第39話:父との再会
アルフレッドは、リリアーナの父であるヴァリエール子爵の屋敷を訪れた。
病床に伏している父は、以前よりも痩せ細っていたが、その瞳には、リリアーナの顔を見たとき、かすかに光が宿った。
「リリアーナ……すまない……」
父は、涙を流しながら、そう謝罪した。
リリアーナは、何も言葉をかけられなかった。
父が自分を裏切ったという事実は、彼女の心に深く刺さっていたからだ。
「私は……ライオネル侯爵の脅迫に屈した。だが、決して、心から娘を裏切ったわけではないのだ」
ヴァリエール子爵は、震える声で語った。
彼は、ライオネル侯爵の申し出に屈した後も、密かに抵抗を続けていたという。
「家臣たちの命を救うため、そして、いつか君たちが真実を明らかにする日のために、私は、ライオネル侯爵の動向を密かに探っていた。そして、この家宝箱に、君たちが探している、誓文の欠頁を隠しておいたのだ」
ヴァリエール子爵は、古びた家宝箱を、リリアーナに差し出した。
リリアーナは、その箱を開け、中から、誓文の欠頁を一枚取り出した。
それは、アルフレッドの母が残した誓文と、ぴったりと重なり合った。
家宝箱の底板からは、古紋の入った封蝋で連なる引渡し記録が隠されていた。これは、ライオネル侯爵の指示で動いた者たちの記録だという。
父は、贖罪の証として、これらの記録もリリアーナに託した。
「この誓文には、私の**影名**を綴じてくれ……本名は差し出せない。だが、盟約者としての保証には十分だろう」
ヴァリエール子爵は、そう懇願した。それは、彼なりの、罪の贖いだった。
リリアーナは、父の言葉に、静かに頷いた。
彼女は、父を完全に赦すことはできない。だが、父が、彼女を、そして家臣たちを、心から愛していたことも知っていた。
リリアーナは、父の影名を誓文に綴じ、誓文の欠頁を回収した。
この影名は保管保証としての署名で、後日の憲章発動署名とは区別される。
それは、父が最後に遺した、娘への償いの証だった。




