕のいい職人さんを紹介してくれて作ってくれた。剣も見た目を欺くために皮は支給された量産型の剣だけど、中身は上質な剣を入れた。なので値段はそれなりにして…これからの給料から天引きされるらしい。どのくらいで返済できるのだろうか…頑張らなくては!

 たしかに武器は用意しておかなきゃいけないとは思っていたけど、18歳、田舎町孤児院育ちの俺には溜められるお金の限度と言うものがあって弓矢は特別製を用意できたけど、剣は無理だった。なのでめっちゃ助かった。ありがとう職人さんとヴァルフリートさん。

「準備は整ったな…周りの奴らは全員動くな、勝手に戦闘もするな。目障りだ。こいつの戦闘に影響が出るかもしれんからな。ここは俺と、あの日の生き残りの戦場だ。誰にも邪魔はさせない。勝手な事をした奴は…殺す。いいな?」

 静かだが突き刺さるような殺気に満ちた言葉に、敵味方関係なくその場の全員が緊張感に包まれる。きっと今の警告ではない。本当に邪魔をしたら、味方サイドだろうと躊躇なく殺すだろうという気概が感じられる。そもそもこの感じだとあいつらの事を仲間だとは思ってはいなさそうだ。あの眼中にすらないといった感じの視線、手駒といった感じなのかもしれない。

 穴が開くほどに睨みつけるけど、そんな事はお構いなしにニヤケて見せられる。


「来てみろ。お前の復讐心がどれほどのものか、見せてみろ…生き残り。いやトロス村の亡霊」

「生き残りとか、亡霊とか下らないこと言ってないでよく聞け。俺の名前はエドガー・アクセル・スターリースカイだ。人生で1番最初に、家族が俺にくれた最高のプレゼントの名だ。そしてアルベルト、お前を今から倒す者の名だ!よく覚えておけっ!!!」

 剣を構えた瞬間、空に雷光が駆けた。



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