第43話:代償の顕在化
リディアが誘拐された事件は、図書館に大きな教訓を残した。
真名保護の重要性が再認識された一方で、魔法の代償という、もう一つの問題が浮き彫りになった。
ある日、司書見習いの一人が、図書館で、無自覚な魔法を使ってしまった。
それは、町に伝わる昔話の古書を修復している最中のことだった。
彼は、その昔話の物語を、心の中で強く思い描いてしまった。
すると、町の記憶の一部が、その昔話の物語に書き換えられるという、小さな事故が起きた。
影響範囲は半径200メートルほどに及び、町の住人は、一瞬、昔話の登場人物が、本当に存在していたかのように錯覚したのだ。
リリアーナとアルフレッドは、この事故を重く見た。
「これは、代償管理の失敗です。無自覚な**現実改稿**が、人々の心に影響を与えてしまった」
アルフレッドは、即座に、図書館を72時間の自発的停止とした。
「我々は、知を管理する者として、この事故を隠蔽することはできない。真実を公表し、人々の信頼を繋ぎ直さなければならない」
リリアーナは、事故の経緯と、代償管理の重要性を記した事故報告書を作成し、町の住民たちに公開した。
当初、町の記憶は90分ほどで自然に復帰したが、司書たちは補正詠唱を施し、即時回復を助けた。
補正詠唱の副作用として、軽い**既視感**が残るが、48時間以内に消失すると説明した。
72時間の停止期間中、彼らは第三者立会いの事故審査を行い、代償上限の再設定署名を完了させ、司書全員の補正詠唱の教育完了率が80%に達したことを確認した。
これらの条件が満たされたことで、図書館の停止は解除された。
最初、住民たちは、図書館の管理責任を追及した。
だが、リリアーナの誠実な態度と、アルフレッドの素早い対応を見て、彼らは、次第に納得していった。
「図書館は、知を独占しようとするのではなく、知と共に生きるための場所なのだ」
人々の信頼は、失われることはなかった。
この事故は、図書館の守護者たちに、魔法の力と、その代償を、改めて考えさせるきっかけとなった。
知の力は、希望をもたらす一方で、使い方を間違えれば、人々の心を傷つける、危険なものにもなりうるのだと。




