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第34話:世界の再構築

 リリアーナとアルフレッドの指導のもと、若い司書たちの修行が始まった。彼らは、古書に記された知識を学びながら、物語を心から「信じる」力を養っていった。アルフレッドは、自身の持つ魔法の力を見せ、それが単なる術ではなく、知と心が結びつくことで生まれる創造の力であることを教えた。リリアーナは、前世の司書としての知識を活かし、古書の奥深さに触れることの喜びを伝えた。


 最初の授業で、アルフレッドは黒板に魔法の三原則を書き記した。


「この図書館で学ぶ新たな魔法、すなわち書物具現化術ストーリー・マテリアライズには、三つの原則がある」


一)物語整合:書物の内容と矛盾しない。

二)真名保護:術者の真名がなければ発動しない。

三)代償管理:現実に干渉する力の対価を理解する。


 これらの原則は、かつて魔法が失われた原因となった、力の濫用を防ぐためのものだった。


 最初は誰もが戸惑っていた。

特に、アルフレッドが持つ魔法の力は、彼らにとって、遠い伝説の中の出来事のように思えたからだ。

だが、アルフレッドは、言葉ではなく、行動で彼らに示した。

彼は、小さな風の魔法で、書庫に舞う埃を優しく払い、光の魔法で、薄暗い書庫を明るく照らしてみせた。

それは、彼らが知る「非科学的で危険な魔法」とは、かけ離れたものだった。


「アルフレッド様、その力は……」


 見習いの司書の一人が、震える声で尋ねた。

アルフレッドは、静かに答えた。


「これは、人を傷つけるための力ではない。世界を、より良くするための力だ」


 リリアーナもまた、彼らを助けた。

彼女は、古書の修復方法を教えるだけでなく、そこに記された物語の魅力を語った。


「この本には、遥か昔、空を飛ぶ鳥を愛した王子の物語が記されています。彼は、鳥と共に空を飛ぶことを夢見て、この魔法を生み出したのです」


 リリアーナの言葉に、見習いたちの瞳は輝きを増した。彼らは、魔法が、人々の純粋な願いや夢から生まれたものであることを知ったのだ。


 若い司書たちは、毎日、熱心に学び続けた。彼らは、アルフレッドとリリアーナが持つ知識を、まるで乾いた大地が水を吸い上げるかのように吸収していった。そして、その知識は、彼らが持つ新たな発想と結びつき、予期せぬ形で開花していく。


 ある日、一人の見習いが、古書の修復作業中に、小さな魔法陣を具現化した。それは、破損したページを自動で修復する、シンプルな魔法だった。だが、その修復範囲は、半径数センチメートルに限定され、羊皮紙ようひしにしか効果がなかった。

アルフレッドとリリアーナは、その光景に驚きと喜びを覚えた。


「これは……。かつて、誰も考えつかなかった魔法だ」


 アルフレッドは、そう呟いた。

彼らが再構築している魔法は、過去の知識の単なる再現ではなかった。

それは、新たな世代の創造性によって、さらに進化し、発展していく、「生きている知識」だった。


 リリアーナは、この光景に、深い感動を覚えた。

彼女とアルフレッドが命を賭けて守り抜いた真実が、今、新たな世代によって、より輝かしいものへと昇華しょうかされようとしていた。


 失われた魔法の知識は、少しずつ蘇り、世界は新たな時代へと向かっていた。そして、その中心には、リリアーナとアルフレッド、そして彼らが育てる「新世代の司書たち」の姿があった。


 その日の午後、アルフレッドは王に宛てた書簡に、こう記した。


「長年の懸案であった、旧・王立学術図書庫の復旧が完了いたしました。つきましては、今後、この場所を『王立魔法図書館』として正式に復称することを、ご承認願いたく存じます」


 彼らが紡ぐ物語は、この世界を、愛と叡智に満ちた、より良い場所へと変えていくのだろう。

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