エピローグ
静まり返った結婚式を行うチャペルでは、大勢の人たちが新婦の入場を今か今かと待ちわびて着席していた。
そんな中、祭壇の上で一番新婦の登場を待ち望んでいるのは、入口を見つめている村木であった。
「皆様、ご起立お願いいたします」
司会者の言葉と共に、列席者すべてが立ち上がり、後方の扉を見つめた。
「これよりご新婦さまが入場いたします。盛大な拍手でお出迎えをお願いいたします」
司会の言葉を合図に、式場後方の扉が開き、喝采の拍手が巻き起こった。
開かれた扉の向こうには、薫と共に、ベールに顔を覆った百合が存在していた。
二人は一歩進み、一礼してから顔を上げた。その表情は皆の祝福を受け、晴れやかな笑みが浮かべられていた。
列席者の拍手に押されるように二人は歩きはじめた。
力強く進む薫と、その腕をしっかりと掴んだ百合が、一歩また一歩と村木が待つ祭壇へと進んでいく。バージンロードを進む中、拍手はずっと新郎新婦に向けられた祝福のために鳴りやむことはなかった。
【昨日の夜、百合が殺されたり、訳の分からない使徒という連中と戦ったり、神の領域と言われる場所へ行ったりと、変な夢を見て、不安でしかなかったが、現実じゃなくて良かった】
薫は不思議な夢の感覚を、修正者と使徒が存在をなくしたことによって取り戻した日常の中で感じていた。
バージンロードを進むうちに
【これで、やっと百合が結婚するんだな】
そう思うと薫は感慨深いものが、胸の中へとこみあげてきた。
二人はゆっくりと歩み、新郎である村木の前で立ち止まった。
「お兄ちゃん、お父さん役ありがとう」
腕を離した百合は、薫に一礼した。
村木は一歩、歩んで百合を迎えに行った時に、ポケットから手の平に収まるくらいの石を取り出し、百合へと手渡した。その石を受け取った百合は、再び薫へと向き直った。
「この石、お父さんが昔お母さんにあげた物なんだって、幸せになれるように、って……。
私がお母さんから預かっていたんだけど、これがあるから結婚できたのかなって思ったんだ。
だから今度はお兄ちゃんがこの石を持っていて幸せになってくれたらなって」
そう言うと、百合は石を薫へと手渡した。
何だかわからずにもらった石を手中に収め、薫は村木を力強く見た。
「これから百合の事を頼む」
「はい、大切にします。任せてください」
村木は義理の兄に力強く言い頭を下げた。そして新婦へと手を伸ばし、その手に百合は自らの手を重ね、祭壇へと昇った。
薫はその石を不思議そうに見ながら、自らの列席する、一番前の席へと移動した。
【何だかこの石、初めて見る感じがしないな】
そんな事を感じながらも、今は妹の綺麗な姿を眼に焼き付けるほうが先、という事に気が付き、石をポケットの中へとしまった。
神父に向かい合った村木と百合の背中を見て、薫は微笑むことしかできなかった。
しばらくすると、鐘が鳴り響き、青空へ健やかな気持ちが飛び散っていくようであった。
(完)




