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バグ (完全版)  作者: 祓川雄次


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8/10

八、

 フレイジャーとマリンガは、東京の人込みの中を歩いていた。

 この東京に住む者たちが何を考え、何を楽しみ、何を悲しんでいるかは彼らに取ってはどうでもよいことであった。しかしながら、この人々を肯定してきた自分たちにとって、彼らを消すような行為だけはあってはならないと思えた。

 黒く怪しくなった雲行きを見ていると、いよいよという雰囲気を二人は肌で感じていた。

自分たちの届かなかった世界、そこでこれからはじまる出来事を、肌感覚で感じずにはいられなかった。

「そろそろだな」

「そのようだ」

 マリンガがふと発した言葉にフレイジャーが天を見上げて答えた時に、暗雲から漏れだすかのように、急に雨が激しく落ち始めた。

 人々は大勢いる他人を避けるようにしながら、我先に、とどこかを目指して走り出した。だが二人の元使徒たちはその雨を身に受けながら、歩みを止めた。

 そして空の彼方を見上げた。


 元使徒たちが見上げている空の方向なのか、それとも別の場所なのか、修正者と使徒がいる場所は誰にも存在がわからなかった。神の領域という場所は、もしかすると人間たちが感じている物質空間の場所ではないのかもしれなかった。だがそんな事はその者たちに取ってはどうでも良いことであった。

【よく来た、我が意思を継ぐものたちよ】

 その場に居合わせた九人全員が、脳裏に直接話しかけてくるような音に反応した。

「もしかして、これが創始者の声……」

 薫が声を上げた、が誰一人として、驚きなのか他の感情なのか、その問いに答えようとする者はいなかった。

【私は迷っていた。

現行の世の中が良いのか、それとも修正を加えるほうが良いのか……。

 そして私は一つの答えを導いた。

 地球で産まれた、他の動物にはない、私に近づくような文明を持った人間たちに、その判断を、答えを委ねようと……】

 シリウスはその脳裏への音に応えるように、一歩歩み出た。

「そしてここで、最後の審判が行われるというのですね」

【あなたたちのどちらかが勝つことによって、その方向は導かれる。

 それを最後の審判と呼ぶのであれば、そうなのかもしれないな】

 虚空へと響いたシリウスの言葉に対して、再び創生者の音が脳裏へと伝わってきた。

「さあ、いざ我に答えを……」

その言葉を発端に、九人の身体は浮き上がり、見えない椅子のような物に座る体勢となり、円を描くように、修正者と使徒が対峙をした。

「何だ、これは」

 シェフチェンコが驚きの声を上げた。そんな九人の前に、浮遊石から浮かび出るようなキーボードが出現した。

【地上とは異なり、この場で血を流すことを私は望んでいない。

 ここでは個々の能力を破るか破らないか、コードのみで戦ってもらおう。

 セキュリティを超えられ、自らの持つライフを削られた者がこの場から脱落していく】

 その音が終わると同時に、皆の頭上にセキュリティソースが浮かび上がった。

「誰がどのように攻撃をするかが大切ですね」

「とにかく集中していきましょう」

 ロメロの言葉の後に、気を引き締めるようなウインザーの言葉が続いた。

 シリウスたち使徒はその言葉に対して何も発することなく、いつでも攻撃を仕掛けられるように身構えた。

 アーナンダはテンペがここで何もできない事を考えると、5対3という不利な状況であることを踏まえて、頭の中でどのような戦いになるのかを計算をしていた。その考えはシリウスやジャックリーンに、創生者の言葉と同じように、直接脳裏に伝わった。

 全てのキーボードが光ったと同時に、九人の身体がそれに応じるように光りはじめた。その瞬間を待っていたかのように、テンペを除く六人の手が、キーボードの上を滑るように走りはじめた。一人だけ動かなかったのは湯田であった。未だに調子が悪いのか、割れるように痛む頭を押さえていた。

 アーナンダ、シリウス、ジャックリーンは、一気にコードを打ち終えたのか、三人が同時に攻撃を仕掛けた。それは光りの矢のような形となり、同じ方向へと発せられた。

 その光りの攻撃を浴びたのはロメロであった。

「三人同時で私に……」

 ロメロは自らのセキュリティが一番弱いことを理解していた。今まで解析作業ばかりで自らの能力を高めるようなことができなかったのであった。それは戦いの場に出ていないという事が理由であると漠然と理解していた。

 何とか攻撃を避けようと、セキュリティウォールのコードを打ち込むが、同時に来た攻撃の一つがそれを破壊し、ロメロは光りの矢を身に受けた。セキュリティだけではなく、ライフが一気に削られる。

 仲間を助けるという行動がとれない中で、ウインザーはアーナンダを攻めた。アーナンダはそれを察知してか、素早く相殺するコードを打ち込み、ウインザーから攻撃された矢を打ち消した。

「セキュリティコードだけではなく、それ以上にセキュリティウォールも打ち破らないといけないとは」

「その条件はこちらも一緒だろう」

 薫が呟いた言葉に先ほどまで頭を抱えていた湯田が答えた。そしてすぐさまキーボードを叩くと、矢を放った。その光りの矢はジャックリーンを捉えた。それほどの当たりではないが誰もが有効であると考えていた。それは少しでもセキュリティが下がらないことにはこの先が見えてこないという暗黙の了解のようなものであった。それを見越しての湯田の攻撃であったのだ。だがジャックリーンはそんな事をどうでもいいと言わんばかりに、更なる長いコードを打ち込んでいた。

 使徒たちはセキュリティの殆どないロメロを集中的に攻撃しようというのであろうか、更に長いコードを打ち込み、ロメロを標的にしていく。

【私たちのセキュリティはまだかなり強いはずです。

 攻撃を受けることは気にせずに、今は一人でも減らすことを考えましょう】

 アーナンダの意識がシリウスたちに伝わった。

「それが良さそうだな」

 シリウスが標的としているロメロを強く視線で射抜いた。セキュリティがほとんどないロメロはあと一撃でも総攻撃を受ければライフがなくなる。シリウスはそう読んでいた。

 総攻撃を受けているとわかっているロメロは、セキュリティウォールを作ろうとするが、アーナンダの攻撃によってそれはすぐに消されてしまった。その間にシリウスとジャックリーンが長い攻撃コードを作りあげようとしていた。

 湯田もシェフチェンコも攻撃をするが、使徒のセキュリティを超えるという事がなかなかできない。無防備で攻撃を受けるが、実際にセキュリティを消すまでには相当のコードを打ち込まなければならないようであった。

 ロメロは集中し、無言でキーボードを叩き必死に防戦するが、互角の攻撃をしてくるアーナンダの存在に手を焼いていた。その間に、シリウスとジャックリーンが再びロメロを攻めたてた。ロメロはその攻撃に対するセキュリティウォールを作ったが、長いコードはそのセキュリティを圧倒的に破り、ロメロに矢を当てた。

 するとロメロの前に浮かび上がっていたキーボードが消えたと同時に、ロメロ自体が亜空間から姿を消した。

「えっ」

 薫が消えたロメロを探すように視線を動かした。

「ライフがなくなった者はこの空間から消えるようだな」

 シリウスが驚いている薫に向けて言った。湯田は薫を横目で見て言った。

「宝田さん、手を動かし続けないと」

「あっ」

 薫はその言葉で気が付いたのか、手を動かしはじめたが、その行動は遅く、アーナンダからの攻撃を受けた。それによって薫のセキュリティが大きく落ちた。


「創始者が、修正者が勝った時にやろうとしている事とは……」

 椛島が思わず言葉を出した。村木はそれを聞いて、思わず消えかかっている百合の写真を思い出すように呟いた。

 拘置所の中でアクリル板を前にしている三人は、その先にいる椛島から視線を離した。

「もしかして、創生者は人間という存在そのものを消そうとしているのか」

 峰も村木と同じような考えに至った。写真の中の消えていく人間、それを考えると自分たちの身体も消えかかっているのではないかと、思わず自らの手を確認して。だが峰の手は通常に地球という物質社会に存在していた。

「創生者は、地球創生のプログラムを創った時に、人間が存在する世界を望んでいなかったのだろうか」

 祖惠村も二人に続くように頭の中で考えた言葉を出した。

 その言葉に反応したのは三人とはアクリル板によって隔離されている椛島であった。

「それはわからない。ただ、もしも修正した時に、一部の人間が存在しなくなるのかもしれないな。それが修正者やその者たちに一番近い存在なのかもしれない」

「そんな事をするのであれば、今創生者のために戦っている薫さんたちが、一番に消える可能性があるという事なのか」

 村木が義理の兄になるはずであった薫の存在を危惧するように思い浮かべた。

「創生者の思いを知らずに、宝田さんは戦っているというのですか」 

 祖惠村が寂しそうな声を出した。その声に反応したのか、椛島は椅子からゆっくりと立ち上がった。

「もしも消えたくないのであれば、使徒を応援するしかないのだろうな。

 だがそれでも修正者は消える可能性が高いだろう。我々は修正者を殺害することを望んだのだから……」

 それだけを言うと三人を残したまま、椛島はアクリル板に背を向けて面会室を出ていった。

 扉を閉め、自らの手を顔の前へとあげて、椛島はそれを見つめた。修正者だけではない、もしも創生者がプログラムを書き換えた場合に、修正者のみならず、使徒たちも消えるのかもしれない。それは自らの手が少しだけ薄くなっていることで、椛島はそう解釈した。


 亜空間では、修正者と使徒たちの戦いが続いていた。

キーボードの上で素早く動かされる手によって作り出されるセキュリティウォールや光りの矢が、あちこちに浮かんでは消えていく。

 そんな中、アーナンダが作り出した長いコードが、シェフチェンコのセキュリティウォールを破壊した。しかも光りの矢は、更にシェフチェンコ目掛けて突き進んだ。対抗するように出したシェフチェンコの矢と目の前で交錯し、大きな火花が発生した。

「何とかなったのか」 

 シェフチェンコの視界が開け、目を凝らした時であった。火花の中からアーナンダの放った次なる矢が自らを射抜くことを確信した。先ほどの言葉とは裏腹の言葉がシェフチェンコの脳裏に浮かんだ。それと共にキーボードが消え、亜空間から姿が消えた。

「これで戦力は互角になったようだな」

 有利を確証へと変えたシリウスの矢がウインザーを襲った。しかしウインザーも負けずに応戦した。二人の能力はほぼ互角だと思えた。

 湯田は未だに不調を訴えながらも、強力な矢を放った。それがジャックリーンを襲った。それによってジェックリーンのライフが底をつきはじめているようであった。

「もう少しで一人を倒せる」

 湯田は再び手を動かそうとするが、頭の痛みのせいか、動きが一瞬遅れた。そこにアーナンダの攻撃を受けた。湯田は苦しい様子を見せるが、まだキーボードが消えることはなかった。

「湯田さん、大丈夫ですか」

 手を動かしながらもウインザーは湯田を心配した。

「人をかばっている余裕があるのかな」

 シリウスが更にウインザーを襲った。しかし強力なセキュリティウォールがそれを阻んだ。まだまだウインザーの力は衰えていない。シリウスは無数に張り巡らされているウインザーのセキュリティウォールを消すことを考えていた。

 アーナンダはシリウスの意思を感じたのか、長いコードを作成しはじめた。

 そのアーナンダへと薫が攻撃を仕掛けた。それによってアーナンダのセキュリティを突破することができた。だがアーナンダはそれを無視するかのようにコードを作り続けた。

 ジャックリーンの攻撃が薫を襲うが、何とか薫のセキュリティは持っているのか、未だに突破されることはなかった。

 湯田が作ったコードによってジャックリーンのキーボードが消えた。それと同じようにジャックリーンが亜空間から消えた。

 消えた人間がどこへ行くのか、そんな事を一瞬考えた薫だが、今はそれを追求する余裕はなかった。ちょっとした迷いが自らを消してしまう。そう思うとキーボードを叩く以外になす術はなかった。

 アーナンダの攻撃がウインザーのセキュリティを一気に破壊した。だがその間に、湯田と薫が攻撃を仕掛けた。アーナンダのセキュリティはそれによって破壊された。

「シリウス様、後は任せましたよ」

 アーナンダは自らの最後を悟っているかのように、キーボードを叩き続けた。その言葉を耳に入れながらシリウスはウインザーへと攻撃を仕掛けた。ウインザーは防ぐのが精一杯なのか、攻撃に転じることができないでいた。

 湯田が再び苦しみを訴えだした。その苦しみのせいなのか、湯田のセキュリティが自然と弱まっていった。そこにアーナンダが狙いすましたような攻撃を仕掛けた。

「湯田さん」

 薫はアーナンダへ光りの矢を放ちながら、攻撃を受ける湯田を心配した表情で見つめた。

 アーナンダは薫の攻撃を受けて、先ほど自らが悟っていたように、キーボードと共に消えていった。

「薫、あの子供は多分攻撃ができない。ほぼ三対一、これで勝利は目前だ」

 ウインザーの言葉にコードを作りながら薫が頷いた。だが一人多いとは言え、湯田は頭痛により、もう何もできないような状態に陥っていた。

 シリウス一人に対してウインザーと薫は二人で攻撃を仕掛けた。それによって徐々にウインザーのセキュリティは無くなっていった。このまま押し切れば修正者の勝ちになる。そんな事を思った時であった。

 シリウスの攻撃が湯田を射止めた。それにより湯田のライフが無くなっていくのが目に見えた。光の矢の攻撃のせいではないのだろうが、先ほどからの苦しみが増幅するように、湯田は頭を掻きむしった。


 フレイジャーとマリンガは、先ほどからの土砂降りの雨の中、なおも立ちすくんでいた。辺りには雨宿りのためだろうか、ほとんど人の姿は居なくなっていた。だが二人は雨のことなどは気にも留めていなかった。それと共に自らの身体を確認した。

 消えかかっていく身体を見て、マリンガは口を開いた。

「俺たちの存在が消えようとしている」

 フレイジャーも自らの身体を確認した。

「そうだな、だが俺たちが消えゆくことで、最後の使徒が目覚めようとしているのだろう」

「その使徒によって創生者の思い通りの展開を防ぐことができるのか」

「さあ、まだわからないな。俺たちの存在が残るのか消えるのか」

 二人が何かを感じているように、拘置所の中の椛島も最後の使徒の目覚めの兆候を感じていた。だが自分たちがそのことを確認する方法はなかった。ただ今は地球上で結果を待つことしかできなかった。

 椛島は観念するように留置所の寒々しい中で禅を組み、目を閉じた。


 ウインザーと薫の攻撃により、シリウスのライフが削られていく。シリウスは薫を無視するようにウインザーを攻撃した。

【天才たちは相打ちか】

 脳裏に言葉が直接響いてきた。それは戦いをどこかで見守っている創生者の言葉のようであった。そしてその言葉通りに、ウインザーとシリウスのライフが底をつきた。

だが二人は今までの者たちと異なり、キーボードが消えただけで、その場から消えることはなかった。

「勝ったのか……。

 それにしてもなぜ今までとは異なり、二人がこの場に残ったんだ」

 薫は呆然としながら頭を抱える湯田を見た。

「最後を見届けるためだよ」

 湯田が何かを知っているように言葉を出した。それに驚くように薫が言葉を返した。

「最後ですか」

「そう、この私と君の勝負を見届けるためにね」

 その言葉と共に、湯田の目が怪しく光った。

 薫はなぜ湯田が同じ修正者である薫と勝負をすると言ったのか、その意味がわからなかった。

 湯田の目から発せられた光りは大きくなり、やがて身体全体を包み込んでいった。そして湯田が大きな咆哮を発した。

「最後の使徒が目覚める」

 シリウスは聖堂の中にあった創生の絵を思い出した。

【私の思いを裏切るというのか】

 創生者の言葉が再び脳裏へと響いた。それと共に湯田が使徒側へと移った。

「なんで湯田さんが」

 ウインザーが驚きの言葉を出した。それに答えるようにシリウスが言った。

「聖堂の創生の壁画に描かれ、扉を開ける最後の使徒の誕生……」

 湯田は今までの頭の痛みがなくなったかのように、キーボードを小気味よく叩いていく。それに気が付いた薫が、セキュリティウォールを作ろうとキーボードを叩く。

「湯田さんが使徒だったなんて。俺たちは負けるために湯田さんをこの場に導いてしまったのか」

「創始者はやはり現状を更新する気になったのかもしれないな」

 シリウスは希望の笑みを浮かべ、薫の言葉に対して思わず自らの思いを吐いた。

「私たちの存在意義はどこにあったのだ」 

 ウインザーの言葉は薫と同じ気持ちであったかもしれない。

「誰も私のバグが一番強力であったとは、知らなかったのだろうな」

 湯田の強力な攻撃が発せられた。それによって薫のセキュリティウォールはあっと言う間に破壊された。

 そしてその後に続く攻撃は、薫の放った光りの矢をも飲みこみ、薫のライフを奪った。

 薫のキーボードはあと一撃で消えようとしていた。セキュリティウォールを何とか作ろうとする薫と、そこに対して攻撃を仕掛けるためなのか湯田はキーボードを叩いた。

 いくら薫がセキュリティを強化しようとも、それを打ち破るコードと共に、攻撃のコードを先ほどのように作られたのでは、もう勝ち目はないように思えた。それほど湯田の作り出すコードは強力な物であった。


 テンペの両親たちがいる山奥では、雷が鳴り響いていた。雨が振っていないせいか、乾いた爆発音のような雷は、人々を恐怖させるには充分であった。

「創生者の思い通りの世界がなされようとしているのか」

「さあ、どうかはわかりませんが、テンペによって、最後の世界が開かれようとしているのですね」

 両親は何かを悟っているのか、見えない亜空間の中に存在している息子を思った。

「信仰は人の命よりも尊い」

「それが私たち自身の存在を失うことになったとしても……」

「一番強力なバグを持った者が、今全てを……」

 雷が大きな爆音を立てた。

 それと共に遠くで雷によって引き起こされたのか、火の手が大きく上がった。


 湯田の攻撃の矢ができあがったのか、光の矢が放たれた。

 もうどうすることもできないかもしれない。薫は何とかセキュリティウォールを作ったが、それでは防ぐことができないだろうと、腹の中で覚悟を決めた。ウインザーも無念な表情を浮かべた。

 だが湯田の攻撃は、薫へとは向かわなかった。

 その光りの矢は、静かに存在していたテンペへと放たれた。

「これによって、神の領域へと入り込むことになるのだろう」

 シリウスは湯田の行動によって何が起こるのか悟っていたかのように、その矢の行方を追った。

 光の矢は、テンペを捕らえると大きく発光し、その場に残っている薫、ウインザー、シリウスを包み込むほど大きく膨らんだ。

「一体何が起きているんだ」

 薫はその光に包み込まれながら驚きを隠せずにいた。

 しかしこの亜空間で人間の能力などで通用するものはあり得なかった。ウインザーもシリウスも何も語ることはなかった。ただただ光の渦に身を任せることしかできないという事を理解していたかもしれない。

「さあ、最後の仕事をやりに行こうではないか」

 湯田は皆が光に包み込まれるのを見届けてから、自らその光の中へと飛び込んでいった。そして亜空間には誰の存在もなくなってしまった。


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