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第13話 下らない評価×決戦の幕開け

「しかしトリスタンよ、リストにあったヴァルフリートの所のエニグマ女を連れて来なくて助かったぞ。あんな男みたいな女を連れて来られたら、しらけてしまうからな」

「ハハハハハ、それは確かに!髪は短いし筋肉質で本当に男みたいでしたね!」

「でも顔のパーツ自体は良かったから髪を伸ばせばいい感じになったと思いますぜ」


「…あ?」


 気が付いた時には口から漏れ出ていた短い言葉は、自分でも驚くほどに冷たく、地の底から響くような声だった。

 同時に構えていた矢は放たれた。まっすぐアダムスの脳天に向かうが、結界魔法に阻まれて衝撃波を残し、破裂。声は止み、空間に殺気が広がっていく。でもそんな事はどうでもいい。

 ヴァルフリートさんの所のエニグマ女って…ミラちゃんの事か?今こいつらは、あの子の事をあざ笑っているのか。髪が短くて筋肉質で男みたい、しらける、髪を伸ばせばいい感じ…。

 その冒涜的な言葉が頭の中でループする度に心臓を直に掴まれたかのような圧迫感に加え、破裂するかのように激動して、血の流れが一気に加速していく。血が沸騰しているかのように熱い。心の中をどす黒く醜い感情がうごめいて、自然と全身に力が入って呼吸が荒くなっていく。


「その減らず口、二度と開けないようにしてやるよ…お前らごときが、あの子の事を口にするな!!穢れる!!!」


 彼女がこんなクズ共に、下らない評価をされなくてはいないのが許せない。たとえ本人が今この場に居なくとも、許せない。人生でこんなにも怒りを感じたことはなかった。目の前にいる下劣な獣達を黙らせる事しか考えられない。

 ただ唯一良かった事は、この場にミラちゃんがいないという事だ。こんな穢れた言葉を聞かれなくてよかった。ただそれだけが不幸中の幸いだ。

 これほどまでに人を恨み、憎んだ事はない。頭に血が上るとはこのことだろう。そして、これと同じような感情を抱いているのは俺だけではない。

「欲望に溺れた下らねぇな男だな」

 マークのその声は、いつもどこか飄々している明るい声色からはかけ離れていて、沸騰しそうだった血が冷えてしまうかもしれない程に冷たく、鋭い。淡々とした口調だけど、どんな能天気な人が聞いても怒りが感じられるだ。その気持ち、よくわかるよ。

 恋人であるリーシャさんに対して、好きな人がそんな言われ方をして気分がいい人間はいないだろう。妾にするとか言って卑猥な眼差しを向けてくるような相手だ。ここまで怒りを覚えるのも当然だ。

「マーク、“下らない男”、なんて言葉もこいつらには勿体ないよ。…あいつを生かしておくのも勿体ないけどね」

「同感だ。ごめんね、エステル。あんな下賤な奴の言葉は聞かせちゃって」

「フレイは悪くないし。あんな奴の言葉、存在ごとすぐに忘れるよ。でもパンケーキ一緒に食べてくれたらもっと早く忘れるかも」

「いいね。約束するよ。生きて帰ろう」

 口々に放つ言葉は、強い怒りと哀れみ。そして、絶対に生きて帰るという何にも砕けることの無い強い気迫だ。

 俺も生きて帰れたらミラちゃんと、もっと一緒に。


「あんな女もどきのどこがいいのかさっぱりわからんな。甘酸っぱいガキ共の青春も、どこがいいのかわからん。見ていると吐き気がする…殺れ」

 その声を皮切りに、トリスタンと騎士崩れが一斉に動き出す。

 ばらばらに分かれ、四方八方から攻撃魔法を放った。人ほどの大きさの火球や岩、意思を持っているかのように蠢く水、そしてかまいたちのように風の刃が迫る。

 数は圧倒的に相手の方が多い。これだけの魔法による攻撃を回避するは厳しい。こんな攻撃をまともに食らえば、一巻の終わりだ。

「読み通りだ、チャージは完了している。焼き尽くす!!」

 フレイ君が一歩前に出る。今までの時間でマナを溜めていたようで、近くにいるだけで溢れてきたエネルギーで熱い。全身から炎が広がっていく。

「私の後ろへ!!【アストラル・バリア】発動!!」

「【プロミネンス・ノヴァ】!!!」

 エステルさんの後ろに固まり結界魔法『アストラル・バリア』が発動した瞬間、フレイ君が振りかざした腕から猛烈な光と熱気が一瞬で広がり、世界を支配した。視界全体が一瞬にして火の海に。雨で乾いていた地面は一気に乾き、周囲の森が燃えている。気温が一気に10度くらい上がったようにすらも感じる。結界魔法の中にいるというのにそれを貫通してくるほどの熱さ。飛んできた全ての魔法や矢は燃え尽き、消滅。


 だが残念な事に敵もこれを見た瞬間に防御態勢に入っていたため、数人を戦闘不能にする程度にしか被害はない。騎士崩れとは中々の手練れだ。

 それにしても雨のせいで火属性は弱まっているはずなのに、たった1人の一撃で30人近くの魔法と投擲武器を消滅させるこの火力。もしかしてこの程度の雨では弱まる事すらないのかもしれない。環境の変化も関係なしにこの威力。俺なんかとは比べる事すらもできないほどのマナの出力と量だ。全てが桁違い。ミネルバの民は自衛できるように鍛えているってヴァルフリートさんが言っていたけど、強すぎない?もしかしなくともフレイ君ってめっちゃ強い?

 そんな事を思っているとフレイ君が一人で敵に突っ込んでいく。作戦通りだけど心配だ。俺も自分の役割を遂行するために動く。

「【エアライド】」

 風を纏い、空へと飛び立った。

「【エアライド】だと!?こいつのデータにないぞ!さっさと撃ち落とせ!!!」

 苛立った様子のトリスタンの怒号が戦場に木霊する。一斉に俺への視線が集まり、攻撃の構えが取られた。受験会場に入った段階で嫌な予感がしていたから、できないって申請してたんだよね。嘘を書いちゃったけど許してほしい。

 集中砲火の様に魔法攻撃が飛びかう。体を回転させ、全身で風を受け止めながら躱していく。

 すぐ横を大きな岩が掠めていき、次の瞬間には別の方向から火球が飛んでくる。騎士崩れとはいえ、今も傭兵のような事を生業にでもしているのか精度はかなり良い。全力で動き回って何とか回避を続けているけど、油断すれば直撃してしまいそう。威力も相当高い。当たればきっとただでは済まない。

 回避をしながらも戦場全体を見渡して、隙を見つけて矢を放つ。多数戦闘は全くやったことがないから頭パンクしそう!でもそんな弱気な事も言っていられない。


 俺の役割は『サポート兼デコイ』だ。


 トリスタンが不穏な動きをしている事から、戦闘になるのは避けられないと思っていた。動くとしたら、怪しまれないように俺だけではなくチームごと狙ってくるだろうと予想できていたから、集団戦闘になった時は誰がどういう役割を持って動くかを話し合って決めた。

 剣術に優れたライナーとフレイ君が前線。魔法攻撃が得意なマークとリーシャさんは遠距離からの後方支援しつつ他を相手に。結界魔法と回復魔法が得意なエステルさんが防御面でのサポート役となり、遠距離武器や魔法に対応し、傷ついたメンバーを即時回復。そして俺は空から戦場全体を見渡して、ある程度の敵の注意を引きつつ危険が及びそうな場所を即時判断して弓矢でサポートする。目が良いから戦場の隅々まで見える。凄く合ってるポジションだけど、一瞬たりとも思考を停止することが許されない上に責任重大だ。

 爆炎や衝撃波が絶えず全身を震わせる中、空を飛び回り、矢を射る。

「フリューゲルゥゥゥッー!!!!」

 騎士団崩れの攻撃の合間からトリスタンの剣撃がフレイ君を襲うが、それを剣で受け止めてはじき返す。雨の中、耳をつんざく金属音と共に火花が線香花火の様に散る。

「集中砲火をされないように近すぎずバラバラになりすぎない適度な距離を保つんだ!ベルクマン、前に行きすぎだ!水属性魔法を使って一旦距離を取れ!武器に毒が仕込まれているから掠りでもしたらすぐに下がって処置しろ!!右前方に弾幕が集中してる!後方支援はそっちの対処を優先的に!!スターリースカイ、後ろに隠れているヒーラーを中心に狙え!同時に、森の中から来ないかも随時見て、来たら対処か報告を!!」

「了解!!対処しておく!!」

 複数人の敵を相手にしつつ、的確に指示を飛ばしてくれるフレイ君。完全には対処できず少しずつ傷が増えていて、鮮血が飛び散っているがお構いなく悠然と敵に剣撃を叩き込む。騎士崩れとはいえそれなりの武術を心得ている相手を、圧倒している。

 技術で負けているなら力と物量で襲ってくる相手にも負けるどころか、力勝負に余裕で勝りはじき返している。その動きはもはや鬼神。この間の手合いよりも遥かに強い。飛竜を殴り飛ばせるミラちゃん程ではないにしても、人間では到底出せないパワーだ。人間の限界を超えている。

 『リミットブレイカー』。

 人間は無意識下で自分の出せる力を制限している。限界まで出力すれば身体への負担がとんでもなく大きいため、脳が勝手にリミッターをかけているという話らしい。なにか危機的な状況に陥った拍子にリミッターが外れる時があるという。『火事場の馬鹿力』というやつもその一種だそうで。

 でも稀に、そのリミッターを自由自在に外せる人間がいるという。

 その一人がフレイ君というわけだ。リミッターを自由自在に外せて超人的なパワーを発揮する事ができる、と本人が教えてくれた。彼なりの奥の手の1つなんだって。当然体への負担は半端じゃなくて、使っている最中は骨や筋肉が軋むらしいけど気合でどうとでもなるらしい。ここら辺も人間の限界を超えている気がする。それでも毒が効かない理由が不明だけど。

 ただ一つ言えるのは、『味方でよかった』って事だね。



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