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第10話:暴かれる過去の事件

 リリアーナは、完成した「真名誓約」を前に、深く息を吸い込んだ。

 それを口にすれば、『パリンプセストの書』が開き、すべての真実が明らかになる。

 彼女は、隣に立つアルフレッドを見つめた。彼の表情は、静かな決意に満ちていた。


「もし、この書物が危険なものだとしても、後悔はありませんか?」


 リリアーナの問いに、アルフレッドは静かに首を横に振った。


「君と出会って、私はこの図書館に希望を見出した。この真実を解き明かすことが、私の、そして大切な人の願いだ」


 彼の言葉に、リリアーナは力強く頷いた。

 二人は互いの真名の“一部のみ”を告げ、古典語(ルーメ語)で誓句を結んだ。

 真名をすべて明かすことは、魂を明け渡すことと同じ、この世界では最も重い禁忌とされていたからだ。


 すると、リリアーナが抱える『パリンプセストの書』が、微かな光を放ち始めた。

 光は徐々に強くなり、彼女の手を包み込む。

 そして、固く閉ざされていた書物のページが、ゆっくりと、音もなく開いた。


 書物のページは、真っ白だった。

 だが、そのページに、二人の心が共鳴し、リリアーナが持つ知識が流れ込んでいく。

 彼女が解読した古典語(ルーメ語)、魔法陣、そして過去の歴史の断片。

 それらが、光となってページに浮かび上がり、物語を紡ぎ始めた。

 それは、読む者の理解を反映する『パリンプセストの書』の特性だった。

 彼らの思い込みが、真実を歪めてしまう危険もある。

 だが、二人の心は、真実を求める純粋な思いで満たされていた。


 浮かび上がったのは、十年前の「魔術師殺し」の事件の真相だった。

 魔法が、再びこの世界で力を取り戻そうとしていた。

 しかし、その力を恐れた宮廷内の権力者たちが、魔法の力を独占しようと企んだのだ。

 彼らは、魔法の力を危険なものとして民衆に偽り、魔術師たちを次々と抹殺していった。


「……やはり、そうだったのか」


 アルフレッドは、静かに呟いた。彼の瞳は、怒りと、深い悲しみに満ちていた。

 彼は、かつて大切な人を失った。

 その大切な人は、魔法の力を信じ、この世界をより良くしようと願っていた魔術師の一人だったのだ。


『パリンプセストの書』の物語は、さらに続く。

 宮廷の重鎮たちは、魔術師たちを殺害した後、すべての魔法の知識を抹消しようとした。

 その首謀者として記されていたのは、ライオネル侯爵。


 その時、アルフレッドの脳裏に、幼い頃に見た父の手帳の切れ端が蘇った。

 そこには、ライオネル侯爵と交わされた密約の内容が記されていた。


「これは……」


 リリアーナは、書物に記された名前に息をのんだ。

 そこには、アルフレッドの父の名が、ライオネル侯爵の隣に記されていたのだ。


「父……」


 アルフレッドは、その名を見た瞬間、視界が歪み、手足の感覚がなくなるのを感じた。

 彼がこれまで追ってきた真実が、彼自身の最も信頼していた家族によって歪められていたという、絶望的な事実に打ちのめされていた。


 リリアーナは、アルフレッドの苦しみを察し、そっと彼の手に触れた。

 彼の表情は、深い絶望と、裏切られた悲しみで歪んでいた。

 だが、リリアーナは、彼を一人にしないと決めていた。

 この図書館の物語を、最後まで見届けると決めたように、彼の人生の物語も、共に歩んでいきたいと願った。

キャラクター紹介(第10話時点)


リリアーナ・ヴァリエール:

貧乏貴族の令嬢。古典語(ルーメ語)を解読し、『パリンプセストの書』を開くことに成功する。過去の事件の真相と、宮廷内の陰謀、そしてその首謀者を知り、アルフレッドの苦しみに寄り添おうとする。


アルフレッド・レノックス:

若き宰相。リリアーナと共に『パリンプセストの書』を開き、過去の「魔術師殺し」の事件の真相を知る。事件の首謀者が、彼自身の家族と繋がっていることを知り、深い絶望を抱く。


ライオネル侯爵:

宮廷の重鎮の一人。過去の事件の首謀者として、その名が『パリンプセストの書』に記されていた。

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