異変
短いです。
翌日、朝食を済ませたメグは一人で冒険者ギルドへとやって来ていた。
「おはようございます」
「おはようございますメグさん。冒険者証の用意は済んでいますので少女お待ちください」
朝にはできている、という言葉に嘘偽りはなかったようで実にスムーズな対応である。
戻ってきた受付嬢の手にはトレイが持たれており、その上には銀色に輝く冒険者証が置かれていた。
傷一つないプレートには『メグ』と書かれており、自分が本当に銀級の冒険者になったのだなとぼんやりと思った。
「こちらが新しい冒険者証です。ご確認ください」
カウンターに置かれたトレイから冒険者証を持ち上げるメグ。裏面を見ると預けている硬貨の残高等が刻み込まれている。
これは受付嬢にしか使えない魔法によって刻まれているらしく、改竄はほぼ不可能と言われているのだとか。
「ありがとうございます」
お礼を言い、メグは受け取った冒険者証を首にかけた。
それを確認した受付嬢は口を開く。
「この度は銀級へ昇級された、ということでいくつかの説明をさせていただきますね」
そこから始まった説明はサーラから聞いたことのある内容ばかりであった。
銀級の依頼の危険性についてや、金級への昇級方法等を聞いた。
銀級はある程度の信頼を得た、ある程度の実力を持つ冒険者となっており行動に責任が伴ってくる。
貴族や商人等の身分がしっかりしている存在からの推薦を一定数得ることで、金級への昇級ができるそうだ。
「説明は以上になります。質問はございますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
メグはお礼を言って立ち去る。
ギルドの外に出て大きく息を吐いた。吐き出した白い息が宙へ溶け込み消えていく。
未だに現実味がないな、とメグは思った。生活する中での行動、得る情報のどれもが前の世界と違いすぎる。
いつかこの違和感も消えるのかな。
メグは下を向き自らの手を見る。小さな手、細い指が自分の意思に従い動く。
もう一度ため息を吐いたメグは歩き出した。
宿への道中、大きな通りを歩くことになる。そこにはいくつかの屋台が出ており、たまにメグもそれを巡ることがある。
「ん?」
今日はトビウサギの串焼きでも買っていこうかな、なんて考えながら歩いているとなにやら人混みができているのに気付く。
なんだろうと思いメグがそちらへ近付くと人々の声が少しずつ聞こえ始めた。
「なんでこんな場所に…」
「いったいどこから…」
「あの、何があったんですか?」
立ち聞きしていてもいまいち情報が得られないため、話しかけやすそうな男性に質問をしてみることにした。
「ん?ああ、どこからか街にトビウサギが侵入していたみたいなんだ。冒険者が仕留めてくれたらしいけど…怖いよなぁ」
「たまにあることなんですか?」
「いいや、生まれて初めて見たよこんなの」
見た感じ二十歳は超えていそうな彼は不安そうな顔で答えてくれた。
この街の外壁はある程度高いとはいえ、森の木々を飛び越えられるトビウサギにとって越えるのは容易いはずである。しかし、基本的に静寂の森から出てこないトビウサギが街に来る、というのにメグも違和感を覚えた。
少しずつ人が集まり人混みは大きくなるばかりで、現場の様子も見られそうになかったためメグは一旦宿に帰ることにした。
◆◆◆
宿に帰り部屋に戻るとサーラが手を振って迎えてくれた。ムスビはというと、ベッドの真ん中で大の字になり涎を垂らして熟睡していた。
「ただいま戻りました」
メグは声を抑えてサーラに声をかける。
「おかえりなさい。昇級おめでとうメグ」
「ありがとうございます。サーラがいてくれたおかげですよ」
昇級についての話は程々に、メグは先程の出来事をサーラに伝えることにした。
「帰り際に人混みができていたので話を聞いてみたのですが、街にトビウサギが現れたそうなんです」
「…トビウサギが街に?」
「はい。冒険者の方が討伐したそうですが…やはり普通ではないですか?」
サーラは眉を顰めて深く頷いた。
「森の魔物が森から出てくることなんてまずありえないわ。気になるわね、ムスビが起きたらギルドに行ってみましょうか」
「そうですね、そうしましょう。あ、串焼きを買ったので後ほどみんなで食べましょう」