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TSエルフの冒険譚  作者: 巌沢雪乃
序章 開拓村
12/23

女の子同士

 こういう描写難しい…。

 3/13 ようやく本筋に入れそうなため、前日譚である序章を3/14の0時にまとめて公開します。

 明日以降は夜中の0時更新に変更しますのでご了承ください。

 今日の用事はこれで一区切りとなりその場を解散することとなった。


 上半身だけでこちらを振り向き何度もお辞儀をするラマールにメグも同じようにお辞儀をすることで別れる。そしてユノンは元気に手を振りながら家の方面へと駆け出す。


「ん?」

「え?」


 いつまでも隣にいるサーラ。どうしたのだろうと首を傾げると相手も首を傾げる。


「聞いていませんの?私、滞在中の一週間ほどエマさんのお家でお世話になることになりましたの。メグさんについて行けばいいと聞いたのですが…」

「き…あー、そうだったんですね…」


 驚きのあまり聞いていませんの。と反射的に答えそうになるのを我慢した。


 よく見れば彼女は最初からそのつもりであったようでハンマーではなく荷物の入ったリュックを背負っていた。


 何かを起こすつもりは毛頭ないが、年頃の少女と同じ屋根の下というのはどうなのだろう。いくら肉体的にこちらも少女であったとしても超えてはならない一線なのではないか。

 なんてことをいくら考えたところで居候であるメグにそれを拒絶する権利はないだろうが。


「えっと、じゃあこちらです」


 案内するまでもなく目の前にある家に入るとエマ婆さんが夕飯の準備をしてくれていた。あらかじめ話が通っていたようで普段より量が多い。


 サーラを椅子に座らせ、メグはエマ婆さんの手伝いをする。と言ってもほとんどの料理が盛り付けられており後は食卓へと運ぶだけであった。まるで二人が家に入る時間を見計らっていたようである。


 ちなみに献立は野菜のスープと、最近メグが広めたハンバーグだ。

 ハンバーグは、エマ婆さんは歯が少し悪いと聞き作れそうな物を考え作ってみたところ大喜びしてもらえた。なんならこれも村で大評判となり肉屋のおじちゃんの仕事がとても増える結果となった。

 材料は割と簡単で挽肉、パンを乾燥させ砕いたパン粉、卵、塩、そして胡椒とは似ても似つかないが香りがいいという理由で採用した香辛料となっている。


 元の世界と違う点といえば、挽肉がウサギの肉であること。そして卵が鶏卵ではなくやたら丸っとした人の頭ほどあるスズメの卵であることだ。


 食事が始まってすぐ、サーラの明るい声が上がる。


「このハンバーグというのは…とても素晴らしいですわ!毎日でも食べたいくらい!」


 そう言って満面の笑みを浮かべるサーラの頬には気付いていないのかパンクズが付いていた。


 食事中の会話はあまりなかった。というのも幸せそうにハンバーグを頬張る姿をメグもエマ婆さんも暖かい目で観察していたからだ。


 夕飯が終わり食器を回収した。最近、食後に食器を洗うのはメグの仕事となっている。料理をしてもらっておいて片付けまでさせるというのは申し訳なく思い自主的に行なっている。

 この村に水道や蛇口なんてものはなく川で汲んだ水を煮沸した物を少しずつ利用している。そのため食器洗いも桶に溜めた水で汚れを落とし、最後に綺麗な水で流すというやり方だ。


 そんな光景を後ろから興味深そうに覗き込むサーラ。


「どうかしましたか?」

「見ていただけですわ。あまり見かけない光景ですので」


 口調から察していたがこのサーラという少女、お嬢様気質がある。食事の際もフォークとナイフの扱いがとても美しかった。きっとある程度地位のある家の娘であると察してはいたが冒険者をしている点から何か事情があるのだろう、とメグは深掘りしないことを心に決めていた。


「お手伝いは必要かしら」


 長らく観察されたのち、意を決したようにサーラはそう申し出た。だがもう食器の汚れは落としたし、水で流す作業も残り半分程度しかない。


「もうすぐ終わるので大丈夫ですよ」

「そうでしたか…もう少し早く声を掛ければよかったですわ…」


 そう言う横顔はとてもしょんぼりしていた。

 しかしなんだ、基本的にいい子なのだ。日中も子供の対応に慣れていなさそうだったが頑張って寄り添おうとしている姿を見て感心していた。


「あの、サーラさんにはどこで寝てもらえばいいですか?」


 食器を洗い終え広間に戻ったメグはエマ婆さんに気になっていたことを聞いていた。実は少し嫌な予感がしていたのだ。

 この家に客室というものはなく、一階には今過ごしている広間とキッチンが、二階にはエマ婆さんの寝室があるのみである。メグはこの広間に置かれた大きめのベッドを利用して寝ている。


「そりゃあんた、女の子同士なんだから一緒に寝たらいいじゃないか」


 当然のように返ってきたその返答に内心で大きく深呼吸をしていた。これでも中身は58にもなったおっさんなのだ。出会ったばかりの少女と同じベッドで眠るというのはどうなのだろうか。

 もしかするとサーラが人と同じベッドで寝ることをよしとせず断る可能性がある、そう期待してメグは横を見たが当の本人は全く気にしている様子がなかった。


「…わかりました」


 諦めて頷いた。


 その後はトランプ作成作業をしつつ、トランプでできるゲームの数々を紹介した。サーラはもちろんのこと、エマ婆さんまで「楽しみだねぇ」と口角を上げていた。


 そしてエマ婆さんが先に寝室へ行き時間が経ち、遂に五十四枚全てのカードが完成した。

 カード自体を人に作ってもらったので初めの方こそ「簡単な作業だ」なんて思っていたがいざ始めてみるとまあ終わらない。

 村の人達に喜んでもらうためとはいえ、描いても描いても続く作業に若干嫌気が差していたのは内緒である。


「わぁ…」


 いざ机の上に並べてみると壮観であった。我ながらいい仕事をした、とかいてもない額の汗を拭う。

 サーラは一枚一枚手に取ってみては感嘆の声を上げている。実に微笑ましい光景であった。


 とまあしばらくは穏やかな時間を過ごしていたのだが問題が起きる。


 寝る前になりサーラから「体を拭くので水が欲しい」と言われメグはキッチンで桶に水を溜めていた。この村に風呂という物が存在していないので体を拭くというのは当たり前の行為だ。最初こそは「湯船に浸かりたいなぁ」なんて思っていたメグだが今となっては慣れている。


 では何が問題なのか。


「お待たせしま、し……た?」


 メグは水を届けようとキッチンから出てサーラに声をかける。しかしその声は後に行くほど小さくか細くなっていった。一瞬何が起きているのか頭が理解してくれなかった。そのせいで余計にその光景を目に焼き付けてしまうことになる。


「感謝しますわ」


 笑顔でベッドの傍にいたサーラだが、先程まで身に付けていた衣類が姿を消し、恥ずかしがる様子もなく裸体を晒し仁王立ちしていた。


 綺麗だという感想が浮かんだ。しかしそれと同時に脳裏に浮かんだのは犯罪の二文字。


 喉に舌が張り付くような感覚を覚えつつ、慌てて目を逸らしながら早歩きで桶をサーラの側まで運ぶ。そしてその足元へ桶を置き、


「ではごゆっくり!」


 それだけ言ったメグはすぐに後ろを向き早歩きでキッチンまで戻った。

 そして台に手をつき深呼吸をする。心臓が早鐘を打っている。


 直接女性の裸体を見る機会などなかった。彼女ができた経験はあれどもそれ以上の発展はなかった。この世界に来る直前までずっと独身であったし、死ぬまでそうなのだと思っていたくらいだ。

 女性経験のないメグにとってあまりに衝撃的な出来事であった。


 しかしサーラがそんな事情を知っているはずもない。

 その結果…。


「メグさん、お手数なのだけど背中を拭いてくださらない?」


 サーラが濡れたタオルを持ってキッチンまでやって来てしまった。


「体が固くて届かないからいつも誰かにお願いしているのだけど、今回の依頼は女性がいなかったので誰にも頼めなかったの」


 どうする、と自分に問う。自分はおっさんなのだぞ。触れたら犯罪だろう。警察が飛び出してくるかもしれない。

 微動だにせず、気が動転して変なことを考え始めたメグの姿を見てサーラの雰囲気が変わる。


「あの、ごめんなさい。迷惑でしたわよね…」


 明らかに声のトーンが落ちている。


「歳の近い女の子と過ごすのなんて久しぶりで舞い上がっていたかもしれないですわ…」


 そう言われメグはハッとした。過去がどうであれどう見ても今自分は少女の姿をしている。そして今後も女性として生きていくのは間違いない事実でもある。

 顔を上げて振り向くとサーラは今にも泣きそうな表情をしていた。


 そうだ、自分は女なのだ。そう言い聞かせながらメグはサーラの方へ歩む。視線がなるべく下に向かないように。


「すみません、トランプ作りの疲れが出たのか立ちくらみがしていました。背中を拭くんですよね、任せてください」


 我ながら無理のある言い訳だなと思った。対するサーラは泣きそうな顔から一転、あっという間に満面の笑顔になった。


「お願いしますわ!」


 二人で桶の近くに戻り、メグがサーラの背中をゴシゴシと拭く。巨大なハンマーを持っているにも関わらず、サーラの背中は白くスベスベで、どこからあれを持つ力が出ているのだろうと疑問に思いつつなんとか無事に拭き終えた。

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