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TSエルフの冒険譚  作者: 巌沢雪乃
序章 開拓村
9/23

コマ

 メインキャラを出したい欲に負けて七話から十話まで一挙公開します…!(九話)

 家の横にある薪置き場へと向かう途中、ユノンは「いいないいな」と手に持つナイフを覗き込んでは羨んでいた。

 こんな危険物を子供に持たせるわけにもいかずなんとか言い聞かせつつ手頃なサイズの薪を探す。


「これにしようかな…ちょっと危ないから離れていてくださいね」


 既に割られた薪の中である程度の太さがある物を手に取り切り株の上に寝かせて置く。コマを作るには余りに長すぎるので使えるサイズにしなければならなかった。

 切り株に立てかけられた斧を手に取る。この村の数少ない鉄の斧の内の一つがこれだ。

 薪の在庫がなくなりそうになった際、手伝いとして薪割りの仕方を教わったため少しは斧の扱いがわかる。あくまで縦向きに割る際の使い方しか教わっていないのだがなんとかなるだろう、そう思っていた。


 ユノンがしっかりと離れたのを確認し、斧を両手で握る。すっぽ抜けたりしないよう何度か握り直し狙いを定める。

 斧を振り上げ、刃を当てたい場所をよく見る。大きく息を吸い、止め、振り下ろす。


 ガッ


 鈍い音がした。同時に腕に強い衝撃が走る。柄に触れていた手がじーんと痺れた。


「いったぁ…」


 手を押さえてひぃひぃ言いながら確認すれば、斧の刃は薪の三分の一程度しか食い込んでいなかった。かなり全力で振り下ろしたはずなのだがどうも力が足りていないようだった。


「くぅ…」


 諦める気はない。もう一度柄を握り、薪に足をかけて力を込めて引き抜く。


 もう一度構える。同じ場所にちゃんと当たるようしっかり狙いを定める。


「よい…しょお!」


 掛け声と共に振り下ろした斧は先程の位置からややズレた場所に当たり、また三分の一ほどの位置まで食い込んでいた。


 軽く絶望した。あまりに手が痛すぎる。この時に少し考えて大人を頼ればよかったものの、なぜかメグの中のおじさん部分のいらないプライドが顔を出してしまった。


 九回。それが最初の二回を除きメグが斧を振り下ろした回数である。すっかり治りきっていたマメが柔らかな手のひらにまたできていた。

 しかし目的は達成である。大人の拳ほどのサイズの木材を確保できた。


「もう大丈夫ですよ」


 そう声をかければユノンが駆け寄って来た。


「お姉ちゃん大丈夫?」


 ユノンはメグの頑張りをしっかりと見ていたようで心配そうな顔をしながら顔を覗き込む。「はい、大丈夫ですよ」と微笑んで頭を撫であげれば花が咲くように笑顔になる。


「それどうするのー?」

「おもちゃを作るんです。遊ぶ道具ですね」


 手元にある木材を興味深そうに覗き込むユノンはメグの言葉を聞いて目を輝かせた。


「どんなの!?どんなの!?」


 興奮してその場で体を跳ねさせる姿に苦笑しつつ「内緒です」と言い、その辺の大きめの石の上に座った。

 ナイフを鞘から抜く。刃渡十センチ程度のそのナイフは両刃になっており扱いに気を付けなければあっという間にどこかを怪我してしまいそうだった。


 頭の中に完成品のイメージを浮かべる。想像するのは手よりゴマと呼ばれる物である。軸を両手で挟み込むように持ち、前後に擦るように動かし勢いを付け手を離す、という形式の物だ。

 ドリルのような物があれば軸の部分を別に作るのだが生憎この村には存在していない。そうなると軸までも自分で削らなければならない。

 回すのに最適な形状というのを知らないためとりあえずはキノコを逆さにしたような形状のものを作ることにした。


 ナイフを木材に当てる。思いの外すんなりと刃が通り焦ったが、落ち着いてゆっくりと形を思い浮かべながら削る。削る。削る。


 初めは周りをうろちょろと歩き回っていたユノンだったがやがて退屈したのかメグの側で寝転び寝息を立て始めていた。

 気温は低くないとはいえ風も吹くこの環境で寝ていたら風邪をひいてしまう。


 メグは一度、ユノンを起こさぬようゆっくりと家の中に入り元々身につけていたローブを持ち出した。あれだけ泥だらけになっていたローブだが水で流すだけであっという間に綺麗になった。

 このローブ、魔法の品なんじゃないかね?エマ婆さんの言葉である。

 グレイウルフから逃げる際、枝に引っ掛けたり最後にすっ転んだりと散々な扱いをしていたはずだが糸のほつれすらなく綺麗な状態を保っていたためメグもなんらかの魔法がかかっていると確信している。


 閑話休題。ローブをユノンにそっとかけ続きに取り掛かる。日は随分と傾いており、結局その日にコマを完成させることはできなかった。


◆◆◆


 翌日の昼下がり、ついにコマが完成した。彫刻などした経験はないためかなり不恰好ではあるが作りながら試したところそこそこ回ったのでよしとする。

 その辺に落ちていた平たく粗目の石ころで表面をならすように削りようやく出来上がったそれは我ながら最高傑作だと言わざるを得なかった。


 当然の如く傍らにはユノンがいる。ついでにエリックも何をしているのかと昼食後あたりにやって来た。更に言えば興味深そうに後ろからエマ婆さんと、木こりをしているアゴヒゲのおじさんことアルフもいた。


 なんだかやりにくさを感じながらメグは薪割りをする切り株の前に立った。コマの軸をしっかりと手で挟み込み前後に擦り合わせる。

 今だ。そう思ったタイミングで一際勢いを増した手を離せばやや軸がブレつつもそこからおよそ三十秒ほど周り続け、やがて倒れ込み切り株から転げ落ちた。


「「おお〜」」


 その場にいたメグ以外の人々が感心したように声を上げる。


「すごい!これ何!?」


 エリックがキラッキラに目を輝かせている。ユノンのまん丸な目もそれに負けず劣らず輝いていた。


「これはコマ、といいます。なんとなく覚えていたので作ってみましたが…上手くいってよかったです」

「なあ、俺にもやらせてくれよ!」


 真っ先にコマに食い付いたのはまさかの、子供ではなくアルフだった。


「ズルいぞおじちゃん!」

「ズルいー!」


 エリックとユノンの抗議にまるで気にした様子もなくアルフはコマを拾い上げ、見よう見まねでコマを回そうとした。しかし上手く勢いが付けられていないようで五秒と立たず転げ落ちてしまった。


「やーい下手くそ!次ぼくがやる!」


 エリックが我先にとコマを拾い軸を手で挟み擦り合わせやがて離す。しかしやはり上手くいかずすぐに倒れてしまう。


「ユノンも…!」


 しょんぼりと項垂れるエリックに目もくれずユノンも同じようにコマを回そうとする。そのままやればきっと同じように失敗するだろう。

 そう思いメグはユノンの背後から手を回し、そっと彼女の手を包み込むように添える。


「難しいのでまずは一緒にやりましょうね」

「うん!」


 ニコニコの笑顔で見上げてくるユノンに笑顔を返しつつ手を動かし始めればすぐに手元に視線を戻した。「いち、にの…さんっ」と声を出し手を動かすと今度はコマがいい感じに回り始めた。


「やった…やったぁ!できた!」


 その場に跳ねて喜ぶユノンを見る大人の目は穏やかであったが、対してエリックは「ズルいぞ!」っと地団駄を踏んでいた。


 二十秒と少し、回り続けたコマが転げ落ちると次はエマ婆さんがそれを拾い上げた。


「ヒッヒッ、儂もやってみようかねぇ」


 手伝おうと近寄ろうとしたメグを片手を上げることで制したエマ婆さんは、多少おぼつかない手つきで手を前後に動かし、静かに離した。

 重心がややズレているため軸が多少ブレているものの驚くほど安定感を持ったコマは、三十秒を優に超え、およそ一分間回り続けるという記録を叩き出した。


「こんなもんかね」


 満足気に呟きその場を離れたエマ婆さんの姿が家の中へと消えるまで、その場にいた四人全員ポカンと口を開けて見つめることしかできなかった。

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