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第38話:誓文の残響

 エメリナが示した破れた誓文は、アルフレッドが母から受け継いだブローチに刻まれた紋様と酷似していた。

 二人は、その誓文が、真名を綴じ、守護の力を発動させるための、重要な鍵であると確信した。


「この誓文は、三枚で一式。エメリナが持つ、この一枚だけでは、その力を完全に発動させることはできません」


 アルフレッドは、そう語った。


 彼らがエメリナの私記を読み解くと、残りの二枚の欠頁けつぺいじの所在が記されていた。


『一枚は、我が盟約者、すなわちヴァリエール子爵家の家宝箱に。もう一枚は、王宮文庫の封緘棚に、秘密裏に保管した』


 私記には、盟約を交わした際の封蝋印の拓本が挟まれていた。


 リリアーナは、その記述に息をのんだ。


「私の父が……盟約者?」


 だが、エメリナは、その二枚を取り戻すには、大きな対価が必要だと告げた。


「二枚目を取り戻すには、『図書館の中立宣言』が必要となる。封緘棚の栓金は、**〈中立宣言〉**の署名印が共鳴するときだけ、温度が上がり外れるよう、誓約型の封印が施されている」


 彼らは、図書館を独立機関とすることで、知の力を守ろうとしていた。

 だが、この中立宣言は、さらに一歩進んだ、政治的な意味合いを持つものだった。


 その日の午後、アルフレッドは、病床に伏すリリアーナの父、ヴァリエール子爵に面会するため、屋敷へと向かった。


「義父上。お話したいことがあります」


 ヴァリエール子爵は、アルフレッドの訪問に驚き、しかし、どこか安心したような表情を浮かべた。

 彼は、アルフレッドが持つ、母の遺品であるブローチを見て、静かに言った。


「それは……エメリナが、君に残した最後の希望だ。そして、私は……その希望を、守ることができなかった」


 ヴァリエール子爵の言葉は、罪の意識に満ちていた。

 彼は、ライオネル侯爵の陰謀に加担したことを悔い、しかし、娘と家臣を守るために、密かに抵抗を続けていた。


 アルフレッドは、義父の言葉に、静かに耳を傾けた。

 彼は、義父が、権力欲に駆られて陰謀に加担したわけではないことを理解した。


 そして、二人の間には、言葉を介さずとも、深い理解と、新たな信頼が芽生え始めていた。


「明朝、暫定の文面で構いません。私とリリアーナで、図書館の中立宣言に共同署名に向かいます」

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