第15話 明かされた正体×戦場に走る異質
どこか力強く覇気を纏ったその言葉に、喧騒としていた戦場は静寂が包んだ。サラマンダーでさえも、フレイ君の言葉に耳を駆け向けるようにどこか落ち着いている。
左手を強く握り締めると数秒すれば光が漏れだす。手を開けば、そこにはまるで太陽のようなオレンジ色の綺麗な光球が出来上がっていた。強化魔法でもないし、ユニークスキルでもなさそう。
「イグニッション…【飛竜武器─グラム】」
持っていた剣に押し当てると光が纏わりつき、変形していく。柄が鱗のようにきめ細かいもように変わり、水色の刀身が伸びて、鮮やかなオレンジ色のラインが入った。まるで本物の朝焼けを刀身に映し出したように、自然の光りのように見えて、美しくて雄大だ。だがそれと同時に、剣からは生き物ような気配さえもしてくる。サラマンダーが強く反応し、咆哮を上げた。
「なんだそれは…?その武器、よく見れば飛竜【テンペスター】の鱗と尻尾が使われているではないか!なぜ貴様のような人間がそんな武器を!!!」
俺もこんな武器を見るのは初めてだ。この世界に存在するのに、なぜか世界に合わない異質のように感じてしまう。ドラグーン・アームズってなんだよ。初めて聞いた。武器の事は学んで調べてきたけど、そんな武器種はどこにも書いてなかった。じゃあやっぱり─
「─【シンクロ・ライズ】」
トリスタンの問いは無視して、そう呟くとフレイ君の目が光った。正確には目の中から光が漏れ出ている。それと同時にサラマンダーの目も同じように光り、何処か落ち着きがなかったのが一瞬にして大人しくなった。これもまた、魔法でも見たことがない。
敵味方関係なく何も理解できない人間の声が、雨音に紛れて周囲のざわめきと重なり合う。そんな中で数秒後にはフレイ君もサラマンダーも様子は元に戻り、深く呼吸をして一度剣を軽く振った。
エステルさん以外のその場にいる全員が、何が起こったのか理解できないでいた。
だがその空気をかき消すように、アダムスの高笑いが響いた。
「アダムス様!?どうしました?」
「思い出したぞ!あの伝承の特徴として書いてあった。『心を通わす』、『心を通わせた者だけが使える武器を振るう』と。お前─【ドラグーン・バレー】だろ?あの噂になっている」
ハッと息を飲む声が木霊する。
そうだ。今、目の前で繰り広げられた光景は、スカイ国に伝わる伝承の1つであり、この頃はミネルバの民はその正体ではないかと噂されていた飛竜と心を通わす事のできる民族【ドラグーン・バレー】の特徴に一致する。
バラバラになっていたパズルが完成したかのように、さっきのフレイ君の言葉の意味とどうしてあんなことを言ったのかが理解できた。その瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。鼓動が加速して、全身が熱い。
フレイ君とエステルさん…2人が噂のドラグーン・バレー。俺は今、真実にまた一歩近づいたのかもしれない。
アダムスの問いに対してもフレイ君もエステルさんも表情一つ変えないどころか、明るくなったような気もする。
「どこから漏れるんだろうな…そういう“真実”は。元々自分たちで名乗っていたわけではなく、外の人間が勝手にそう呼んでいるだけだが…そうだ。【ドラグーン・バレー】…確かに俺達はそう呼ばれている。如何なる質問にも答える気はない。ただ1つ、言うとするならば─俺はお前らを絶対に許さない。この世から消滅させてやろう。ドラグーン・バレーの名に懸けて…!!」
「クククッ…華麗に自分を明かして決まったとでも思っているようだがお前がやったことは、ただただミネルバの人間がドラグーン・バレーであることをわざわざ俺たちに明かしてくれただけだ。金になる話をしてくれて感謝する」
「別に構わないさ。だってお前らは全員、ここで─死ぬ運命だからな」
言い終わると同時に地面を蹴り、サラマンダーへと向かっていく。先ほどまでよりも早く、風を切り、雨すらも追いつかないほどに。
「飛竜と心を通わせるドラグーン・バレーの人間が飛竜と戦う…これほど愉快で皮肉な話があるだろうか。やれ、サラマンダー!!!燃やし尽くせ!!!」
アダムスの指示によって口に炎を集束させる。眩い光に、ただ集束させているだけなのに熱気で戦場の気温が上がった。なんてエネルギーだ。さっきのフレイ君の炎の比ではない。このまま真正面から行けば、避けられない。
どうにかサポートを…と、一歩踏み出そうとした時。『信じて』。その言葉が過った。確固たる強い決意の目で言われたこの言葉を、俺は無下にするわけにはいかない。踏み出した足を堪えた。
その間に、集束していた炎が限界までに達し、フレイ君に向けて放たれた。
濁流のような勢いで青白い炎が一瞬にして広がり、薄暗い空間が夏の昼間のような明るい世界へと一変させる。エステルさんの結界魔法に入っているものの熱気はすさまじく、焼けるように熱い。雨で揺れた肌が焼けそうだ。あんなものをもろに食らえば、人間などひとたまりもない。
「カッコつけた瞬間にこれとは馬鹿な奴だ!!ハハハハハッ!!!」
アダムスだけではなく、トリスタンや取り巻きの騎士崩れの連中は勝利を確信して、放射音を上塗りするようにあざ笑う声が響く。
だがその時、キュイッ─という小さな音がした。その数秒後、甲高い金属音が鳴る。
視線がその音の正体へと集中。そこには、サラマンダーの首に付けられていた拘束具が真っ二つに割れて落ちていた。
強風が舞い、光が収まっていく。視界が戻る。
「…っ!?」
「はぁ…?」
何かに気付いたトリスタンが騎士崩れの一人を自分の所に引き寄せながらバックステップを全力で踏み、一瞬で距離を取る。突然引っ張られ、理解が追い付かない騎士崩れの一人が間抜けな声を上げた瞬間、そいつの胴体を─『朝焼け色の剣が貫いた』。
「…反逆者とはいえ第七騎士団に所属しているだけの事はある、か」
胴体から剣を抜くと同時に騎士崩れの全身に炎が広がり、そのまま崩れ落ちていく。雨に打たれても、炎は鎮まることなく燃え続けている。
先ほどまで地を這っていたサラマンダーは、ボロボロの羽を懸命に羽ばたかせ、瞬く間に空に飛び立ち、離れていく。
「逃がすな!!撃ち落とせっ!!!」
「【フレイム・ウォール】!!!」
サラマンダーに攻撃が向けられる寸前に炎の壁が空一面に広がり、視界を隠す。僅か数秒だったが逃げるには十分だったようで、視界がクリアになった頃には唐紅の巨体は遥か遠くへ消えていった。
しかも一瞬全ての視線がサラマンダーに向いたことにより、フレイ君は敵に懐へと入れた。その刃はトリスタンを射程圏に収めた。
「終わりだっ!!」
「クソガアァァァァー!!!!!」
防御態勢は不十分。勝負が決した…かに思えた。
「─っ?!」
直前で剣を振り上げるのを留まり、地面に剣を刺して無理やり方向転換。
『なんで?』
心の中で疑問が湧き出ると同時にどういう状況であれ、そんなあからさまな隙をトリスタンが見逃すはずがなく、刃が振り下ろされた。
微かな斬撃音が鳴ると同時に鮮血が雨に混じる。フレイ君の左腕には深い裂傷。
「フレイっ!!!!」
エステルさんの悲鳴にも近い絶叫が木霊する。フレイ君の顔に一瞬で汗が噴き出るが、腕から流れる鮮血を目つぶしに使い、敵と距離を取ろうとする。考えるよりも先に敵向けて矢を射る。
多少距離があるものの、追撃を妨害する程度の力はある。他のみんなも追従するように攻撃を放ち、後退のサポート。
だがそんな中でもフレイ君は敵からの攻撃には目もくれず、ある一点を見つめながら下がる。その視線の先には、『黒い何か』が迫っていた。生き物のように蠢き、影よりも濃く、月明かりも通らない真夜中の森の中の様に。光をすべて飲み込んでしまうかのような宵闇。
「なんだ、あれ!?見たことな…ぇ…」
違う。俺はあれを見たことがある。心臓が跳ね上がると同時に、あの時の記憶が駆け巡る。あの時、バハムートと一緒にいた人間から出ていた黒いオーラと寸分たがわず同じだ。
俺の家族を、生まれ故郷を、奪った奴らと同じ漆黒の闇。
「ぁぁっ…!!!」
気づいてしまった刹那、あんなにも鳴り響いていた鼓動や荒くなっていた呼吸が、一瞬止まった。一瞬だったけどもそれは永遠とも思うほどに長く、世界の全てが止まってしまったかのよう。宵闇のような何かと自分以外がこの世界から消えた。
他は何も見えない、聞こえない。
そして次の瞬間には、全てが数倍の速さで動き出した。鼓動も、呼吸も、運命も。




