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第30話:穏やかな日常

 図書館の再建作業が進むにつれて、リリアーナとアルフレッドの生活は、穏やかで満ち足りたものになっていった。かつて彼らを追いつめていた喧騒や陰謀は、遠い過去の出来事のように感じられた。


 朝、リリアーナが淹れた温かい紅茶を二人で飲む。

アルフレッドは、かつて執務室で飲んでいた紅茶よりも、この場所で飲む紅茶の方が、何倍も美味しいと感じていた。


「君の淹れる紅茶は、いつも温かいな」


 アルフレッドがそう言うと、リリアーナは、はにかんだように微笑んだ。


 日中は、図書館の再建作業に没頭する。リリアーナは、破損した古書を丁寧に修復し、アルフレッドは、失われた書物を探すため、図書館の資料を読み解いていく。二人は、互いの作業を邪魔することなく、静かに、だが確実に、図書館の叡智えいちを取り戻していった。


 そんな穏やかな日々の中、郵便受けには、時折、資金援助を求める細る手紙や、「呪われた書物を愛する者たち」への匿名の投書が届くこともあった。リリアーナは、投書を読み、不安を募らせたが、アルフレッドは、静かにその手紙を燃やした。


「君がこの場所を守る限り、知は、誰にも奪われることはない」


 再建作業の合間、二人は穏やかなスローライフを送るようになった。庭で花を育てたり、読書をしたり、静かで満ち足りた時間が流れていた。リリアーナは、庭に咲いた花を摘んで、図書館の窓辺に飾った。アルフレッドは、彼女が飾った花を眺めながら、静かに微笑む。


「昔は、こんな穏やかな時間が、私には縁がないと思っていた」


 アルフレッドは、過去を振り返るように呟いた。彼は、若くして宰相の座に就き、常に権力争いと向き合ってきた。孤独な日々の中で、彼は、心の安らぎを求めることすら忘れていた。

だが、リリアーナと出会い、この図書館で過ごすようになってから、彼の心は、静かに癒されていった。


「私も、こんな日が来るとは、思っていませんでした」


 リリアーナは、そう言いながら、アルフレッドにそっと寄り添った。彼女もまた、没落寸前の貧乏貴族令嬢として、先の見えない不安な日々を送ってきた。だが、この図書館が、そしてアルフレッドという存在が、彼女に新たな光を与えてくれた。


 そして、この日、図書館の扉が大きく開かれた。リリアーナが、近隣の村の子供たちに開放日を設けたのだ。

最初は、誰もが恐る恐る中に入ってきたが、リリアーナが読み聞かせを始めると、子供たちの目は輝きだした。彼らは、書物に記された物語に、夢中になって耳を傾けた。

その中のひとりの少年が、リリアーナの読み聞かせに、目を丸くして、こう尋ねた。


「お姉さん、魔法って、本当にあったの?」


 その言葉に、リリアーナは、穏やかな笑顔で、物語の続きを語り始めた。


 二人は、静かに、そして確かな愛に満ちた時間を過ごしていた。彼らの愛は、ただの感情ではない。それは、知の探求と同じくらい、奥深く、尽きることのないものだった。

穏やかな日常の中で、二人の絆は、さらに強固なものになっていった。そして、その絆は、やがて、新たな運命を呼び込むことになる。

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