第41話:名無き教団
ヴァリエール子爵から一枚、王宮文庫から一枚。誓文の欠頁を二枚手に入れたリリアーナとアルフレッドは、残る一枚を探すため、図書館に戻った。
だが、その頃、王都では、新たな脅威が台頭し始めていた。
「沈黙会」と呼ばれるカルトが、真名を集めているという噂が、人々の間で囁かれていた。
彼らは、懺悔会と偽る“静音礼拝”で信者を募り、囁き声の祈りを録音することで、母音配列から真名候補を割り出す手口を使っていた。
それは、真名を操る魔法の知識を、密かに収集するための、巧妙な罠だった。
この動きは、若い司書たちにも及んだ。
ある日、司書見習いの一人が、沈黙会の誘惑に乗り、真名を教えそうになった。
だが、リディアが、彼の異変に気づき、アルフレッドに報告した。
「師匠! 見習いの司書が、沈黙会に真名を奪われそうになっています!」
アルフレッドは、すぐに、見習いの司書を保護した。
彼は、沈黙会が、真名保護の弱点を突こうとしていることに気づいた。
「彼らが狙っているのは、真名台帳だ。真名を集中管理している場所は、常に危険に晒される」
アルフレッドは、この事態を受けて、図書館の運営方針を大きく変更した。
「真名登録簿は、五分冊化し、三冊の合意がないと復元できない**閾値分散(t-of-n)**のシステムに移行する。移行期間は二週間とし、旧集中台帳は、監査官立ち会いの下で物理的に破棄する」
この決断は、知の力を悪用しようとする者たちへの、アルフレッドなりの、新たな宣戦布告だった。
さらに、リリアーナは、沈黙会の手口に対抗するため、暫定的な対策を講じた。
「偽名母音挿入」という、発声時に無意味な母音を混ぜることで、音声解析を無効化する技術だった。
これは、後に42話の当事者同意プロトコルに繋がる、重要な第一歩となった。
だが、沈黙会は、この決断を快く思わなかった。
彼らは、真名を奪うための、新たな策を講じ始める。
知を巡る戦いは、今、真名という、個人の魂の根幹を巡る、新たな戦いへと発展していた。




