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TSエルフの冒険譚  作者: 巌沢雪乃
一章 カルコス男爵領
19/23

新たな出会い

 最初の方に流血表現があります。ご注意ください。

 苦手な方は◆◆◆までの文章を読み飛ばすことをお勧めします。

 サーラはリュックから縄を取り出してトビウサギの脚を縛った。そして手の届く枝に縛り付け宙吊りにする。


「じゃあやるわよ」


 腰から抜いたナイフをサーラはトビウサギの首に当てた。太い血管を切断したのか一瞬赤い液体が噴き出た。真っ白だったウサギの頭部があっという間に赤く染まった。


「うっ…ぐ」


 メグは口を押さえ、喉に込み上げる物を必死に飲み込む。

 普段からトビウサギを使った料理はよく口にする。臭みも少なくとても柔らかな肉で美味しい。


 ここがゲームの世界であるなら、魔物を倒せば死体が消滅し素材だけが残る、なんてことが起きていたに違いない。しかし現実だ。元々住んでいた世界と違ったとしてもここは紛れもなく現実の世界なのだ。


 血の勢いが落ち着いた頃、サーラはナイフをトビウサギの腹に当て、縦に切り開いた。

 流れ落ちるように出てきた内臓を見た瞬間、もうメグには耐えられなかった。


◆◆◆


 離れた場所で休憩していたメグがボーッと空を眺めていると、サーラが中身の詰まった皮袋を持ってやって来た。その中にトビウサギの死体が入っているのだろう。


「お待たせしたわね」

「いえ、すみません最後まで見られず」


 サーラが困ったような顔をする。


「気にすることはないのよ。ゆっくり慣れていきましょう」


 今後も冒険者として活動するなら命を奪う行為は絶対に避けては通れない。慣れるしかないのだ。


 その後は順調に二羽のトビウサギを狩ることができた。気が進まない気持ちがあったが今回の依頼はメグの昇級にも関わるため、どちらもメグが戦闘を行なった。


今回の依頼内容は三羽のトビウサギの納品であるため、あとは無事に帰られたら依頼は完了となる。

 ちなみに肉は肉屋に卸され、毛皮は冒険者ギルドに買い取られる。死体が綺麗に残らなければならない依頼であるため、ハンマーで叩き潰すという戦闘スタイルを取るサーラにこの依頼は向いていないと言える。


 鮮度をあまり落とすわけにはいかないため二人はトビウサギの死体を皮袋に詰め、元来た方向へ川に沿って歩き出した


 日がかなり傾いていることから、想像以上に時間が掛かっていたことがわかる。

 ほぼ丸一日動き回っているにも関わらず肉体的な疲労はあまり感じない。メグは心の中でこの体になったことに感謝した。


 空がオレンジ色に染まった頃、二人は昨日と同じように野営の準備を開始した。役割分担は変わらない。メグが枝を集め、サーラは火起こしの準備をする。


 メグは足元の枝を拾い歩く。


 ふと、人の足音が聞こえた気がした。この肉体になってからメグの聴力はかなり良くなっていた。前に比べて随分と音に敏感になったように思う。


 音の発生源に視線を向けると、そこには杖をつき片手で腹部を押さえ歩く少女がいた。身長はサーラと同じかそれより少し高い程度か。

 手に持つ杖は長く、先端には鈍く光を反射する傷だらけの金属の球が付いている。


 少女はふらつきながらこちらへ歩いて来た。メグは身構える。


「おなか…すいた…」


 ぽつりと少女が呟く。どうやら敵意はないようだった。


 メグは少女を連れてサーラの元へと戻った。サーラは見知らぬ少女の姿を見て一瞬身構えたがすぐにそれを解く。


「そちらは?」

「枝を集めていたら会ったのでお腹が空いたらしいので連れて来ました」

「そう…」


 依頼が長引くことを考え食料は少し多めに持って来ているため、一人に分け与える程度なら問題ない。


 サーラは荷物からパンを取り出して少女に手渡した。


「ありがとう!」


 少女は杖をその辺に投げ捨てて差し出されたパンに飛びつきひったくるように手に取った。


「おいしい!おいしい!」


 かなり硬いはずのそのパンをなんでもないようにパクパク食べ進める少女に二人は驚きつつも野営の準備を再開した。


 準備をしつつ彼女と会話を交わしいくつかの情報を得た。

 まず少女の名前が『ムスビ』であること。冒険者をしており等級は銅級であること。メグと同じである。


「散歩してたらお金もらえるからって聞いたから冒険者になってみたの!」


 話をしていて分かったのだがこのムスビという少女、とにかく自由だ。パンを食べ終えたと思えばメグの方へ近付き耳を触ってみたり、サーラのハンマーを持とうとして失敗してみたり。

 ため息を吐いたサーラがパンをもう一つ与えてようやくその場で大人しくし始める。


「どうやってここまで来たのかしら?結構危なかったと思うんだけども」

「ふふん、あたし魔法使いだからね!見せよっか?」


 返事を聞かずムスビはその辺に投げ捨てた杖を拾い上げ「ムムム…」と声を出しつつ難しい顔をし出す。


「ちょ、ちょっと?」


 サーラが不安に思い止めようと立ち上がったその瞬間、ムスビは杖を高く掲げ地面に振り下ろした。石突が地面に触れた瞬間、何かが爆発したかのような轟音が森中に鳴り響く。


「「!!?」」


 メグとサーラはあまりの音量に耳を押さえた。キーンと耳鳴りがする。

 それが落ち着いた時、サーラは眉をキッと持ち上げムスビを睨んだ。


「あなたこの森のこと何も知らないんですの!?ナイトメアがやってくるわよ!?まだ夕方だからいいものの、夜だったら三人まとめてあの世だわ!絶対に空が暗くなったらその魔法は使わないこと!わかったかしら!?」


 メグまでもが圧倒されるほどの剣幕で怒鳴るサーラ。それを一身に受けたムスビはというと…。


「ひぃ…ごめんなさいぃ…」


 ものすごく情けない顔で泣きそうになっていた。無理もない。サーラが本気で怒る場面など見たことがなかったメグだが、もし自分が怒られたら涙目になってしまう自信があった。

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