報告
冒険者ギルドは夕方頃が一番混む。大抵その日の仕事を終え報告するとなるとこの時間になることが多いからだ。特に、街の仕事を主とする銅級冒険者の姿が多く見られる。
周りの建物と比べ、明らかに立派に見えるその建物は基本的に扉が開け放たれており、ちらほらと人の出入りが見られる。
三人がギルドへ立ち入ると他の冒険者から少し視線を集めた。どこを向いても大抵誰かと視線が合うため、毎度居心地が悪いなとメグは感じている。
それはさておき、ギルドの中は料理の匂いで満ちている。肉が焼ける際の香りというのは、どの世界でも共通して食欲をそそるものである。飲食スペースにて依頼の達成を祝う集団を見ていると、自分も早く宿に戻って料理が食べたいなと思うメグであった。
建物内部の奥にはカウンターがあり、そこには二人の受付のお姉さんがいる。
左のカウンターがちょうど空いたようなので三人はそちらへ近付く。
「こんにちは、メグさんにサーラさん。と、そちらは?」
「えっとこの子とは静寂の森の方で出会ったのですが…」
受付嬢に尋ねられたため、メグとサーラは今回の依頼の報告も兼ねてムスビを軽く紹介した。
「なるほど帝国の方から…。ひとまず冒険者証が失効しているので再発行手続きをお願いします。こちらの用紙に名前を書いてくださいね」
「うん、わかった!」
ムスビが差し出された用紙に背伸びをしながら記入しているのを微笑ましそうに見つめつつ、受付嬢は口を開く。
「そしてメグさん、トビウサギの討伐と納品お疲れ様です。過去の依頼主さんからの評判もとても良いので、ギルドはあなたを銀級冒険者に昇級することを決定しました。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
「よかったわね、メグ」
「はい、嬉しいです」
あらかじめ今回の依頼を無事に済ませたら昇級の可能性がある、と聞かされていたがいざ決定したとなると胸に込み上げる物がある。
「一度冒険者証を回収させていただきますね。明日の朝には新しい物を用意しますので都合のいい時間に取りに来てください」
「わかりました」
メグは首から外したプレートを手渡した。
「書けた!」
「はい、ありがとうございます。それと古い冒険者証の方も回収しますね」
ムスビの方も名前の記入が終わったようで、用紙と冒険者証を素直に受付嬢に手渡す。
「依頼の報酬金をお渡しするので少々お待ちください」
受付嬢がカウンターの奥へと立ち去ったのを見て三人は顔を合わせる。
最初に口を開いたのはサーラだった。
「ムスビはこの後どうするの?お金は持っているのかしら?」
「持ってるよ!」
ムスビが上着の中から取り出したのは小さなヨレヨレの皮袋で、それを手の上でひっくり返すと出てきたのは銅貨が三枚のみであった。
日本円にすると三十円。お金を持っているとは言えない金額である。
「あー…うん…私達と同じ部屋であれば追加のお金もかからないでしょうし一緒に来るかしら?メグがよければ、だけども」
そう言ってこちらに視線を向けるサーラにメグは頷く。
「まあ私としても困ることはありませんし。ただ、他のお客さんの迷惑になるのであまり騒いではいけませんよ?」
メグが肯定するとムスビは満面の笑みで「ありがとう!」と言いメグとサーラに抱き付いた。
もし娘がいればこんな感じなのかな、なんて考えていると奥から受付嬢が帰ってきた。
「お待たせしました。こちら報酬金の銀貨十五枚と…トビウサギの状態がとても良かったため追加報酬の銀貨五枚です。お確かめください」
メグはカウンターに置かれたトレイに銀貨が二十枚きちんと乗っているのを確認し、受け取った。
「確かに受け取りました。それではまた明日伺います」
「はい、お待ちしております」
三人は受付嬢に挨拶をして冒険者ギルドを後にする。
宿まではそう遠くない。空がまだ明るい内に普段から利用している宿、『ウサギの夢』に到着した。
「無事に戻ったか」
ドアベルの付いた扉を開くと禿頭の男性がカウンターで出迎えてくれた。
少々厳つい顔付きの彼はこの宿の主人である。彼とその奥さん、そして息子の三人で経営しているそうだ。
「こんにちは。一人増えたのですが問題ありませんか?」
「ああ、飯を食うなら当然三人分の金は貰うがな」
この宿の料金はシンプルで助かる。
一部屋借りようと思うと何人であろうと一泊あたり銀貨二枚。
食事は一人一食で銅貨五十枚。
体を拭くためのお湯は銅貨二十枚。
もっと安い宿もあったりするのだが、清潔感もあり料理も美味しく、そして主人もとてもいい人であるためメグとサーラはこの宿の常連となっていた。
「ではしばらく出る予定が無いので五泊お願いします。それと料理とお湯三人分で」
メグがカウンターに硬貨を置き、それを確認した店主が受け取り代わりに紐の付いた木の板を取り出した。
「部屋はいつも通り二階の一番奥だ」
「ありがとうございます」
満室である印となるその木の板を受け取り、三人は二階の案内された部屋へと向かう。
木造のこの宿はシンプルながらとても温かみのある内装をしている。壁に取り付けられた照明は魔石を燃料として発光する魔道具らしく、ここが異世界であることを改めて感じられる。