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第42話:誘拐と交渉

 沈黙会サイレンスは、分散保管に移行した真名登録簿を諦め、司書たちを直接狙うようになった。

 彼らの標的となったのは、新たな司書として頭角を現していたリディアだった。彼女は貸出カードの目録入力権限を持っていたため、その知識を狙われたのだ。


 ある日の夕方、リディアは、図書館の裏口で、沈黙会の構成員に襲われ、誘拐された。

 彼らは、リディアの真名を手に入れ、図書館の知を支配しようと企んでいた。


 リディアが目を覚ますと、そこは、廃墟となった教会だった。

 彼女の体には、魔力を封じる拘束魔法がかけられていた。

 床の陣には『囚人は絶望して沈黙す』の叙述句プロトコルが刻まれているのが見えた。


 沈黙会の指導者は「諦めろ、真名を言えば楽にしてやる」と、リディアを脅した。


 だが、リディアは、師であるリリアーナとアルフレッドから学んだ、三原則の一つ「物語整合」を思い出した。


 彼女は、拘束された「囚人役」を演じ、心の内で、物語の整合性を保ちながら、拘束魔法の穴を探した。

(囚人は、絶望し、静かに死を待つ。だが、私は違う。私は、希望を捨てる司書ではない。)


 彼女は、小声で希望を語る古典語ルーメごを陣に差し挟み、陣の前提を崩していった。


『囚人は、絶望する。だが、希望を捨てぬ囚人もいる。希望は、物語に新たな展開をもたらす』


 その頃、図書館では、リディアの失踪に気づいたアルフレッドとリリアーナが、彼女の行方を追っていた。

 アルフレッドは、リディアがつけていた、図書館の書物の貸し出し記録に、ある不自然な点を見つけた。


「これは……リディアが、意図的に残した、物語の記録だ」


 貸し出し記録の題名には、曜日ごとに一文字ずれたミスタイプがあった。そのミスタイプの頭文字を繋ぎ合わせると、廃教会の座標になっていた。


 彼らは、その記録を読み解き、リディアが囚われている場所を特定した。

 彼らが廃教会に乗り込むと、リディアは、拘束魔法の穴を突き、自らの手で拘束を解き、沈黙会の構成員たちと対峙していた。


 リリアーナとアルフレッドは、リディアの機転に感銘を受けた。


 救出後、彼らは、真名の扱いに関する、「当事者同意プロトコル」を制定した。

 それは、真名の開示や記録には、必ず本人の自発的な同意が必要であり、その同意はいつでも撤回できるという、真名保護を徹底するための新たな規則だった。


 リディアは、この経験を通じて、三原則の真の意味を、身をもって学んだのだ。

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