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TSエルフの冒険譚  作者: 巌沢雪乃
序章 開拓村
14/23

目覚め

 『サーラの冒険譚』から『挨拶』までの三話を同時投稿しています。

 物音にハッとしてメグは目を覚ました。窓からは朝日が差し込んでいる。いつの間にか眠ってしまったようだ。

 左腕に圧迫感を感じそちらを見れば気持ち良さそうに寝息を立てるサーラがメグの腕を抱き枕にしていた。


 メグは起こさぬようゆっくりと手を抜いて物音を立てずその場から離れ、一度大きく伸びをする。同時に出そうになった欠伸を噛み殺しつつキッチンに向かうとエマ婆さんが朝食の支度をしていた。


「おはようございます」

「あら、おはよう。よく眠れたかい?」


 「はい」と返事をし、顔を洗う。


 昨日の夜は実に有意義であった。知らない世界の知らない話を色々聞かせてもらった。知らない物、知らない人、知らない出来事…知らないことだらけだった。


 寝起きであるにも関わらずなんだかソワソワしてしまっていた。


「ではちょっと走ってきます」

「はいよ、行ってらっしゃい」


 メグは毎朝日課として村の中でジョギングをしている。そのため、エマ婆さんはいつものように笑顔で見送ってくれた。


 外に出ると朝日が寝不足の目に沁みた。


 仰げば空は青く、まばらに白い雲が浮いている。空はこんなに青かっただろうか。


 準備運動を済ませ駆け出すといつもよりも体が軽く感じた。

 村の中心に近い家からまずは北へ向けて走る。そして壁の近くまでたどり着いたら壁に沿うように時計回りで五周ほど走る。


 道行く人はメグに気付くと手を上げて気さくに挨拶を飛ばす。対するメグも、いつもより僅かに弾んだ声で挨拶を返していく。


 流れる村の風景を見ながら思う。この壁の外。そこに広がる森のさらに外側。

 野原が広がっているのだろうか。海が広がっているのだろうか。もしくは荒野でも広がっているのだろうか。

 何がいるだろうか。どんな植物があるのだろうか。


 自然と笑みが溢れていた。心の底から出た笑顔だった。

 サーラというたった一人の存在が、メグの心にあったぼんやりとした輪郭のない霧を晴らしていた。


◆◆◆


 普段より二周多く走り終えたメグは荒れた呼吸を整えながら歩きエマ婆さんの家へ帰る。

 扉を開けると既にサーラは起きていた。


「おはようメグ」

「おはようございます、サーラ」


 一晩話で盛り上がった結果、二人の距離は名前を呼び捨てる程度には近付いていた。

 「ずいぶん仲良くなったもんだ」と、エマ婆さんが笑う。


 水で濡らしたタオルで体を軽く拭き、衣類を着替え、食事の準備がされた食卓に腰を下ろす。


「お待たせしてすみません」


 湯気の立つ料理はどれも手が付けられておらずメグが帰るまで待っていてくれたようだ。


「ちょうど準備が終わったとこさね。さあ召し上がれ」


 朝ごはんの献立はパン、スクランブルエッグ、野菜スープだった。毎日似たような献立なのに味に飽きないのはきっと、エマ婆さんがほんの少しずつ調味料を変えているおかげである。


 食事を終えたメグとサーラはトランプを持って外出した。目的地は木材加工をしているおじさんの元だ。


 歩き始めてほどなく、家の前に置かれた椅子に座り机に肘をつく男性の姿が見えた。彼はこちらに気付くと立ち上がり手を振った。


「よおメグじゃないか!それにサーラさんもおはよう!ここに来たってことはまさか…」


 このおじさんの名前はウォズ。木材加工のエキスパートなのだそう。しかし村の誰も彼が仕事をしているところを見たことがないという、なんとも不思議な人である。


「おはようございます。そのまさかです」

「ご機嫌よう」


 メグが後ろ手に隠していたトランプを取り出し机に置く。ウォズは「おお!」と声を上げた。


「これ全部一人で描いたのか」

「はい。カードの出来が思ってる以上に良かったので私も張り切りました。ところで、これどうやって切り出したんですか?」

「はは、内緒だ」


 トランプをテーブルに並べ感嘆の声を上げるウォズの姿にメグは笑う。


「さて、約束通り一番最初に持って来ましたし何かゲームをしましょうか」


 メグはトランプを回収しシャッフルを始める。カードが厚いのに合わせ、手が小さいためとてもやりにくい。

 なんとか時間をかけてシャッフルしている間に何をしようかと考える。


「うーん……」


 いくつかのゲームの中で簡単な物、と考え最終的に選んだのは七並べであった。ルールを単純化する為にジョーカーを抜く。

 七並べは、まずはカードを配り手札の中にある七のカードを場に並べる。そして七に隣接した数字のカードを一人ずつ並べていき、誰よりも早く手札を無くすのが目的となる。ダイヤの七を持っていた人が最初にカードを置く権利を得られる。


 と、いう説明をウォズとサーラに行なった。


 三人いてサーラだけ仲間外れというのは可哀想であったので参加してもらうことにしたが、ウォズに一応確認したら快諾してくれた。


 カードを配りそれぞれが七のカードを探す。一番手はサーラだった。


 コマを作った時もそうであったが、外で何かをするとすぐに人が集まってくる。

 三人の手札が減るにつれて少しずつ観戦者が増えていく。


「よし、上がりです」


 当然だが経験者であるメグの手札が最初に無くなる。そして二人のカードもあと僅か。


「やりましたわ!」

「っだー!負けた!」


 暫しの心理戦の末、一位はメグ、二位はサーラ、三位はウォズという結果となった。


 プレイした本人である二人はルールを理解している為勝ち負けで盛り上がっているが、メグらを囲むように集まっていた村人達は微妙な顔をしている。


 そこでメグは複数人でできるゲームを思い浮かべる。ルールのシンプルさを重視した結果、次に選ばれたのはババ抜きであった。

 周りの村人を追加で七人巻き込み、それ以外の人にも分かるようにルールを説明した。


 そしてゲームが始まると、今度は大盛り上がりであった。ゲームが終わると「次は自分が」と入れ替わり立ち替わりで皆が参加していく。


 結局、この日は日が暮れるまでババ抜き大会が続いた。

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