第35話:過去との決別
若い司書たちが加わったことで、図書館は活気を取り戻しつつあった。
アルフレッドとリリアーナは、彼らが魔法を学び、成長していく姿に、深い喜びを感じていた。
だが、アルフレッドの心には、まだ拭いきれない影があった。それは、過去に起きた「魔術師殺し」の事件と、彼自身の家族の裏切りという、深い傷だった。
ある日の午後、リリアーナは、書庫の奥で一人静かにたたずむアルフレッドの姿を見つけた。
彼は、かつて母親が記した魔法の書を手にしていた。その表情は、いつになく憂鬱そうだった。
「アルフレッド様……」
リリアーナは、そっと彼に近づき、声をかけた。
アルフレッドは、振り返り、かすかに微笑んだ。だが、その微笑みは、どこか寂しそうだった。
「リリアーナ。私は、母の願いを叶え、真実を公表することができた。だが……父が、その陰謀に加担していたという事実を、まだ受け入れられずにいる」
彼の言葉には、深い悲しみが滲み出ていた。
彼は、長年、父を信じ、彼の行動を正しいと信じてきた。だが、『パリンプセストの書』が示した真実は、彼が信じてきたすべてを否定するものだった。
「それは、とても辛いことです。ですが、アルフレッド様は、もう過去の鎖に縛られる必要はありません」
リリアーナは、アルフレッドの手をそっと握った。
「あなたには、もう、真実を追求し、すべてを背負う必要はないのです。あなたは、もう一人の英雄ではありません。私の夫であり、この図書館の主人です」
彼女の言葉に、アルフレッドはハッとした。
彼は、ずっと「英雄」として、あるいは「復讐者」として生きてきた。だが、リリアーナは、彼をただの一人の人間として見てくれていた。
「君と出会ってから、私は多くのものを得た。真実、そして……愛を」
アルフレッドは、静かに言った。
リリアーナの存在が、彼の心を癒し、孤独な人生に光を与えてくれた。彼は、リリアーナという光を得て、真の意味で救済されたのだ。
彼は懐から、常に身につけていた母の遺品、真名が刻まれたブローチを取り出した。そして、それを図書館の宝物庫へ寄託した。
(これで、私の復讐心という重荷も、君の愛という光に変わるだろう。)
「私は、もう過去に囚われることはない。これからは、君と共に、この図書館を、そしてこの世界を、未来へと導いていこう」
そう語る彼の横顔は、清々しいほどに晴れやかだった。
彼は、もはや、過去の英雄や復讐者ではない。彼は、リリアーナという愛を得て、新たな人生を歩み始める、ただ一人の男だった。
その日の夕方、二人は、図書館の庭で、満月を見上げていた。
静かな夜空の下で、アルフレッドは、もう悲しみを抱えてはいなかった。彼の心は、リリアーナという光で満たされていた。
二人の愛は、過去の傷を癒し、未来への希望を紡いでいく。




