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TSエルフの冒険譚  作者: 巌沢雪乃
序章 開拓村
10/23

商人と冒険者

 メインキャラを出したい欲に負けて七話から十話まで一挙公開します…!(十話)

 コマの噂はあっという間に村全体へと広がっていた。初めは子供達、やがて大人達へと話が広がった結果、村に三人ほどいる彫刻職人のおっちゃんらがこぞってコマ作りを開始した。

 細かな原理を聞こうと鼻息を荒げた三人の大人が迫る様子はなかなかに恐怖を感じる光景であったが、ぼんやりと記憶している仕組みを地面に枝を使って描くことでなんとか説明した。


 そこからはもう一大ブームが始まった。一月もすればコマを持たない村人が居ないほどに広まり、それに合わせて「大きめの丸太を盃型にくり抜いて、その中で二人が一緒にコマを回してどっちが長く回し続けられるか。そんな遊びがありますよ」と伝えるともう大人も子供も大はしゃぎである。

 奥さんに仕事をしろと怒られるおっちゃんらの姿がちらほら見えるほどだ。


 さて、聞くところによるとここ数日の間に商人がこの村にやって来るらしい。

 年に四度ほど来るその商人は街と村を繋ぐ重要な役割をしている。今回の訪問が終われば次の来訪は三ヶ月後となる。


 少し話が逸れるがこの辺りの地域において季節は暖期と寒期の二つとなる。その境で雨は降るもののそこまで酷くはならない。ちなみに今は暖期である。

 暖期は収穫期であり、主に麦や芋(に似た植物)を。寒期では木材を領主である男爵家へと納入しなければならない。商人はそのための橋渡し的な役割も担っている。


 そして数日が経過する。メグがやって来たのとは反対の門から村へとやって来たその商人は馬車に乗り、その馬車の横には巨大なハンマーを背中に携えた銀髪の少女が歩いていた。

 商人は村人達とは何度も顔を合わせた仲である。村の様子も見慣れたものであった。しかしどうも普段と比べ様子がおかしいなと首を傾げている。

 違和感の正体、村人達の様子だ。視界に映る彼方此方で何やら丸太を囲んで盛り上がっているのだ。

 商人が馬車から降りる。


「これはこれはラマール殿。此度も御足労いただき感謝する」

「ご無沙汰しておりますエルド殿。いえ、この村にはいつも世話になっている故そこまで苦労には感じませんとも。ところで、村の方々はいったい何をしているので…?」


 ラマールと呼ばれた、腹に立派な肉を携えた商人は村長であるエルドとの挨拶もほどほどに村の様子について問いかける。それに対しエルドは笑いながら答える。


「はっはっは、あれはコマといってですな、ちょうど二月ほど前に村にやって来た娘が広めた玩具ですぞ」

「ほう…?」


 コマという初めて聞く名前、そして村にやって来た娘という普段聞かない情報に興味をそそられたラマールは近場で丸太を囲む村人達へ歩み寄り覗き込んだ。


「いけ!そこだ!」

「なんのこれしき!今だそこをやれ!」

「ぐぁぁあ!!」

「いよっしゃぁあああ!!」


 そんなやり取りをしているのは子供ではない。立派な大人であった。


「これはいったい…」


 困惑しつつも見ているとどうやら次の試合が始まるようだった。見たこともない形状のそれを二人の男が両手で挟み込むようにして持つ。そして「いち、にの、さん!」という掛け声に合わせて手を擦り合わせるように動かしそれを離す。

 するとなんということだ、片方は赤の印が、もう片方には黒の印が付けられたコマと呼ばれる二つのそれは綺麗に回転しながら丸太の窪みを滑るように降り、中央付近で音を立てぶつかり合った。しばしの攻防の末、やがて回転を止めたのは黒のコマであった。


「くそっ!また負けた!」

「腕が足りてないんだよ腕が!」


 実にシンプルな遊戯だが、商人のラマールの目にはこれが財宝のように輝いて見えていた。


「エ、エルド殿!これを広めた娘というのはどちらへ!?」


 凄まじい勢いで詰め寄るラマールに一瞬狼狽えたもののすぐに周囲を見渡し、そしてすぐにその姿を捉えた。


「あそこです。ラマール殿が連れていた護衛と話しているようです」

「おお、あの少女が…む?エルフですか?」

「そのようですな。生まれてこの方エルフなど見かけなかったのですが、関わってみると意外にも我々と変わらぬ感性を持っているようで」

「ふむ…」


 彼はしばらく彼女の様子を見ていたが、意を決して一歩踏み出した。これが、メグとラマールの長く続く関わりの始まりであった。



  ◆◇◆◇◆



 ほんの少し時間を遡る。

 村長とラマールが挨拶をしている後方で噂を聞きつけたメグはひょっこりと顔を出していた。


 存在は知っていたが、日本で見ることなど絶対にない馬車という物を見て感動していた。

 そして観察しているとその傍に立つ少女がこちらを見ているのに気が付く。


銀色の髪を一つに纏め、気の強そうな吊り目には燃えるような赤い瞳が輝いていた。

 身長と顔付きから自分と同じか少し上の年齢かと推測する。

 動きやすさを重視しているのか、長袖のシャツに短パン、そして胸部と関節部に金属の装甲を身に付けている。

 何より目を引くのは背中に背負っているハンマーだ。身長よりも長い柄にはいったい何キロあるのか見当もつかない巨大な黒光りする金属の塊がくっ付いていた。よくよく見れば柄も光沢を持っているため全てが金属製であるようだった。


 観察ばかりしていては失礼だと物陰から出て少女の元へと歩み寄れば、彼女はふわりとお辞儀をしてこちらを歓迎した。


「ご機嫌よう」

「ど、どうも」


 表情はとても柔らかく可憐な淑女そのものなのであるがいかんせん背負っている物体の圧が凄過ぎて気圧されてしまう。


(わたくし)はサーラ。冒険者をしていますわ」


 チャリっという音がし彼女の首元を見ると銀色に輝くドッグタグが下げられていた。


「えっと私はメグです。最近この村にお世話になっている者です」


 もっと何か自己紹介で言えるようなものがあればよかったのだが生憎なんの身分もない居候である。


 しかしそんなことは気にした様子もなくサーラは一歩踏み出しメグの顔を覗き込む。


「私、エルフの方と直接お会いするのはこれが初めてですわ!噂には聞いていましたが本当にお美しいんですのねぇ!」

「ま、まぁ…ははっ」


 このサーラという少女、自覚があるのかないのかとにかく距離感が近かった。幼さは残るも将来が約束されているような美人の顔が目の前にあると、元男性であるメグがしどろもどろしてしまうのも無理のない話だろう。


 いつまでも観察されるのは実に居心地が悪いので何か話題を出さなければと考える。


「あの、この村にはよくいらっしゃるんですか?」


 なんとか出せた質問にようやく自分の行動を自覚したのか「失礼」と一歩下がったサーラは答える。


「今回が初めてですわ。この辺りについてあまり詳しくはないのですがエルフというのは近辺に居を構えているんですの?」


 メグはそれに対する答えを持ち合わせていないので村人に対して行なった説明と同じように、目が覚めたら森にいたこと、記憶のほとんどが抜け落ちていることを話した。


「まあ!苦労なさったのね…自分のことが思い出せないというのはさぞかし不安でしょうね…」

「最初こそ不安でしたが我ながら気楽なもので、今となってはこんなおもちゃまで作る程度には落ち着いていますよ」


 自分のことのように悲しそうな顔をする彼女に、メグはポケットから取り出したコマを見せながら笑顔を見せた。


「これは…?」

「えっとこれはコマといって…ん?」


 コマについてサーラに説明しようと口を開いた時、背後からの足音に気付き振り向いた。そこには小太りで高身長な見知らぬ男性が立っていた。見て分かるほどに鼻を膨らませたその男性は興奮を隠そうともせずメグに歩み寄りそして目の前までやって来ると、


「このコマというのを広めた、というのはあなたで間違いないでしょうか!?」


 サーラと同じように目と鼻の先まで顔を近付け大声を上げた。この世界の住民の距離感はこれが普通なのだろうか。

 気圧されつつもなんとか「はい、そうです」と答えられたメグであった。

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