森へ
短めです。
数日過ごし思ったことがある。とても寂しい。毎日のように人と関わって生きていた身としては現状の孤独感に長く耐えられそうにない。
仕事が終わり帰宅をすると結局は孤独であったが一週間のほとんどを人と過ごす為そこまで苦ではなかった。しかし今はどうだ。周りに誰もいない。生き物もいない。
例え日記に「危険だ」なんて書かれていたとしてもこの場所を離れないという選択肢を脳内に留めておくことは難しかった。人の居る場所を探そうと決意した。
そうと決まればやるべきことは限られている。幸いにも障壁というのは案外広く多少森の中に入っても大丈夫なようで、いいサイズの石や丈夫そうな木の枝、何かの植物の蔓を集め道具作りに励んだ。
飢えず自由な時間を過ごせるためやや日数を掛け出来上がったのが不恰好な石斧、蔓を編み込んだこちらも不恰好なポーチ、そしてサンダル、ちょっとくらいは切れ味のありそうな石のナイフであった。
石製の道具を作るにあたり石同士をぶつけ割ることで形成しようと試みたが細かな調整ができず何度も失敗した為、ある程度の形を叩いて作ってから削ることでなんとか完成まで漕ぎつけた。おかげで柔らかな掌には擦り傷とマメができておりなんとも言い難い感情が湧いた。
とは言え、道具は完成した。子供の頃から割と手先は器用であった為初めてにしては上出来なのではないだろうか。
道具作成の合間に弓の耐久性を確かめたのだが、驚くことに木を全力で殴ったとしても曲がることも折れる事も、なんなら擦り傷がつくことさえなかった。むしろ衝撃で手が痺れたくらいである。
武器として扱うなら斧やナイフよりも弓の方が耐久力もあり硬いので優秀なのではと思いつつもせっかく作ったので斧を利用していくつもりだ。
「ふぅ…」
一仕事を終え額に滴れる汗を拭う。汚れが付くのを恐れローブを身につけていない為、全裸に手作りのサンダルというとんでもない格好で過ごすエルフという誰が見ても目を剥く光景がそこにはあったが幸いにも人が来る気配はない。
泉に浸かり汗や汚れを流ししばらく外で過ごせば少し体が冷えるもポカポカとした陽気を浴び付着した水分は気付けばなくなっていた。肌に悪そうだが布すら無い現状では仕方があるまい。
ポーチをもう一つ作成し下着等も作れないかと何度か試行錯誤すること数日、結局作ることは叶わなかったが石器を作る際にできた手の傷が大体治っていた。
蔓で作ったポーチの一つにセレストの日記、石のナイフを入れ腰に結び付ける。もう一つのポーチには先程収穫した楽園の果実を詰められるだけ詰めた。こちらも腰に結び付ける。素肌にダイレクトに当たるため少し痛いが贅沢も言ってられない。
ローブを羽織り、弓を肩に掛ける。最後に斧を利き手である右手に持てば準備は完了だ。
荷物のせいでやや歩きにくいが文句も言っていられない。不安八割、期待二割を胸に、家の泉から続く小川を下るよう歩き始めた。
◆◆◆
しばらく歩き振り向くと、楽園を囲む障壁と思われるぼんやりと光った膜のような物が見えた。つまり、既に危険なエリアに入り込んでいるということだ。
ああ怖い。もう少しまともな場所で目が覚めて欲しかった。
そんな思いを嘲笑うかのように遠くから狼の遠吠えのような声が響く。元より小心者であったメグにとってその声は体を震わせるのに十分な恐怖を与えていた。
日が真上へ上り切った頃にはいつになっても姿を現さない狼に対する恐怖はやや薄れ周囲を観察する余裕ができていた。
楽園内とは植生が大きく違うようで目に映る植物は全て見た事もない形状や色をしている。
例えば全体的に黒に近い深い緑の巨大な葉っぱ。しかしその葉脈は自然物とは思えない鮮やかな青色であり、もし口にすればロクな目に合わないのは実行せずとも明らかである。
得体が知れないという点を除けば見事な自然である。よくよく観察すればやはり見たことのない虫や鳥、挙げ句の果てには翼の生えたウサギなんて存在まで目にしていた。
ここに来てようやく自分が物語のような世界に迷い込んでいることをメグは実感していた。
楽園を出た直後とはまた違った意味合いで胸を高鳴らせ川沿いを進む。初めての外の世界で夜の帳が下りるまでもう間も無くであった。




